いつもと違うベッドの柔らかさに1度は首をかしげたけれど。
思い出した。
みんなが来たから樹の部屋で寝たんだった。
その時、
翔平と樹がなんでここに……。
というか!!
私まだ、寝起きじゃん!!
パジャマじゃん!!
私は樹の枕をブン投げる。
私は、べ〜っと舌を出した。
私だって女の子だよ?
準備時間は、もっとかかるって!
はい!?
なんで舌打ちされたの……。
樹はため息をつきながら右手で前髪をかきわけると、
私は樹のベッドから飛びおりると、イライラしながら髪を整える。
強い言葉で指図するのは、暴走族のリーダーとして大切かもしれないけど……!!
私は違うし!!
昨日から枕元に置いていた制服に袖を通すと、この部屋には鏡がないことに気づく。
髪とか寝起きでボサボサだから、早く洗面所へ行って整えたい。
少し駆け足で洗面所へ向かっていると、目の前に大きな黒い物体が……って、
北人もまだ寝起きなのか、いつもキレイにセットされている前髪がまだチョンっとはねている。
チャラさがアイデンティティーって、残念ながら私にそのよさはよくわからない。
北人の横を通り過ぎようとすると、ジッと視線で追いかけられているのがわかる。
大胆って……何が?
そして、耳に極限に近づけられた口元がそっと囁いた。
そう微笑む北人の視線を追うように自分のスカートを見ると、急いで着替えたせいか、めくれ上がっている。
そうなると、もちろん丸見えなわけで……。
後ろ手で急いでスカートを直す。
っていうか、なんで樹にわざわざ言うの……。
北人の言葉を遮って、洗面所の角からチラッと顔を覗かせたのは翔平。
嘘でしょ!?
驚いて壁にかかっている時計を見ると、朝のホームルームが始まる10分前。
間に合わない!
どうせ、また下着がどうとかそういう話なんだろう。
北人はせっかくカッコイイんだから、チャラチャラしてなきゃいいのになって思う。
まぁ、アイデンティティーなら仕方ないけど!
髪をとかして適当に結ぶと、私はパンをくわえて玄関を飛び出した。
ドアを開けた先には、
サボり……。
そうだった、翔平以外はサボり魔なんだった。
というか、この時間は遅刻決定だな……。
携帯を開き、時間を見てため息をつく。
いいのかな、私って特待生なのに。
樹は、そーかよと言って、なぜか私の手を引いた。
手、手、手……!
足に意識はない、手に全神経が集中しているみたいなんだもん。
本当に、本当にこういうことに慣れてないからどうすればいいのか分からない。
だって、普通こんなに簡単に手って繋ぐものなの?
完全にパニック。
しかも校門につくと、樹は、息切れする私とは裏腹に余裕そう。
樹の言葉で急いで時計を見ると、ホームルーム開始2分前だ。
正直、ここから教室までまたダッシュする気力なんてないけど。
樹はそう言って私の背中を押す。
自分だって遅刻しそうじゃん。
仕方ないからもう1回走った。
この日ほど早く走れたことなんてないし、この日ほど汗だくになった日なんて今までなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。