第3話

ヤンキーは敵
5,417
2020/09/09 04:14
倉木(なまえ)
倉木あなた
え……っ、おかあ、さんが……?
私がその知らせを聞いたのは今からたった1週間前で。


今でも気持ちの整理なんてつくわけがない。
倉木(なまえ)
倉木あなた
なんで、お母さんだったんだろう……
なんの運命だったのかな。


お母さんが不良同士のケンカに巻き込まれて、その勢いで刺されちゃうなんて。


……そんなの絶対にありえない。


だから大嫌いなんだよ。ケンカする人も、不良やヤンキーも。


みんなみんな、他人に迷惑しかかけないじゃないの。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……大っ嫌い
私はそんなひとり言を呟いてら大きく息を吸うと新たな地に足を踏み入れた。









踏み入れた先は私の転校先である私立高校。


……入試で名前を書くだけで受かってしまうくらいの、不良だらけの高校。


どこのお嬢様学校かと思ってしまうくらいキレイな校舎の壁には、その雰囲気には似合わない落書きを消した跡。


あぁ、なるほど……。


不良という、本当に迷惑な奴らが書いた落書きを、清掃員とか業者の人がけしたのね。


私は1人で勝手に納得する。


そして、ふと校舎を見上げた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
最悪……
何が最悪って、校舎内から怒号が聞こえるのとか。


机を蹴り飛ばす音がするとか。


まぁ、そんなとこ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
まず職員室に寄るんだっけ?
私は手元の【転入生案内】と書かれたプリントを見る。


そこには、学校までのアクセスと当日の注意事項だけが書かれていた。


校舎に入ると、とりあえず左へ曲がる。


職員室って普通は1階にあるでしょ。


どうみたって右は体育館への道。


よし、左しかない。


私はそう確信して、左へ突き進んだ。


……が。
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、ここどこ?
倉木(なまえ)
倉木あなた
方向音痴とかじゃ、ないのになぁ……
なんていうか、職員室は普通1階だろ!っていう常識の読み間違いをしたみたい。


不良校とは思えぬツヤツヤの床。


おろしたての上履きがキュッキュッとなる。


その時…。


__バンッ!!



廊下の角を曲がったあたりから音が聞こえた。


何かを壁にぶつけたような、そんな音。
倉木(なまえ)
倉木あなた
もしかして、人がいる?
不良は大嫌いだけど、職員室によることが最優先。


……職員室の場所聞こうっと〜。


私は小走りで角を曲がる。


__ガッシャァァアン。
倉木(なまえ)
倉木あなた
きゃっ!
今、大きな体が私の前を横切った。


いや、言い方が悪い。


私の前を通って"飛んだ"のだ。
不良
くっそ、藤原樹を出せって言ってんだろうが!お前みたいなクズには用はねぇんだよ!
その大きな体の持ち主が、その大きさに負けないくらいの大声で叫ぶ。


スキンヘッドのその人は、口から血を流していた。


え、つまり今のは……。


誰かが、この巨体のスキンヘッドを殴るか蹴るかしたってことですかね……?


え、え、嘘でしょ!?
倉木(なまえ)
倉木あなた
あ、ありえない……
不良
あぁん!?
スキンヘッドに睨まれる。


そして、誰だお前、みたいな顔をされてスキンヘッドは少しニヤッとした。


…なんか嫌な予感しかしない。


私は本能で後ずさる。


だけどスキンヘッドの手が、それを許さなかった。
不良
ちょっと待ちな、お前…
ゴツゴツした手に掴まれる。


……って、離せこの野郎!


そう思うけど、かなり強い力で掴まれていてほどけない。


そして、
倉木(なまえ)
倉木あなた
きゃあっ
グイッとスキンヘッドに手を引かれた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
くぅ……っ
そして、スキンヘッドの腕が私の首にまわる。
不良
おい!この女の首を絞められたくなかったら藤原を出せや
うわぁぁぁぁ、やっぱり!


これって……。
川村壱馬
川村壱馬
人質なんて、とるなよ
ですよね!やっぱり人質だよね、これ!!



ん……?

私がその声にやっと顔を上げると、そこにはこんな状況なのにも関わらず微笑む優しそうな男子がいた。


え、この人が?


こんな優しそうな人が、このスキンヘッドを??


その優男は私と目が合うともう一度ニコッと微笑んだ。



笑ってないで助けてほしいんだけど……。
川村壱馬
川村壱馬
今俺の事クズって言った?
不良
あぁん?当たり前だろ!俺はお前なんかに用はねぇんだよ、藤原出せっつってんだろ!!
頼むからやめて。


スキンヘッドがイラ立つたびに力が入って……。


苦しい……。
川村壱馬
川村壱馬
その女の子は関係なくない?
不良
うっせぇんだよ!はよ出せや
お願いだから藤原樹さんとやら、出てきてあげて。


私そろそろ死んじゃう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
く、るし……っ
そんな私の声に、ニヤつくスキンヘッドと、ため息を着く前の優男。


いやいや、ため息つきたいのはこっちだよ!!


なに巻き込んでくれちゃってんの?
川村壱馬
川村壱馬
…わかったよ。樹呼べばいいんでしょ?
不良
最初からそうしろよ
ほんとだよ。


流れからすると、藤原さんとやらは強いんでしょ?


いいじゃん、勝手にケンカしてれば!
川村壱馬
川村壱馬
樹、出なきゃダメみたい
ちょっとまって。


そこに藤原さんがいるの!?


さっさと出てこいよ、クソヤンキー!!


どんな奴なのかしっかり見てやろう。


ハゲてたら笑ってやろう。
川村壱馬
川村壱馬
あれ、樹、いるよね?女の子死んじゃうんだけど
藤原樹
藤原樹
……るせぇ
優男の背後から低い声が聞こえてきた。


こ、こわ……。


じゃなくて!私を巻き込まないでよ〜。
川村壱馬
川村壱馬
……樹、女の子死んじゃう。しぬよ、たぶん。アイツが本気でしめれば
藤原樹
藤原樹
……死ぬのか?
ふっと、男が見えた……。


と同時に、ガっと、私の後方で音がした。
倉木(なまえ)
倉木あなた
…………は?

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