第27話

登校の甘い罠
4,267
2020/10/04 13:05
倉木(なまえ)
倉木あなた
ふわぁぁぁぁあ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……ん?
いつもと違うベッドの柔らかさに1度は首をかしげたけれど。
倉木(なまえ)
倉木あなた
あ〜……樹の部屋だったわ、ここ
思い出した。


みんなが来たから樹の部屋で寝たんだった。


その時、
浦川翔平
浦川翔平
おっはよ〜!!
倉木(なまえ)
倉木あなた
ぎゃぁぁぁぁあああ!!
浦川翔平
浦川翔平
はよ〜!あなた!!
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、あ、おはようございます
藤原樹
藤原樹
学校、行くぞ。早く準備しろ
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、あ、うん……ん?
翔平と樹がなんでここに……。


というか!!


私まだ、寝起きじゃん!!


パジャマじゃん!!
倉木(なまえ)
倉木あなた
入ってこないでよ!
私は樹の枕をブン投げる。
藤原樹
藤原樹
あっぶねぇーなー
藤原樹
藤原樹
早く来いよ。5分で準備しろ
倉木(なまえ)
倉木あなた
アホか。できるわけないし、このタコ
私は、べ〜っと舌を出した。


私だって女の子だよ?


準備時間は、もっとかかるって!
藤原樹
藤原樹
できる。あなたならできると信じてる
倉木(なまえ)
倉木あなた
信じられても困る
藤原樹
藤原樹
チッ……面倒くさ
はい!?


なんで舌打ちされたの……。


樹はため息をつきながら右手で前髪をかきわけると、
藤原樹
藤原樹
……とにかく早くしろよ。下にいるから
倉木(なまえ)
倉木あなた
え……?ちょ、なんて俺様な奴なの?
私は樹のベッドから飛びおりると、イライラしながら髪を整える。


強い言葉で指図するのは、暴走族のリーダーとして大切かもしれないけど……!!


私は違うし!!


昨日から枕元に置いていた制服に袖を通すと、この部屋には鏡がないことに気づく。


髪とか寝起きでボサボサだから、早く洗面所へ行って整えたい。


少し駆け足で洗面所へ向かっていると、目の前に大きな黒い物体が……って、
倉木(なまえ)
倉木あなた
うわっ
倉木(なまえ)
倉木あなた
わっごめんっ
吉野北人
吉野北人
走ったら危ないよ、あなたチャン
倉木(なまえ)
倉木あなた
あ……北人か
北人もまだ寝起きなのか、いつもキレイにセットされている前髪がまだチョンっとはねている。
吉野北人
吉野北人
おはようあなたチャン。今日もかわいいね
倉木(なまえ)
倉木あなた
おはよう、北人。北人は今日もチャラいね
吉野北人
吉野北人
まぁね。俺のアイデンティティー
チャラさがアイデンティティーって、残念ながら私にそのよさはよくわからない。


北人の横を通り過ぎようとすると、ジッと視線で追いかけられているのがわかる。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……何?
吉野北人
吉野北人
いや……、あなたチャン、朝は大胆なの?
倉木(なまえ)
倉木あなた
は……?
大胆って……何が?
吉野北人
吉野北人
……あなたチャン……
そして、耳に極限に近づけられた口元がそっと囁いた。
吉野北人
吉野北人
……ピンクのレース下着なんて、持ってるんだね?
そう微笑む北人の視線を追うように自分のスカートを見ると、急いで着替えたせいか、めくれ上がっている。


そうなると、もちろん丸見えなわけで……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
〜〜っ、変態……
吉野北人
吉野北人
男はみんな変態なんだよ?あなたチャンの下着の色、樹に言わなきゃ〜
倉木(なまえ)
倉木あなた
最低すぎる……
後ろ手で急いでスカートを直す。


っていうか、なんで樹にわざわざ言うの……。
吉野北人
吉野北人
もしかして、一緒に住んでるから洗濯とかで……
倉木(なまえ)
倉木あなた
ちょっと、からかってるでしょ!
吉野北人
吉野北人
バレた〜?
倉木(なまえ)
倉木あなた
もう……
吉野北人
吉野北人
ねぇあなたチャン
浦川翔平
浦川翔平
……おーい!お前らなにやってんの?早く学校行くぞ!遅れるぞ!
北人の言葉を遮って、洗面所の角からチラッと顔を覗かせたのは翔平。
倉木(なまえ)
倉木あなた
もう学校に行くの?早くない?
浦川翔平
浦川翔平
何言ってんだよあなた。もう出ないと遅刻だぞ
倉木(なまえ)
倉木あなた
はい!?
嘘でしょ!?


驚いて壁にかかっている時計を見ると、朝のホームルームが始まる10分前。


間に合わない!
浦川翔平
浦川翔平
いやぁ、あなた、ぐっすり寝てたからな〜。いつもより1時間遅く起きちゃったんだな
倉木(なまえ)
倉木あなた
うわぁぁあ、急がないと!あ、ごめん北人。話は今度でもいい?
吉野北人
吉野北人
ううん〜、たいしたことない話だから忘れて〜
どうせ、また下着がどうとかそういう話なんだろう。


北人はせっかくカッコイイんだから、チャラチャラしてなきゃいいのになって思う。


まぁ、アイデンティティーなら仕方ないけど!


髪をとかして適当に結ぶと、私はパンをくわえて玄関を飛び出した。


ドアを開けた先には、
藤原樹
藤原樹
おせぇよあなた
倉木(なまえ)
倉木あなた
は……?なんで樹……
藤原樹
藤原樹
なんでって学校に行くからな。早くしろよ、俺まで遅れんだろ
倉木(なまえ)
倉木あなた
え……?あ、そうだよね、他のみんなは?
藤原樹
藤原樹
翔平は、あなたが準備してる間に走っていった。あとはみんなサボり。昼前から来るだろ
サボり……。


そうだった、翔平以外はサボり魔なんだった。


というか、この時間は遅刻決定だな……。


携帯を開き、時間を見てため息をつく。


いいのかな、私って特待生なのに。
倉木(なまえ)
倉木あなた
珍しいね、樹が朝から登校なんて
藤原樹
藤原樹
お前の寝坊も珍しいだろ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なかなか寝付けなくてね
藤原樹
藤原樹
部屋の外から声かけた時はぐーすか寝てたけどな。そんなに俺のベッドがよかったのか
倉木(なまえ)
倉木あなた
ごめん、ちょっとよく意味がわからない
樹は、そーかよと言って、なぜか私の手を引いた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なんで、手握るの?
藤原樹
藤原樹
急ぐために決まってるだろ、早く行くぞ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……ちょ、っと……
手、手、手……!


足に意識はない、手に全神経が集中しているみたいなんだもん。


本当に、本当にこういうことに慣れてないからどうすればいいのか分からない。


だって、普通こんなに簡単に手って繋ぐものなの?


完全にパニック。


しかも校門につくと、樹は、息切れする私とは裏腹に余裕そう。
藤原樹
藤原樹
ギリギリ間に合ったんじゃね?
樹の言葉で急いで時計を見ると、ホームルーム開始2分前だ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
うっそ……、奇跡だ
正直、ここから教室までまたダッシュする気力なんてないけど。
藤原樹
藤原樹
休憩してたら間に合わねぇよ、特待生
樹はそう言って私の背中を押す。


自分だって遅刻しそうじゃん。


仕方ないからもう1回走った。


この日ほど早く走れたことなんてないし、この日ほど汗だくになった日なんて今までなかった。

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