そんなこんなで精一杯作った大量のカレー。
そう言った涼子さんに甘えて、私はお風呂に入ることにした。
湯船にそっとつかると、一日の疲れが取れる。
ここに来てから、1番濃い1日だった気がする。
ヤンキーは嫌いだし、関わりたくないけど、なんか貴重な体験をした。
今日、初めて見た、たまり場。
大嫌いで関わりたくもなかったヤンキーに囲まれてイヤだった。
でも壱馬や翔平や、帰り際に樹が来てくれた時、ホッとしたのはなんでだろう。
安心するのなんて、なんかの間違いだ……。
その時、
『お邪魔しま〜すっ』
『あっ、涼子さん、これつまらない物ですが』
『お腹すいたな〜』
玄関の方からみんなの声がした。
やっぱリビング?
樹の部屋?
雑魚寝ってヤツかな?
うわぁ、飲み会後のおっさんみたいな光景が見られちゃうんじゃない?
今思えば、こんなに早くお風呂とかも終えちゃったわけで、夜は暇だ。
もちろん寝ることも好きだけど、早く寝ることなんてできないし。
私ははぁ、とため息を着くと、水色のルームウェアを着て、リビングへと向かった。
ガチャッ。
リビングのドアを開けると、カレーのいい匂いと、
騒がしい5人が。
壱馬はこんなにも優しそうなのに。
初日のあの衝撃が消えない。
だって、あのスキンヘッドを吹っ飛ばしてたんだよ?
いつになったら、私は壱馬を普通の優しいお兄さんと見られるようになるの!!
慎が珍しく口ごもるし、私に顔を向けるし……。
なんなの?いったい。
その時、樹は何かに気づいたのか私の手を掴む。
何って聞こうとした時にはグイッと手を引かれ、リビングを出ていた。
そう叫んでも何も言おうとしない樹。
思わず樹の膝に、
カクンッ。
膝カックンをした。
なかなかきいたようで。
いやぁだってキレイに入ったからね。
あはは……。
ごめん樹。
こんなにキレイに入るとは思ってなかった。
相当きいた模様。
樹はこっちを睨みつけてくる……が。
私は指さして笑った?
いやいや、だって恐ろしい総長さんが膝カックンで涙目って……。
このネタ、誰に言おう。
……腹黒そうな壱馬にしよっかな〜。
涙目になっても鋭い……。
まぁ私は悪くないかな〜?
何も言わずに引っ張る樹が悪い。
フッと笑う樹を見て殴り飛ばしたくなる。
そう言われてポイッと投げられるように入れられたのは、さっきまで私がいた洗面所。
あまりにも睨みつけてくる樹が怖かったので、大人しく従う。
……さっきの膝カックン、絶対根に持ってるな……。
目つきがヤンキーだもん。
あ、ヤンキーだったか……。
すると、樹は洗面台の上にある棚をガタガタといじりはじめた。
私が連れてこられた意味がわからない……。
__ブォォォオオオオオオオオオ。
そう言うと、樹はプイっとそっぽを向く。
え〜、照れてる?
鏡越しにしか見えない樹。
でも、その表情は微妙にみえない。
ブォォォオオと、ドライヤーの音だけがする。
私の髪に指を通す樹の手の動きが、なんだかくすぐったい。
思わず頭を少し振った。
そう褒められると、すっごく恥ずかしい。
あんな真っ赤な髪。
何に憧れたのかわからない。
戦隊モノのヒーロー?
私は思わず振り返る。
とりあえず前を向く。
黒染めしたの?
なんのために?
染めてないんでしょ?
樹は私の髪を軽く引っ張る。
ため息をつく樹。
ふざけすぎたかな?
私は下から樹を覗き込む。
下から覗き込んだ私の頭をグイッと下に向けると、また私の頭をわしゃわしゃと乾かし始めた。
そこから私たちに会話はなく、ドライヤーの音だけが洗面所に響いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。