第29話

かわいすぎ
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2020/10/08 09:20
樹side



『ちゃんと見張っててよね』



少し弱々しいあなたを前に、初めて守ってやらなきゃって思った。


あなたの気持ちに気づいた時と、あなたのことをどう思ってるのかの話の時に、俺と同じ目線で立ってくれるから好きなのかと思った。


あなたのことは、かわいいから好き、というより居心地の良さと、それは俺だけであって欲しいという少し曖昧な気持ちだった。


でもどうしよう。


今、俺はコイツのこと、かわいいって思ってる。


少し震える背中ごと抱きしめたらダメだろうか。


その自分の欲求に逆らうことなく、俺はあなたの背中にそっと手を伸ばした……。


……ところが。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ってことだから
あなたはそのまま、スススッとおれからはなれた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……明日、一緒に行かない。早く起きるのイヤだし
藤原樹
藤原樹
は?
え……ちょっと待て?


俺は行き場のない自分の手を見つめて我に返る。


さっきまでのかわいさ、どこ行った?
倉木(なまえ)
倉木あなた
……だからおやすみ。はい、もう出ていって
トンっとあなたに押されて部屋を出ると、そのままドアを閉められた。


ドアの前、呆然と立ち尽くす俺。
藤原樹
藤原樹
なんなんだアイツ……!!
腹立つ!


だけどなんか、
藤原樹
藤原樹
……ヤバいって、なんか……
元からない語彙力で今の気持ちをいい表すことなんかできない。


それより……。


今の俺の顔、すごく赤いはず。


俺は顔を押えながら、あなたの部屋を後にした。

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