第47話

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2020/10/29 09:40
翌日。
倉木(なまえ)
倉木あなた
はぁ……
誰も来ないのをいいことに、昼休みの階段で座り込んでたそがれてみる。


昨日あれからまともに樹と顔を合わせられなかったし。


最悪……。
長谷川慎
長谷川慎
な〜に、ため息ついてんだ、クズあなた
倉木(なまえ)
倉木あなた
ひゃっ!
長谷川慎
長谷川慎
ほい、飲めよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
あ、慎……
私は慎から、冷たいオレンジジュースを受け取る。


誰も来ない……じゃない。


慎と約束してたんだ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
クズって何……
長谷川慎
長谷川慎
うちのとこの総長をたらしこんでるから、クズ
倉木(なまえ)
倉木あなた
は?誰かにたらし込まれてんの?樹
長谷川慎
長谷川慎
ほんと、お前と会話できねぇな
会話できないって何よ。


それより、慎が私を呼び出すなんて珍しい……。


電話も珍しすぎて驚いたもんなぁ。
長谷川慎
長谷川慎
で、あなた。樹はなんで最近付き合い悪いんだよ
私の隣に腰かけた慎は、眉間にシワが寄っている。


うわぁら慎ってば機嫌悪いなぁ。






長谷川慎
長谷川慎
はぁ!?今2人きりで住んでるだと!?
そ、そんなに驚くことかなぁ。


慎に樹の付き合いが悪い理由を話すと、声を上げて驚かれた。
長谷川慎
長谷川慎
あなたは、樹と2人きりってことに、なんも思わなかったのかよ?
倉木(なまえ)
倉木あなた
は?あ〜、夕飯作るの1人になっちゃうなぁって思ってた。涼子さんいないからね。あとほかの家事も
長谷川慎
長谷川慎
お前やっぱ話が通じねぇわ。ゴリラめ
倉木(なまえ)
倉木あなた
クズだのゴリラだの、私に恨みでもあるわけ?
女の人が何となく嫌いなんだなぁってのはわかってるけど。


口が悪すぎる。


慎の脳内こそ、小学生なみの単語でしか溢れていないとおもうけど。
長谷川慎
長谷川慎
……まぁ付き合いが悪い理由はわかった。で、あなた。お前、樹のことどう思ってる?
倉木(なまえ)
倉木あなた
その質問、前もしなかった〜?
長谷川慎
長谷川慎
あなたの気持ちも、変わったかもしれねぇじゃん
う〜ん、樹のことをどう思ってるか、か。


一緒に住んでみて、確かに変わった気がする。


すべて。


そして何もかもが、私のヤンキーという偏見を吹き飛ばしてくれた気がする。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……樹は、ヤンキーで、暴走族で、見た目も怖いし、いきなり意味わかんないこと言ってくるけど。……大切な人だよ
長谷川慎
長谷川慎
へぇ〜
むっ。


慎に上から目線で納得されるとムカつく。


てか何?


樹のことを、どう思ってるかなんか聞いてきて。


私がもうイヤじゃないことくらい、


見てたらわかると思うんだけど……。
長谷川慎
長谷川慎
大切な人……か。ならどうだ?恋愛対象としては?アイツのこと、男として好きだったりしないのか?
倉木(なまえ)
倉木あなた
はぁ?
またそれ?


樹のことを恋愛対象で好きだなんてそんなこと……。


そう思った瞬間。


私の頭の中で、ここ最近のことが鮮明に思い出された。


陸くんと最後に会った日、ぎゅ〜って抱きしめあったり。


無駄に近かったり。


壁ドンで文句を言われたり。


昨日も……関節キスしちゃったり。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……っ!!
思い出すだけで、顔が爆発しそうなくらい熱い。
長谷川慎
長谷川慎
あなた……?
慎が顔を覗き込んでくるけど、それどころじゃない。


だってだって、思い出しちゃった。


私……そのどれもがイヤじゃなかった。


ぎゅ〜って抱きしめられた時も、抱きしめ返した。


壁ドンされた時も、関節キスの時も……っ。


ドキドキで心臓が壊れそうなくらいで……。


あぁもう!


