第39話

初めてのケンカ
3,888
2020/10/19 08:59
樹side
藤原樹
藤原樹
おい、あなた?
夕飯の時間になっても、リビングに来ないあなた。


いつもなら率先して母さんの手伝いしてるはずなのに。


料理ができても出てこない。


母さんは、
藤原涼子
藤原涼子
あなたちゃんだって、疲れちゃってる時くらいあるでしょ?
って言ってたけど、俺とあんな話をした後だから、部屋で時間を忘れて悶々と悩んでんじゃないと思った。
藤原樹
藤原樹
メシいらねぇのか?
返事はない。


でもドアの下から灯りがもれている。


寝ているわけではなさそう……?
藤原樹
藤原樹
あなた〜?
そのままドアノブを押して部屋に入る。


……が、やはりというか普通にそう思うべきだったというかあなたは寝ていた。
藤原樹
藤原樹
よく電気つけたまま寝れるなコイツ……
って、制服のままじゃねぇか。


それに布団もかぶってないし、風邪ひくぞ?


あなたの近くまで行くと、スースーと寝息が聞こえた。


……よく寝てるな。


まだ早い時間なのに。


もしかしたら悩みながら寝てたのかもしれない。


……いや、あなたのことだから、適当に答えをだしてすっきりして寝たのかもしれないけど。
藤原樹
藤原樹
おい、起きろ〜
……起きねぇし。


コイツ、あなたに見せかけた別人だったりする?


顔を近づけて、よくよく目を凝らしてあなたを見る。


その時、視界の端にセーラー服の隙間からチラッと肌が見えて、思わず体を引いた。


あぁもう、なんでこんなかわいく見えるんだろう。


もはや病気だな、これ。
藤原樹
藤原樹
あなた……
起きないなら。
藤原樹
藤原樹
……襲っちゃうぞ
ボソッと、本当に小さい声だったと思う。


自分でもどちらかといえば欲求が口に出ちゃった感じ。


どうせ寝てるから聞こえてない……よな?


そう思ってあなたを確認すると、
藤原樹
藤原樹
……おわっ、あなた
目をパッチリと開けたあなたと目が合った。
藤原樹
藤原樹
お、おはよう、あなた
……聞かれてないよな?
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なんでいるの
藤原樹
藤原樹
メシなのに来ねぇから、呼びに来た
倉木(なまえ)
倉木あなた
……え、嘘。ヤバい、夕飯の手伝い……
藤原樹
藤原樹
それなら、母さんが今日はいいって言ってたぜ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……そう、よかった
あれ、珍しい。


俺が無断で部屋に入ったこと、まったく気にしてない。


寝ぼけてんのか?


なんか、キョロキョロしてるし。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なんか、目覚めが悪い
藤原樹
藤原樹
そりゃ中途半端に寝たからじゃねぇの?
倉木(なまえ)
倉木あなた
いやなんかね……、ゾッとして起きた
藤原樹
藤原樹
は?
倉木(なまえ)
倉木あなた
身の危険を感じた。……悪寒っていうの?
……おい、まさか俺の言葉で起きたとかじゃねぇよな?
藤原樹
藤原樹
悪い夢でも見たんじゃね?
倉木(なまえ)
倉木あなた
そうだよね。不審者でもいたのかなって思ったけど、そんなわけないよね
その不審者は俺である可能性が高いが、ここは適当に誤魔化しておく。


ていうかあなた、寝ぼてけてるにしても元気なくね?
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹、さっきのことなんだけど
先に部屋を出ようとしたあなたが、振り返って俺の方を向く。
藤原樹
藤原樹
いや、ちょっと待て。さっきのあれはやましい気持ちはなくてだな
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹がなんの話しをしてたか分からないけど。考えても、全然わからなかったや
おれもあなたがなんの話をしているかわからないけど。


いや、もしかして陸ってやつの話をしてるのか?


わからないって何が?


好きなのが、俺たちか陸って奴かがわからないってことかよ?
藤原樹
藤原樹
いや、お前……
そこは俺たちだろ。


文句を言おうとしたけど、あなたの顔を見て言えなかった。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なんでそんな顔してんの
気まずそうに、目をそらすあなた。


その顔を見ただけであなたが悩んでいるのかがわかる。


あなたはわかりやすい。


それは、俺がずっとコイツを見てきたから。


そして、好きだから、わかる。
藤原樹
藤原樹
俺達のこと、やっぱり好きになれないわけ?
倉木(なまえ)
倉木あなた
ちが……
これ以上どうすればいいんだよ。


俺たちはとっくに、お前を大切に思ってるのに。


そう思っても、伝わらない。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹たちが、暴走族じゃなければよかったのに……
俺の背中がヒヤッとした。


まさかあなたから、そんな言葉を言われるとは思ってなかったから。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ご、めん……
でも、あなたも思わず口に出てしまったようで、口元を押さえている。


どうすればいいんだろう。


あなたは肩を震わせ、俺とは目を合わせないようにうつむいている。
藤原樹
藤原樹
……そうかよ
自分でもびっくりするくらい低い声が出る。


あなたは少しビクッとして、逃げるように部屋を出た。


あなたの言葉は、俺の中で思った以上に重たくて。
藤原樹
藤原樹
……なんでだよ
どうしても、俺らと向き合ってくれねぇのかよ?


アイツの過去に何があったか知らない。


きっとトラウマになるくらい、


俺らみたいなヤンキーと関わりたくない何かがあったんだと思う。


それでも、俺なりにあなたのことを大事に思って来たのに。
藤原樹
藤原樹
バカあなた
もう背中しか見えないあなたに向けて呟く。


もちろん振り返ってくれるはずもなく。


このモヤモヤとした想いをどうにもできずに、


このあとはあなたを避けた。

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