思い切りため息をついた。
あれから無事、誰にも見られずあの部屋を出たはいいんだけど、やっぱり職員室が見つからず。
というか、嘘を教えられたから、誰にも聞く勇気が出なかったっていうか……。
まぁそんなこんなで20分も歩き回ってやっと見つけた職員室では、転校早々遅刻したのにもかかわらず、なぜか何も言われなかった。
私は次の授業の冒頭で、クラスメートに紹介されることになった。
こんな中途半端な時間から教室に行くなら、明日がよかったな〜、なんでも思ってみたり。
そんなことしたら、無断欠席だけどね。
今、私の目の前にいるのは坂本先生。男の先生だ。
この人が担任なんだぁ……。
ふと顔を見る。
うーん、20代後半ぐらい?
若いのかな?そう見えるだけ?
ぶっちゃけ、なよなよしく見える。
ほら、さっきヤンキーとかイカつい人を見たからさぁ、普通の人すぎて弱く見える。
そうこう思っているうちに教室の前についた。
うわ……っ、壁が汚い……。
でも良かった。
先生までイカつかったら、学校に行くのを躊躇する日があるよ、きっと……。
と、思っていたその時、
バンッというドアを勢いよく開ける音とともに聞こえたのは……怒鳴り声。
って、
え?え?今、怒鳴ったのってまさか……。
先生なの!?
しかも、ヒソヒソと聞こえるのは……。
「やっぱこええな、ジンジン」
「だってジンジンあれだろ?元暴走族のトップだろ?」
「えっ、俺、坂本組の時期組長って聞いたぜ?」
「噂によれば、百人斬りして全員病院送りにしたとか……」
は?
え?
坂本先生って何者なの!?
ジンジンっていう可愛いあだ名と噂に、ギャップがありすぎるでしょ……。
ほとんど……?
全部が嘘ではないということ……?
気にするよ。
イカついヤンキーに恐れられているなんて!!
な、なんで先生までヤンキーなの……この学校。
ヤンキー、大嫌いなのに……。
ショックを受けながらも、教室に入る。
入った瞬間、私の顔が引きつった。
そこに黒髪なんてかわいい生徒はいなくて、金髪やら赤やら青やら紫やら……。
しかも髪の色が変なことに加えて、
「ぁん?転校生?」
イカついっ!
ピアスもたくさん、ついてるし!
痛くないの!?
お、女の子は……いるよね?
ところが……。
「え〜?転校生?うわっ、地味子ジャーン」
「ウケる〜。今時黒髪とか何狙い?純情路線?」
こここここ、怖すぎ!!
金髪でグルグルに巻かれている髪の毛。
バサバサと音を立てそうなまつ毛。
魔女のような付け爪。
これは……。
さすが不良校……。
誰だよ!私の自己紹介を遮ったの!!
え、今あなたって呼ばれたし、声に聞き覚えが……。
そこには、うんうんと頷く、
翔平がいた。
「なぁ、泉野ってそんな頭いいのかよ?」
誰かがぽつりと言った。
転入してきた立場で言うのもなんだけど、偏差値も全国トップクラスで、かなり有名だと思ってたよ?
翔平はニヤニヤァっと返した。
ってちょっと!
今のは、てっちゃんと呼ばれてる人に対して失礼すぎないか!!
「はぁ〜?翔平だってバカじゃねぇか。なんで知ってんだよ」
うわぁ、嘘っぽい。
絶対に嘘だ。信じない。
というか……なんか意外だなぁ。
さっきの樹の話とか、そのファンたちの話を聞くと、樹たちRAMPAGEという暴走族が、学校を仕切ってるのかと思ってたから。
幹部である翔平のこと、みんな持ち上げてるのかと思ってた。
けど、なんか……。
普通の友達って、かんじだなぁ。
ぎゃっ!
翔平の隣〜?
暴走族と、しかもその幹部と隣なんてイヤだなぁって思ったけど……。
知らないヤンキーよりマシか……。
イカつい とも多いしね、接しやすい翔平の隣のほうが何かと安心かもしれない。
「え〜、翔平の隣なのぉ?あの子」
「サイアク〜。RAMPAGEに近づくなよ」
うわぁ、このクラスにもRAMPAGEのファンがいるのかぁ、面倒くさい……。
そんなこと思いながら、翔平の隣の空席に座った。
翔平の笑顔にほっとしながら……。
学校生活、頑張ろうっと!!
そう意気込んだ私だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!