どうしちゃった私!!


悶々と考える私に、慎は何かに気づいたようで。
長谷川慎
長谷川慎
あなた……お前、マジで?
なんて聞いてきやがった。


マジで?って何がだよ。


何も考えてないよ。


いや、考えきれていない、が正解か。


頭の中は大混乱だよ。


慎が変な質問するから。
長谷川慎
長谷川慎
……あなたって、樹のこと好きなのか?
倉木(なまえ)
倉木あなた
え?
そりゃ好きだけど。


多分慎が思っているような好きではなくて……。
長谷川慎
長谷川慎
あなた、お前のモヤモヤを解決してやろうか
倉木(なまえ)
倉木あなた
はぁ……まぁいいよ。お願い
しかし、慎も変わるもんなんだね。


あんなに私の事敵対視してたのに。


相談に乗ってくれるなんて。
長谷川慎
長谷川慎
いいか?俺の質問に正直に答えろよ?
私はしっかりと頷いた。
長谷川慎
長谷川慎
樹に手を繋がれたらどう思う?
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、とくには何も
長谷川慎
長谷川慎
かわいいって言われたら?
倉木(なまえ)
倉木あなた
ありえない
……何だこの質問。


慎は『解決してやろうか』なんて言ったくせに、私の回答に、う〜んと考え込んでいる。


すると慎は、あっと言うようにポンッと手を叩くと、私に向き合って、
長谷川慎
長谷川慎
じゃああなた……樹に、抱きしめられたらイヤ?
意地悪そうに微笑んだ。


……抱きしめられたら……って。


この前、抱きしめられた……よね?


えっとえっと、
長谷川慎
長谷川慎
あなた、正直に言えよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
い、イヤじゃ……なかった
うわぁぁぁぁあ!!


顔の温度が再び急上昇する。


真っ赤だ。


絶対に今、真っ赤だ。


だって『正直に』って言うんだもん!


魔王様がそうおっしゃるんだもん!!


私の答えが意外だったのか、


慎は目を見開いて驚いている。


けど、すぐにはぁ〜っと大きくため息をつくと、


私の頭にポンッと手を乗せた。
長谷川慎
長谷川慎
イヤじゃ、なかったって言ったよな。あなた。あ〜もうお前、それ決定じゃん。なかった……ってことは、抱きしめられたことはあるんだろ。なんで自分の気持ちに気づかないのか謎だわ
……自分の気持ち?


グリグリと撫でられる頭のせいでよく考えられない。


……あれ、てか慎、私の頭なんか触って平気なのだろうか。


まあ深くは考えないでおこう。
長谷川慎
長谷川慎
あなた、アイツに彼女ができたらどうする?
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹に彼女?
……おかしい。


想像するとモヤモヤする。


ダメだ、これ以上考えるのは。


私、何をしているのだろう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ごめん慎、もう戻る
長谷川慎
長谷川慎
は?
倉木(なまえ)
倉木あなた
ちゃんと、答え出すから
この答えは、慎に質問されてその時の気持ちで判断しては行けない。


私がちゃんとあいつの目を見て、


気づかなくちゃいけない気持ちなんだ。











階段を1段飛ばしで駆け下りる。


樹は、たまり場にいるかな。


会えば、わかる気がする。


なんでこんな乙女になってるの、私!!


私らしくない!!


ここは堂々と行こうじゃないの!


ズカズカと、階段を下りる足に力を入れた瞬間、
倉木(なまえ)
倉木あなた
きゃっ
ズルッと音を立て、私の体が宙を舞った。


前のめりに落ちる体。


これは……。


顔面着陸の危機!!


女子として、あってはならぬ事態になる!!


