第8話

「恋愛くらい自由にしたい!」
瀬戸くんとの通話を終えて、私は立ち上がった。


両親に勘違いされて、言われっぱなしでいいわけがない。


かつてないほどに奮起して、部屋を飛び出した。
あなた

お父さん、お母さん!

母
な、なに? そんなに慌てて……?

未だ深刻そうな顔をして手紙を見つめる両親を前に、私は深呼吸をした。
あなた

私、やっぱり……先輩と一緒にいたい! 先輩もそう言ってくれてるの!


両親は顔を見合わせて、目を丸くした。


今まで、一方的に私が傑先輩に言い寄っていると思っていたのだろう。
母
でも、相手は御曹司よ? 長続きしないし、結婚相手にしてもらえるわけないじゃない! 手切れ金ももらえるなら、身の丈に合った新しい相手を見つければいいのよ

母の言葉に、私ははらわたが煮えくりかえる思いだった。


どうしていつも、私はこの人たちの言いなりなのだろう。


気が弱いから、言うことを聞かせられるとでも思っているのだろうか。


――もう、限界だった。
あなた

自分の娘だからって、なんでも思い通りにできると思わないでほしい! 私だって、恋愛くらい自由にしたい! そんな簡単に諦められる人じゃないの!


淡い恋心は、いつしか確固たる気持ちに変わっていた。


こんなに叫んだのも、生まれて初めてだ。


両親はびっくりして、ぽかんとしている。
母
あんた、そんな大きな声が、出せたの……?
父
父さんも、初めて聞いた……

そう言われて、私ははっと我に返る。


こうやって、自分の思いを伝えられるようになったのも、傑先輩と瀬戸くんのおかげだ。


感謝の思いを噛みしめていると、ふと、家のチャイムが鳴った。
母
こんな時間に……?

もうだいぶ遅い時間だというのに、今頃来客なんて誰だろうか。


母が首を傾げながら玄関へ向かうと、やってきたのは傑先輩だった。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
夜分にすみません! あなた、ごめん! うちの親が勝手に手紙を……!

随分と慌てて混乱しているようで、事情を知るなり駆けつけてくれたのだと分かった。
あなた

先輩、落ち着いてください

朝比奈 傑
朝比奈 傑
え……? あ、ああ……

先輩を家に上げてもらい、私たちはふたり並んで、改めて両親と向き合った。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
あなたさんが言っているのは本当のことです。
近づいたのも俺の方からですし、彼女に非は一切ありません。
交際のことは認めてもらえないでしょうか
あなた

お父さん、お母さん。
お願いします……!

母
……そういう、ことなら
父
父さんは、応援するよ

ふたりで一緒に頭を下げると、ようやく両親は頷いてくれた。


真剣な思いが伝わった瞬間だった。
母
私たちはそれでもいいけれど……朝比奈さんのご両親が許さないんじゃない?

母の指摘はもっともだ。


私と傑先輩は顔を見合わせ、決意を固めたように頷いた。


【第9話へつづく】