第43話

答え
4,061
2020/10/25 11:21
樹side

藤原樹
藤原樹
……
倉木(なまえ)
倉木あなた
……
なんだ、この沈黙。


俺はあなたの手を引いて歩いていた。


いつもガヤガヤしている通学路なのに、なんかあなたの手以外に意識がいかねぇせいか、静かに感じる。


今日はこのまま家に帰るつもりだ。


さっきその事をみんなに連絡したら、


『奪還成功?』


なんて言ってきやがった。


当たり前だろ。


俺を誰だと思ってんだ。


って言ったら、あなたがすごい顔でこっちを見ていた。


……アレはドン引いてる顔だな。


あれから、あなたに陸って奴のことを聞いた。


前の学校に連れ戻されそうになっていたとか。


でもそんな状況でもあなたは、俺たちのことをきちんと見てくれて、そしてここにいることを選んだ。


結局断られ続けてるからあなたは姫なんかじゃないし、


ましてや暴走族でも、ヤンキーでもない。


あなたは、やっぱり俺たちのことを嫌いなんじゃないかって思ってもいた。


けど、それは違ったんだな。


俺たちが少し離れている間、あなたの中できっと何かが変わったんだと思う。


俺は、その理由を聞き出すことはしないでおく。


……こうやって俺についてきてくれるなら。


あなたが話したくなる時に話してくれればいいや。


……俺は、あなたが言えるようになるまでずっと待つから。


そう思って、手を少し強く握り直す。


それに気づいたのか、あなたも俺の手を握り返す。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ありがとう、樹
ボソッと呟かれた言葉に、きゅんっと胸が鳴る。


あ〜もう、ダメだ。


俺、コイツのことがどうしようもなく好きなんだ。


好きで好きで、誰にも渡したくねぇんだ。


好きで好きで、誰にも触らせたくねぇんだ。


こんな気持ち、始めてすぎてわからねぇよ。


ふと後ろを振り返ると、俺と繋がれた手を頼りに必死についてきているあなた。


俺が振り返ったこと気づいて、顔を上げたあなたと目が合う。
藤原樹
藤原樹
……っ!!
あなたの目は涙ぐんでいて、少し困っていて……。


やっぱりダメだ。


コイツがかわいくてかわいくて仕方なく見える。


女の子だって感じてしまう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹……?
藤原樹
藤原樹
え、あ、ごめん
じっと見つめてしまっていたらしい。


足も止まっていたみたいだし。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……ねぇ樹、ごめんね……
その言葉の意味はすぐにわかった。


『暴走族じゃなければよかったのに』


あの言葉を、あなたは気にしてるんだ。
藤原樹
藤原樹
もう気にしてねぇよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
でも……っ
藤原樹
藤原樹
俺は、お前から聞きたかった言葉、もらえたから。それで十分だわ
俺は俺だから、って言ってくれた。


あなたのヤンキーが嫌いという気持ちを飛び越えて、俺とこうしていてくれるんだから。


この手を離したくないと思えるんだ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
そ、そっかぁ……
何やらあわあわとしながら俺と繋いでない方の手で前髪をいじるあなた。


ここまで好きだと、何をしてもコイツがかわいく見えてしまうのは問題だし、


過去の『ゴリラ』なんて言ったことも問題だ。


けど1番の問題は、コイツはあの陸って奴が好きだったかもしれないってことだ。


……っていうか、いとこだからそれはないか?


でもあなたは陸の正体を最近知ったみたいだし、もしかしたら好きだったって可能性もあるな……。


そうだよ。俺に質問された時、迷ってたじゃねぇか。


で、RAMPAGEのことが好きだってさっき言ってたよな?


RAMPAGEと迷うほどってことは、陸を好きってことじゃねぇか!


初めて見たが……いわゆる真面目くんだったな。


あんなタイプが好きなら、俺は勝てるかな……。


どう考えても俺と正反対だし。


今、陸のこと……どう思ってるんだ?
藤原樹
藤原樹
あなた……
倉木(なまえ)
倉木あなた
藤原樹
藤原樹
え、なんでお前そんなに刺々しい口調なんだよ
勇気を持って陸のことどう思ってたのか聞こうとしたのに。


なぜかあなたからは、『何』というたった2文字の威圧。


さっきまで普通だったじゃねぇか。


いや、普通よりも柔らかいというか、穏やかだったじゃねぇか……。


どうしたんだ?今なんかあったか?
倉木(なまえ)
倉木あなた
……心配してたとはいえ、ちょっとあの連れ戻し方はなかったなって……
藤原樹
藤原樹
あぁ
倉木(なまえ)
倉木あなた
陸くんに、ドロップキックでも決めてくればよかった
ど、ドロップキック……。


さっき悔いたばかりだけど、無理だ。


コイツ本当に女子じゃねぇ。


ゴリラだ。


これ聞くまでもねぇな。


あなたが陸のこと好きなわけがねぇ。


だって、好きならドロップキックなんかしたいと思わねぇよな……?


陸に変わった趣味があるわけじゃなさそうだし。


いや待てよ?


でも、RAMPAGEと迷ってたよな?


結局どっちだよ!


