第9話

「一緒にいたいんだ」
週末になると、事態は急展開を迎えていた。


傑先輩の必死の説明によって、彼の両親はようやく彼が本気だということを悟ったらしい。


そのため、「実際に相手のお嬢さんに会って見極める」と言ったのだ。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
あなた、大丈夫か? 顔が真っ青だ
あなた

だ、大丈夫、です……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
ただでさえ、極度の人見知りだってのに……。
ごめんな

朝比奈邸の中、応接間の豪勢な扉の前で私は首を横に振った。


一世一代の大勝負だというのに、ここで怖じ気づいていては駄目だ。
あなた

ふたりで一緒に乗り越えるって、決めたから……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
ああ、そうだな。
今日は無理に笑わなくてもいいから。
素直な気持ちを話して
あなた

……はい


扉が開くと、先輩のご両親は既にそこで待っていた。
朝比奈家・母
いらっしゃい、あなたさん
あなた

は、初めまして


高貴で洗練された佇まいに、私まで背筋が伸びる。


そこへ、後ろから瀬戸くんもやってきた。


どうやらご両親に呼ばれたらしい。
朝比奈家・母
傑の気持ちは既に聞きました。
それで、あなたさんは、傑と交際するということがどういうことか分かってるの?
あなた

は……はい。
あのっ、せ、精一杯の努力をして、見合う女性になれるよう……頑張ります

朝比奈家・母
笑うのが苦手だと聞いたけれど、社交面は問題ない?
あなた

それも、今……改善している、最中です

緊張と威圧感で、言葉が喉に張り付いてしまい、上手く話せない。


そんな私を見かねてか、隣からそっと、先輩が手を握ってくれた。


「大丈夫だ」と言ってくれている気がして、それだけで勇気がもらえる。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
彼女はうちの家柄のこともよく理解してる。
奔放な俺のことも分かってくれるし、何より、俺が一緒にいたいんだ

横から支援してくれる傑先輩に、感謝の気持ちが込み上げた。
朝比奈家・父
匠は、付き人として、彼女のことをどう思うんだい? 正直な気持ちを聞かせてほしい

先輩のお父様が、瀬戸くんへの質問を投げかけた。


彼がここへ呼ばれた意味を、私はようやく知る。
瀬戸 匠
瀬戸 匠
正直、僕も当初はふたりが付き合うべきではないと思っていました。
ですが、彼女は努力家ですし、人から向けられた気持ちに真剣に向き合える、とてもいい子だと思います
あなた

! 瀬戸くん……

瀬戸 匠
瀬戸 匠
傑のわがままも素直に受け止めてくれますし、相性も問題ないかと

否定的なことを言われてしまうかと覚悟した矢先に、べた褒めされてしまい、私は一瞬混乱した。


瀬戸くんは得意気な顔で、私たちを見つめる。


隣で、傑先輩が「くっ……!」と悔しそうな声を上げた。
朝比奈家・父
なるほど、それほどふたりは本気ということだね
朝比奈家・母
あなた、もうよろしいんじゃありません?
朝比奈家・父
そうだね、ははは
朝比奈家・母
ほほほ
突然、ご両親が笑い出した。


私たちは何が起こっているのか分からず、ただ呆然となる。


ただひとり、瀬戸くんだけは「こんなことだと思ってましたよ……」と呆れたような声を出した。
朝比奈家・母
あなたさん、怖がらせるようなことをしてごめんなさいね?
あなた

えっ?


先程までのぴりっとした空気は消え去り、穏やかな声色で先輩のお母様が言う。
朝比奈家・父
傑は、今まで全くと言っていいほど女の子に興味を示さなくてね。
今回どれだけ本気か試すために、わざとふたりを引き離すようなことをしたんだ

今度はお父様から、とんでもない真実が語られた。


つまり、簡単に離れるくらいなら、そのまま別れさせるつもりだったというわけだ。
朝比奈家・母
あなたさん、いずれうちに嫁いでくれるなら、歓迎します
あなた

へっ?
け、結婚!?


結婚まではまだ考えが及ばなかったのに、そこまで言われると、脱力するしかなかった。
あなた

(認められたってこと、だよね……?)


じわじわと、実感がわいてくる。


もう、身分違いの恋だと悩まなくていいのだ。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
やったな、あなた
あなた

……うん!


互いに頬を真っ赤にしながら、私は傑先輩と笑い合った。


それは過去一番、晴れやかな笑顔だったかもしれない。


【最終話へつづく】