階段を上り終えて左を向く……と、確かに突き当たりに部屋がある。
いやいやいやいや……。
ちょっと待てよ?
よくよく考えよう。
普通こんなところに職員室ってあるものなの?
しかも窓がなくて部屋の様子は見えないし、そんなの生徒からしたらよくないよね?
絶対そうだ。
あのクソ野郎……。
声がした方に顔を向ける。
藤原と優男の2人組……。
今、藤原ってばチッって言ったよね?
舌打ちされた?
いやいや、したいのはこっちなんですけど!?
優男もなんで残念がってるの?
入るわけないよ!
明らかに職員室じゃないもん!!
キーンコーンカーンコーン。
遅刻しちゃう……そう続けようと思ったら、チャイムが鳴り響いた。
眉を下げて本当に申し訳なさそうに言う優男に対し、藤原は目線すら合わせないの!?
職員室だと教えられていた部屋のドアがあき、中から人が出てきた。
ふと視線をあげると。
藤原と優男に負けないくらいのイケメン。
が3人。
誰って、こっちのセリフなんですけど……。
そして、そのまま意味のわからないことを返す。
姫?
は?
私、あなただけど。
「「「「え……」」」」
わけのわからない私は首をかしげるけど、藤原以外の4人は目を見開いた。
冷静そうな優男でさえ、困惑しているように見える。
ん?ん?ん?
「「「「はぁ!?」」」」
4人の声が揃った。
優男を除いた人が藤原に詰め寄ってるけど……。
いったい何?
そして全員の視線が一斉に私に向けられる……。
じりじりと。
なんか居心地悪いんですけど!!
私が、手をぎゅっと握った時だった。
1番背の低い男の子に腕を引っ張られ、例の部屋に押し込まれた。
いきなり引っ張られた腕が痛いのなんの。
だけどその先には……。
まるで、家のリビングみたいな光景が広がっていた。
うるさいチビ。
本当はチビとか言っちゃダメだけど、私より少し高いだけで、本当にチビなんだもん。
優男にさりげなくエスコートされながら、私はそばにあったソファに座った。
なんなのこの5人組。
勝手にしててよ。
気が向いたら聞いとくから。
1つ上か……。
あ、壱馬と私、思ってること同じじゃん。
あ、チャラい。
あ……この人、絶対に女嫌いだ。
私から1番距離を置いて、横目に睨みつけてくる。
ただのイツメンじゃないの?あんたら。
知りません。
転校と言っても住んでる家は変わらないしな〜。
近所の有名人なら把握してるんだけど……。
隣の隣には俳優の人が住んでるとか……。
北人が意味深な顔を向けてくる。
なんかオーラが甘ったるいよね、北人って。
私がそう言うと5人は目を見開いた。
あ、ううん。
樹だけは、少し笑ってるけど。
そうそう、そういうこと。
慎、よくわかってるね。
声のボリューム半分にしてよ、翔平。
女なのに……て。
お前ら女ホイホイか。
はい、待った。
樹が言いだしっぺでしょうが。
姫がなんだか分からないけど、さっき反対の声もあったじゃん。
やっぱ、樹ってすごいのかな?
ていうか、私のここから出たいは無視??
あ、意外と素直なんだ。
なんか面白くて少し微笑んで返す。
ん?
なんで赤くなってんの?
北人が茶化していて、なんかかわいそうだな。
というか、翔平は私に何を言おうとしたのかな……?
なんで?ここ戦場なの?なんなの?
フッと笑う樹。
いやいや、だから何?
ん?
人気?
アイドル的な?
そんな感じで?
まぁ確かにこの5人、みんなイケメンだけど……。
そう断言する樹に少しだけ……。
うわぁ……。
引いたのは秘密。
そう言って樹はソファから立ち上がっ出入口の方へ歩く。
なんだろうと見ていると、樹が"ちょいちょい"と手招きしてきた。
……来いってこと?
私はソファから立ち上がると、樹のそばへ近寄った。
え?
私は首をかしげながらドアに耳をつけると、廊下の声が聞こえてきた。
今はちょうどホームルーム後の休み時間みたい。
「ねぇ、ホームルーム前に樹のこと見た?」
「見た見た!壱馬くんと一緒に!!」
「あ〜!もうほんと素敵!!」
キャイキャイ。
そんな感じの会話。
え、なんか気持ち悪い。
しかし樹はご機嫌だ。
私、バリバリ入ってますけど……?
そして次の瞬間、樹は……ドンッ!!
ドアを思いっきり蹴った。
いや、思いっきりじゃないかもだけど。
それくらい、重い蹴り。
「ねぇ、今すごい音しなかった?」
「樹たちのたまり場からだ!」
「あそこどうなってるのかな?入ってみたいよね」
「ちょ!無理でしょ!あそこはあの5人以外入れないの!特に女は」
「……そうね、女が入ることは許されない。入ったら全校生徒からリンチ食らうものね……」
「前に1回あったじゃん。無断で樹ファンの子がここに入って……」
「あぁ……退学した子…」
……は?
なにそれ。
ここそんな神聖な場所なわけ?
樹を見るとなんかドヤってますけど……。
まぁ顔はイケメンだけどさ、ヤンキーじゃんか。
私ヤンキー嫌い。親不孝者だもん。
なるほど。
たしかに、これは死ぬ。
私は今、出られないのか。
もう……。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。