顔面から落ちて鼻血を出して、


挙げ句の果てにはスカートから下着丸見えという少女マンガあるあるの展開。


あれはかわいい子だから許されるのであって、


平凡なヒロインがやっていい技ではない。


華麗に着陸なんて芸ももつまていないので……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
うぎゃぁぁぁああ!!
ヘルプミーー!!
藤原樹
藤原樹
っと、危ねぇな
あれ、おかしい。


顔面着陸したはずなのに痛くない……。


目をゆっくり開けると、
倉木(なまえ)
倉木あなた
わぁ!
ドアップの樹。


したも樹のことを下敷きにしちゃってるし!
倉木(なまえ)
倉木あなた
い、樹なんでここに……っ
藤原樹
藤原樹
あなたの、色気のない叫び声が聞こえたからに決まってんだろ……
色気のない!?
藤原樹
藤原樹
うぎゃぁぁぁああ!!とか叫ぶ女子なんて、お前しかいねぇの。まぁ、だからあなただってわかって助けたんだけど
樹と至近距離で目が合う。


ドクンドクン、と心臓が鳴って、死にそうなくらい恥ずかしい。


聞こえてるんじゃないかって思っちゃうから。
倉木(なまえ)
倉木あなた
うう……っ
藤原樹
藤原樹
は?
よかった、安心した。


次の瞬間、すごく目頭が熱い。


1滴、涙が溢れちゃうと。
倉木(なまえ)
倉木あなた
うわぁぁぁあん!怖かったようううう
藤原樹
藤原樹
マジで!?泣くのかあなた?お前が!?おい、ちょ、大丈夫かよ……
全然止まらない。


だってだって、怖かったんだもん。


体が浮いたのがわかって……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
顔面着陸して鼻血出して、スカートから下着が丸見えになっちゃうっていう、少女マンガのかわいいヒロイン限定の状況に平凡な私がなっちゃうかと思ったんだもん!!
藤原樹
藤原樹
心配して損した。早く俺から下りろ
倉木(なまえ)
倉木あなた
なんで!?
でも……っ、
倉木(なまえ)
倉木あなた
へへっ
樹が助けてくれたからもうなんでもいいや。
藤原樹
藤原樹
なんだよ、泣いたり笑ったり変な奴だな
倉木(なまえ)
倉木あなた
ど〜せゴリラですよ
悔しいけど、樹の中で私は面白い奴、とか、そういうポジションなんだと思う。


けど、助けてくれた。


それなりに大事に思ってくれてるって、自惚れるくらいはいいかな〜なんて。


樹の胸に顔を埋めてみる。


はぁ……この気持ち。


バレなきゃいいけど、しばらくこうしていたい。
藤原樹
藤原樹
あなた……?
倉木(なまえ)
倉木あなた
わ!ごめん……つい……
倉木(なまえ)
倉木あなた
てか重かったでしょ?
気づけば樹の上にずっと乗っちゃっていたんだ。


あ〜恥ずかしい。


ここが人のこない階段じゃなければ、 色々な人に見られて樹のファンに殺されてたよ?


起き上がろうと、樹の胸をそっと押す。


けど、
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹……?
樹の腕が、私の背中にまわって離れられなかった。
藤原樹
藤原樹
このまま……離したくねぇ……
え……。


樹の手が触れている背中が熱い。


ちらっと樹を見ると、まっすぐに見つめ返される。
倉木(なまえ)
倉木あなた
えっと……あのっ
どうしよう……っ。


ていうかこの状況……。


端から見たらなんて破廉恥な光景なんだろう。


どうしようどうしよう。


どうすればいいのかわからなくて、樹の制服をぎゅっと掴む。


そんな私に気づいたのか、樹は私の背中にまわした腕を外すと、私の脇に手を入れて立たせた。
藤原樹
藤原樹
ごめんあなた。俺どうかしてた
そう言って私の頭をポンと撫でると、そのままたまり場も教室もない方向へ歩いていった樹。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……バカ
私の気持ちなんて知らないから……。


抱きしめるなんてできるんだ。


慎にいつか聞かれた。


樹のことを好きになる可能性。


隕石が降ってくる確率と同じ。


そんな話をしたのは、いつだったのか……。

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