あなたが歌っていたのは
《ツナグ》だった。
透き通るような繊細な歌声。
でも真っ直ぐに
心へと響いて届くような歌声。
そう、あなたは泣きながら歌っていた。
声が少し震えている。
その《少し》に気づける、、。
普通皆が気づけないような
《少し》に気づいてしまう。
空を見上げると
今宵は満月。
月の光とあなたの歌声が
降り注ぐ不思議な時間だった。
そして紫耀はお風呂から上がり
廊下へ出る。
あなたの部屋に行く途中、
恭平の部屋から光がもれていた。
電気の消し忘れかと思うぐらいの
光が差している。
紫耀がのぞくと
そこには月明かりに照らされ
窓際の植木鉢を眺めている
こんぶさんだった。
そう言って鼻をすすりながら
静かに涙を流すこんぶさん。
猛達の前で涙を流すと
不安にさせてしまう。
悲しい雰囲気にさせてしまう。
そうしてこんぶさんは
ずっと我慢してきたのだろうか。
紫耀はあえて声を掛けずに
そのままあなたの部屋へと
向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!