樹side
今は、放課後の学校のたまり場。
俺は、あなたとの10日ほど前の出来事を壱馬と北人に話していた。
翔平と慎は追試らしい。
あの2人は進級が心配なくらい勉強ができないからな。
壱馬はやはり困惑しているようだ。
いや、俺の方が困惑したけどな。
なんかモヤモヤイライラするし。
よくわからない気持ちになるし。
もうなんなのか。
……いや、合ってるけど。
俺、転校して来たやつとしか言ってないのに。
北人はそういうの、素直に言えるからいいよな。
……って、嫉妬しても仕方ねぇか。
少し楽しそうに笑う壱馬。
……なんか嬉しそうじゃね?
北人は、触っていたスマホをポイッとソファに投げると、俺に目を合わせてニヤニヤと笑ってくる。
その顔ムカつくし。
っていうか、お前ら俺の悩み、軽く見すぎじゃね?
おれは壱馬たちに……。
『暴走族じゃなければよかったのに』
そう言われたことだけは言えずにいた。
そんな言葉、聞くのは俺だけで十分だと思った。
あの言葉は俺の中で今もグルグルとまわってる。
追試帰りだと言うのに大声で帰ってきた翔平。
慎は超眠そう。
というか、その寝ぼけ方からして追試中もねてたんだろうな。
気持ちを知られてるのはわかってるんだけど。
名前を出されるとなんか恥ずかしいからやめてほしい。
今は少しギクシャクしちまっているし……。
俺、惚気たことなんかねぇんだが。
話を聞き終えた慎と翔平は、それはそれは楽しそうにそういった。
正直、俺はそれどころじゃない。
確かにそうなんだけど、俺の心のダメージはそれだけじゃなくて。
壱馬は、いつもそうだ。
俺のことら1番そばで見てくれている。
俺の判断で言いとどまったこともら壱馬がそう言ってくれるなら大丈夫な気がしてしまう。
あたりを見まわす。
みんな、俺の話を真剣にきこうとしてくれている。
まっすぐ俺を見ている。
言ったらコイツらが傷つくんじゃないかって思った。
それに……、この言葉によってみんながあなたに腹を立てるんじゃないかとも思った。
けど、コイツらはそんな奴らじゃない。
「「「「え……」」」」
慎は、少し戸惑いながらも怒ることなくそう言った。
真っ先に怒るなら慎だろ……と思っていたから、少しホッとする。
でも、俺らがあなたに聞いて話してくれるだろうか。
話してくれる気があるなら、とっくに話してくれてると思うし。
今の俺、本当にカッコ悪い。
そんな俺に、慎が背中を押す。
慎は女のこと嫌いだけど、あなたのことはちゃんと見ている気がする。
……なんか、悔しいけど。
このRAMPAGEの、トップに立ってるんだ。
それなのにウジウジしてるし。
あなたに会ってから、俺も色々変わった気がする。
翔平のひと言に、マヌケな声が出てしまう。
翔平はへへんッ!と威張るように俺の前に立つもんだから、チビのくせになんか上から目線に感じる。
翔平はニカッと笑って俺の背中をバシンと叩いた。
なんか、勇気を貰った気がする。
今、話していて思った。
俺、本当にあなたのことが好きだ。
そして、RAMPAGEのことも好きだ。
だけど……あなたはヤンキーが嫌いだ。
でも、自惚れかもしんねぇけど、アイツは俺らのことを嫌いじゃないと思う。
だから今、アイツのところに行かなきゃと思う。
アイツの過去のトラウマを吹き飛ばすくらい、
俺らはおれらだってことを……
伝えたいから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。