樹side
夕飯の時間になっても、リビングに来ないあなた。
いつもなら率先して母さんの手伝いしてるはずなのに。
料理ができても出てこない。
母さんは、
って言ってたけど、俺とあんな話をした後だから、部屋で時間を忘れて悶々と悩んでんじゃないと思った。
返事はない。
でもドアの下から灯りがもれている。
寝ているわけではなさそう……?
そのままドアノブを押して部屋に入る。
……が、やはりというか普通にそう思うべきだったというかあなたは寝ていた。
って、制服のままじゃねぇか。
それに布団もかぶってないし、風邪ひくぞ?
あなたの近くまで行くと、スースーと寝息が聞こえた。
……よく寝てるな。
まだ早い時間なのに。
もしかしたら悩みながら寝てたのかもしれない。
……いや、あなたのことだから、適当に答えをだしてすっきりして寝たのかもしれないけど。
……起きねぇし。
コイツ、あなたに見せかけた別人だったりする?
顔を近づけて、よくよく目を凝らしてあなたを見る。
その時、視界の端にセーラー服の隙間からチラッと肌が見えて、思わず体を引いた。
あぁもう、なんでこんなかわいく見えるんだろう。
もはや病気だな、これ。
起きないなら。
ボソッと、本当に小さい声だったと思う。
自分でもどちらかといえば欲求が口に出ちゃった感じ。
どうせ寝てるから聞こえてない……よな?
そう思ってあなたを確認すると、
目をパッチリと開けたあなたと目が合った。
……聞かれてないよな?
あれ、珍しい。
俺が無断で部屋に入ったこと、まったく気にしてない。
寝ぼけてんのか?
なんか、キョロキョロしてるし。
……おい、まさか俺の言葉で起きたとかじゃねぇよな?
その不審者は俺である可能性が高いが、ここは適当に誤魔化しておく。
ていうかあなた、寝ぼてけてるにしても元気なくね?
先に部屋を出ようとしたあなたが、振り返って俺の方を向く。
おれもあなたがなんの話をしているかわからないけど。
いや、もしかして陸ってやつの話をしてるのか?
わからないって何が?
好きなのが、俺たちか陸って奴かがわからないってことかよ?
そこは俺たちだろ。
文句を言おうとしたけど、あなたの顔を見て言えなかった。
気まずそうに、目をそらすあなた。
その顔を見ただけであなたが悩んでいるのかがわかる。
あなたはわかりやすい。
それは、俺がずっとコイツを見てきたから。
そして、好きだから、わかる。
これ以上どうすればいいんだよ。
俺たちはとっくに、お前を大切に思ってるのに。
そう思っても、伝わらない。
俺の背中がヒヤッとした。
まさかあなたから、そんな言葉を言われるとは思ってなかったから。
でも、あなたも思わず口に出てしまったようで、口元を押さえている。
どうすればいいんだろう。
あなたは肩を震わせ、俺とは目を合わせないようにうつむいている。
自分でもびっくりするくらい低い声が出る。
あなたは少しビクッとして、逃げるように部屋を出た。
あなたの言葉は、俺の中で思った以上に重たくて。
どうしても、俺らと向き合ってくれねぇのかよ?
アイツの過去に何があったか知らない。
きっとトラウマになるくらい、
俺らみたいなヤンキーと関わりたくない何かがあったんだと思う。
それでも、俺なりにあなたのことを大事に思って来たのに。
もう背中しか見えないあなたに向けて呟く。
もちろん振り返ってくれるはずもなく。
このモヤモヤとした想いをどうにもできずに、
このあとはあなたを避けた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。