なんとなく、覚悟はしてた。
けど、
倉庫らしき建物の前には、大量のバイク。
そして髪の毛のカラフルな人達が、いわゆるヤンキー座りで溜まっている。
「おいっ!てめぇ、何ジロジロ見てんだよ!」
しかも、そう言って、1人のヤンキーが目の前に座るヤンキーにイカつい顔面で突っかかっている……。
のを、建物の陰で見ている私。
「別に見てねぇよ!!やんのかコラ」
……ケンカ、始まっちゃうのかな。
はぁ……。
「ぶっ殺すぞゴラァ」
案の定、倉庫の前でケンカが始まった。
誰も加勢しないから、多分2人ともここのRAMPAGEって暴走族の人なんだろうなぁ……。
てかいいの?樹。
キミの仲間たち、仲間割れしてるよ?
そんでもって入るタイミングを完璧に逃しちゃったよ!!
その時、
「か、壱馬さん!」
「すいやせん、えっとこれは……」
ケンカの仲裁に入ったのは、壱馬だった。
っていうか壱馬すごいな……。
あの不良たち抑えちゃうんだ。
めっちゃ敬われてるし!!
けど、私からしたら転校初日にみた壱馬が忘れられないけどね……。
……あの、例のスキンヘッドを吹っ飛ばした奴。
壱馬は喧嘩していた2人にニコニコと接しながら、肩をポンポンとして倉庫の中に戻ってく。
ん……?
もしかして今チャンスなんじゃ?
ここで壱馬に声かけないと、私たぶん一生樹のところに行けない!
「何してんだてめぇ」
壱馬、と彼の名前を呼ぼうとした時、誰かに遮られた。
ケンカに気を取られていて、建物の陰からかなり体が出ていたらしい。
一瞬にしてヤンキー5人に囲まれた。
って!!
さっきケンカしてた2人もいる!!
この人たちRAMPAGEだよね?
なんか怖いんですけど……。
「何してんだって聞いてんだよ」
怖い怖い怖い!!
そのツンツンに立った金髪で身長が上増しされているせいか、デカく感じる。
「早く言えよ!!」
だから今、言おうとしたじゃん?
話を聞け短気野郎……。
「翔吾さん、コイツどうします?」
そのヤンキーは、自分の身長より20センチは低い可愛らしい幼い顔立ちをした男の子に声をかける。
てか、え?
この男の子の方がお偉いさんなの?
どう見ても小学生……。
チビとは思ってないよ!!
小学生……って思っただけ!!
という意味を込めて、私は首を横にブンブンと振った。
なんだコイツ。
しかも私の方が絶対に高いよ。2センチくらい!!
大事な2センチを、同じくらい、なんていわないでほしいかな!
……けど、コイツは偉いんだよね?
あっ……。
やっぱりコイツ、人の上に立つ人間だ。
雰囲気が、もう真っ黒というか。
重いというか。
そんなオーラを出している。
こんな状況で睨んだ顔が少しかわいいと言ったら、絶対に殺される……。
何このチビ!!
樹に……って言っただけじゃん!!
なんで死ななきゃなんないの!?
死ねしか言えないなんてガキだ!
お子ちゃまだ!小学生だ!!
「翔吾さん……。コイツ、総長のただの追っかけかもしんないっすよ。彼女じゃないですって」
は……?ちんちくりん?
「そうっすよ〜、顔面偏差値は、今まで倉庫に来た女の中でダントツにビリですよ〜」
は?
何つったコイツ。
黙れ小学生。
しかも顔面偏差値って……。
なに北人と同じこと言ってんの。
「で?お前なんの用だよ。顔面偏差値52!!」
ふざけんな金髪ッ!!
52とかなんでそんな半端なのか。そして、なんで北人の評価より8も低いの!!許さない!!
翔吾はフッと笑う。
申し訳ないけどね!!
あんたたちの頭の偏差値の方が低いわ!!
絶対!!
統一模試でも受けてこい!!
とくに、そこの小学生!!
腹立つけど、早くジャガイモを用意しなければ。
翔吾は目を見開いて、私をありえない、とでも言いたそうに見ている。
う〜ん……。
こっちも好きで樹を訪ねてるわけじゃ……あ。
最初からそうすれば良かったんだ〜。
私バカだ。
な〜んかコイツ、翔平に似てるな。
上から目線だし。
でも、翔平の方がかわいげあるかな?
いや髪の毛は翔平の方がイカついけど。
は?
頭悪いな。
やっぱり私の顔面偏差値より、キミの頭の偏差値の方が低いんじゃないの?
そう叫んだ時、
聞き覚えのある、ヤンチャな声が……。
だよね、やっぱりね〜。
まぁ私からしても救世主……。
んなわけあるか!!
私がジャガイモだと!?
ダメだ……。
翔平ダメだわ……。
コイツが?
俺たちの誇れる幹部の知り合い?
とでも言いたげな顔だ。
おまけに私を指でさしながら。
人に指向けちゃダメだって教えられなかった?
そんな翔吾を気にせず、翔平は私の背中をバシバシと叩いた。
痛い、背中が。
そして、私は地味じゃない!!
翔平が私を睨む……んだけど、すぐに子犬みたいな目をされた。
えー、私が悪いの?
翔平は私の頭をわしゃわしゃとした。
いやいや?
私翔平のメアドや電話番号なんて……。
入れておいた?
私の携帯に?
翔平のメアドを?
私は、すぐさま携帯を開き、連絡先一覧を見る。
そこには【ショーへー】とカタカナで書かれたメアドと電話番号が登録されていた。
いつ登録したのか、まったく見当もつかない。
そもそも、年頃の女の子の携帯を勝手に開くなんてどうかしてる!
全国のガラケー使用者に謝れ。
ガラケーはいいよ!?
画面も割れないし、文字も打ちやすいし!!
THE・携帯って感じがするでしょ!?
翔平は翔吾に掴みかかった。
待て待て待て?
私は、翔平の頭をペシッと叩いた。
翔吾はうつむきながら、首を横に振った。
どこまでも小学生だな。
ちっちゃいし、なんでそんなに強気なのか。
ふんっと私は翔吾に背を向けると、倉庫へ歩き出した。
その時、
翔吾の憎たらしい声が聞こえた。
私はゆっくり振り向くと、その声に返した。
なんで呼び捨てにしてんの!?
ったく、年下のくせに。
けど、ヤンキーなのに、なかなかかわいいと思ったのも事実だったりする。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!