これ以上モヤモヤするのは俺らしくない。


だったら、ちゃんと聞いておこうと思った。
藤原樹
藤原樹
あなたさ、陸のこと好きだったのか?
藤原樹
藤原樹
俺さ、あなたに質問したじゃん。陸とRAMPAGEどっちかが好きなんじゃねぇのって。……迷ってたみてぇだから
ドキドキする。


だってこれで、うんって言われたらどうするよ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
え?迷ってないけど
藤原樹
藤原樹
は?
倉木(なまえ)
倉木あなた
どっちが好きかって言われたら即答でRAMPAGEだよね
藤原樹
藤原樹
じゃあ、なんであの時……
倉木(なまえ)
倉木あなた
だって……RAMPAGEを好きになっていいのか、わからなかったんだもん……
そっか。


あなた、それを悩んでたのか。
倉木(なまえ)
倉木あなた
結論、さっき言った通りだけどね
藤原樹
藤原樹
なんだよそれ〜!
結局、俺はフラれてなかったんじゃねぇか!


俺のテスト期間を返せ!


そればかりを考えちまってほぼ白紙で出したんだよ、バカヤロー!!


けど、
藤原樹
藤原樹
ってことは、問題ねぇな
俺が。


俺の、この恋路も。


あなたは、好きな奴がいない。


キタコレ!!
倉木(なまえ)
倉木あなた
何が?あっそうだ。私、樹に言うことあったんだ
藤原樹
藤原樹
俺に……?
倉木(なまえ)
倉木あなた
そう、樹に
な、なんだろう……。


ドキドキと胸が鳴る。


あなたからの告白?


とか自惚れのドキドキではない。


なんとなく、コイツの俺を真っ直ぐ見ている目に。


異様にドキドキする。


やべぇ、今の俺、顔がおかしくなってない?
倉木(なまえ)
倉木あなた
改めてちゃんと言いたいんだ。……私さ、RAMPAGEが、RAMPAGEのみんなが好きだよ。大好き
藤原樹
藤原樹
え……
倉木(なまえ)
倉木あなた
最初はなんだコイツら……って思ってたよ?でも何事にも一生懸命だし、いいことをしてるとは言えないけど、それも青春かなって。甘いかな、私。
俺の手をぎゅっと握り返してくれる、あなたの手のひらが熱い。
倉木(なまえ)
倉木あなた
それに、やっぱりいないと寂しくて。あ〜、私、RAMPAGEが好きなんだな〜って思った
藤原樹
藤原樹
あなた……
倉木(なまえ)
倉木あなた
だからね、樹
あなたは、繋いでる手を頼りに俺との距離を縮めて、
倉木(なまえ)
倉木あなた
私に、出逢ってくれてありがとう。RAMPAGEに、出逢わせてくれてありがとう。ここを、大切な居場所に思ってるよ。
これからも、よろしくね!
そう、笑うから。だから……。


俺はそのまま、あなたの小さな肩を両手で引き寄せた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……い、樹!?
あなたは、びっくりしている。


つか、噛みつかれそう。


それでも俺は、あなたをぎゅっと抱きしめて離さない。
倉木(なまえ)
倉木あなた
み、みんな見てるし!!
藤原樹
藤原樹
お前が、かわいいこと言うのが悪い
倉木(なまえ)
倉木あなた
言ってない!!どう捉えたらそうなるの変態!
出逢ってくれてありがとう、なんて。


好きな奴に言われてみろ。


理性崩壊するぞ、コノヤロ〜。


あなたは、はぁ〜とため息をつくと、大きく息を吸い込んだ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹が今、どんな気持ちで私の事を抱きしめてるのかわからないけど
お前が好きだから抱きしめてんだよ、とは言えないが、あなたを抱く力を強める。


すると、スーッと俺の背中に小さい手がまわって、俺の制服を掴む。
藤原樹
藤原樹
っ……!
倉木(なまえ)
倉木あなた
私もさっき、すごく触れたくなった
藤原樹
藤原樹
えっ
ふ、触れたくなったって!!


なんか言い方がヤバい。


もう俺、理性崩壊寸前だぞ?


家の中だったら押し倒してるぞ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
あと、会いたいって思った。……そしたら樹、いるんだもん。驚いちゃうよ
俺は今お前に驚いてるよ。


誰、お前。


あなたのまわりに花なんか舞ってたっけ〜!?


俺の目がおかしいかも。


あなたは俺の制服から手を離すと、俺の胸を押して俺から少し距離を取った。


そして、
倉木(なまえ)
倉木あなた
思ってた以上に樹たちのことが好きみたい
ニコッと、笑ったのだ。
藤原樹
藤原樹
あ、ありかとな……
胸がドキドキして、今の俺の顔もヤバいと思う。


真っ赤だろう。


結局、抱きしめたこととか、好きってさりげなく口にしていたとか。


そんなことを気にするのはきっと俺だけで。


あなたはすぐに忘れるのだろう。


それでも、惚れた方が負けってこういう状況を言うのかな……とおもう。


あなたが、どれだけ鈍感で天然でバカでかわいくて仕方なくても……。
藤原樹
藤原樹
帰るか、あなた
倉木(なまえ)
倉木あなた
うん!



この手を取ってくれるなら、なんでもいいやと、思ってしまえるのだから。

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