樹side
なんだ、この沈黙。
俺はあなたの手を引いて歩いていた。
いつもガヤガヤしている通学路なのに、なんかあなたの手以外に意識がいかねぇせいか、静かに感じる。
今日はこのまま家に帰るつもりだ。
さっきその事をみんなに連絡したら、
『奪還成功?』
なんて言ってきやがった。
当たり前だろ。
俺を誰だと思ってんだ。
って言ったら、あなたがすごい顔でこっちを見ていた。
……アレはドン引いてる顔だな。
あれから、あなたに陸って奴のことを聞いた。
前の学校に連れ戻されそうになっていたとか。
でもそんな状況でもあなたは、俺たちのことをきちんと見てくれて、そしてここにいることを選んだ。
結局断られ続けてるからあなたは姫なんかじゃないし、
ましてや暴走族でも、ヤンキーでもない。
あなたは、やっぱり俺たちのことを嫌いなんじゃないかって思ってもいた。
けど、それは違ったんだな。
俺たちが少し離れている間、あなたの中できっと何かが変わったんだと思う。
俺は、その理由を聞き出すことはしないでおく。
……こうやって俺についてきてくれるなら。
あなたが話したくなる時に話してくれればいいや。
……俺は、あなたが言えるようになるまでずっと待つから。
そう思って、手を少し強く握り直す。
それに気づいたのか、あなたも俺の手を握り返す。
ボソッと呟かれた言葉に、きゅんっと胸が鳴る。
あ〜もう、ダメだ。
俺、コイツのことがどうしようもなく好きなんだ。
好きで好きで、誰にも渡したくねぇんだ。
好きで好きで、誰にも触らせたくねぇんだ。
こんな気持ち、始めてすぎてわからねぇよ。
ふと後ろを振り返ると、俺と繋がれた手を頼りに必死についてきているあなた。
俺が振り返ったこと気づいて、顔を上げたあなたと目が合う。
あなたの目は涙ぐんでいて、少し困っていて……。
やっぱりダメだ。
コイツがかわいくてかわいくて仕方なく見える。
女の子だって感じてしまう。
じっと見つめてしまっていたらしい。
足も止まっていたみたいだし。
その言葉の意味はすぐにわかった。
『暴走族じゃなければよかったのに』
あの言葉を、あなたは気にしてるんだ。
俺は俺だから、って言ってくれた。
あなたのヤンキーが嫌いという気持ちを飛び越えて、俺とこうしていてくれるんだから。
この手を離したくないと思えるんだ。
何やらあわあわとしながら俺と繋いでない方の手で前髪をいじるあなた。
ここまで好きだと、何をしてもコイツがかわいく見えてしまうのは問題だし、
過去の『ゴリラ』なんて言ったことも問題だ。
けど1番の問題は、コイツはあの陸って奴が好きだったかもしれないってことだ。
……っていうか、いとこだからそれはないか?
でもあなたは陸の正体を最近知ったみたいだし、もしかしたら好きだったって可能性もあるな……。
そうだよ。俺に質問された時、迷ってたじゃねぇか。
で、RAMPAGEのことが好きだってさっき言ってたよな?
RAMPAGEと迷うほどってことは、陸を好きってことじゃねぇか!
初めて見たが……いわゆる真面目くんだったな。
あんなタイプが好きなら、俺は勝てるかな……。
どう考えても俺と正反対だし。
今、陸のこと……どう思ってるんだ?
勇気を持って陸のことどう思ってたのか聞こうとしたのに。
なぜかあなたからは、『何』というたった2文字の威圧。
さっきまで普通だったじゃねぇか。
いや、普通よりも柔らかいというか、穏やかだったじゃねぇか……。
どうしたんだ?今なんかあったか?
ど、ドロップキック……。
さっき悔いたばかりだけど、無理だ。
コイツ本当に女子じゃねぇ。
ゴリラだ。
これ聞くまでもねぇな。
あなたが陸のこと好きなわけがねぇ。
だって、好きならドロップキックなんかしたいと思わねぇよな……?
陸に変わった趣味があるわけじゃなさそうだし。
いや待てよ?
でも、RAMPAGEと迷ってたよな?
結局どっちだよ!
これ以上モヤモヤするのは俺らしくない。
だったら、ちゃんと聞いておこうと思った。
ドキドキする。
だってこれで、うんって言われたらどうするよ。
そっか。
あなた、それを悩んでたのか。
結局、俺はフラれてなかったんじゃねぇか!
俺のテスト期間を返せ!
そればかりを考えちまってほぼ白紙で出したんだよ、バカヤロー!!
けど、
俺が。
俺の、この恋路も。
あなたは、好きな奴がいない。
キタコレ!!
な、なんだろう……。
ドキドキと胸が鳴る。
あなたからの告白?
とか自惚れのドキドキではない。
なんとなく、コイツの俺を真っ直ぐ見ている目に。
異様にドキドキする。
やべぇ、今の俺、顔がおかしくなってない?
俺の手をぎゅっと握り返してくれる、あなたの手のひらが熱い。
あなたは、繋いでる手を頼りに俺との距離を縮めて、
そう、笑うから。だから……。
俺はそのまま、あなたの小さな肩を両手で引き寄せた。
あなたは、びっくりしている。
つか、噛みつかれそう。
それでも俺は、あなたをぎゅっと抱きしめて離さない。
出逢ってくれてありがとう、なんて。
好きな奴に言われてみろ。
理性崩壊するぞ、コノヤロ〜。
あなたは、はぁ〜とため息をつくと、大きく息を吸い込んだ。
お前が好きだから抱きしめてんだよ、とは言えないが、あなたを抱く力を強める。
すると、スーッと俺の背中に小さい手がまわって、俺の制服を掴む。
ふ、触れたくなったって!!
なんか言い方がヤバい。
もう俺、理性崩壊寸前だぞ?
家の中だったら押し倒してるぞ。
俺は今お前に驚いてるよ。
誰、お前。
あなたのまわりに花なんか舞ってたっけ〜!?
俺の目がおかしいかも。
あなたは俺の制服から手を離すと、俺の胸を押して俺から少し距離を取った。
そして、
ニコッと、笑ったのだ。
胸がドキドキして、今の俺の顔もヤバいと思う。
真っ赤だろう。
結局、抱きしめたこととか、好きってさりげなく口にしていたとか。
そんなことを気にするのはきっと俺だけで。
あなたはすぐに忘れるのだろう。
それでも、惚れた方が負けってこういう状況を言うのかな……とおもう。
あなたが、どれだけ鈍感で天然でバカでかわいくて仕方なくても……。
この手を取ってくれるなら、なんでもいいやと、思ってしまえるのだから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。