第44話

2人きりの同居
4,151
2020/10/26 08:47
倉木(なまえ)
倉木あなた
ただいまです!
藤原樹
藤原樹
……ただいま
2人揃って家につく。


樹とこうして2人で『ただいま』を言うなんて、久しぶりで少し嬉しい。
藤原樹
藤原樹
そういえばあなた、バイトの時間、平気か?
腕時計をチラッと見ると、始業5分前。
倉木(なまえ)
倉木あなた
急ぐ!あと5分だった!
忘れてた。


危なかった。


私は急いで階段を駆け上がり、荷物を3階の部屋に投げ入れる。


下からは、樹の「転げ落ちるなよ〜」なんて声が聞こえるけど、そういうことを言われると自分にフラグが立つことを私は知っている。


急いでる時に1段飛ばしで階段を駆け下りるところを、1段1段きちんと踏んで下りる。
藤原樹
藤原樹
お〜頑張れよ〜
倉木(なまえ)
倉木あなた
ありがとう!!
いまだに玄関に突っ立っている樹の横を通り過ぎて、店に向かおうとした時、
藤原涼子
藤原涼子
急がなくていいわ
倉木(なまえ)
倉木あなた
え、なんでですか、涼子さん……
藤原涼子
藤原涼子
あのね、今日はお店を閉めてるの。夕飯の時に話すことがあるから、今日は3人で食べましょうね?
倉木(なまえ)
倉木あなた
あ、はい……
珍しいなぁ。


何がって、お休みにすることだけど、私たちに話すことがあるなんて……。


そして、それを夕飯の時に……というところが。


いつもの涼子さんならこの場で言っちゃいそうなのに。


それってつまり、
藤原樹
藤原樹
俺と、あなたに関わる話なのかよ?
そう、樹の言う通りだ。


そういうことになる。


樹の真面目な顔に、涼子さんはう〜ん、と顎に手を当てて考えているけど、
藤原涼子
藤原涼子
そ〜ねぇ、お楽しみで!
てへっと笑って返された。


高校2年生の息子がいながらの、この若さと美しさ。


どうしたら、こんな仕草をしてもかわいいのだろうか。


とりあえず、夕食まで部屋で待機だ。


私は部屋に入るなり、いつも通りベッドにダイブする。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……なんなんだ〜!
そして、枕に向かって大きく叫ぶ。


もちろん枕に向かって叫んでるから、声はこもって部屋の外なんかには聞こえない。


もう本当に、なんなんだ!


涼子さんの話のことももちろん気になるけど。


私のなんなんだ!!って思うところはそこじゃなくて。
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹のバカ……
樹のことだった。


だってだって。


いきなり抱きついてきたりする?


道端で、ぎゅって抱きしめるバカなんて他を探してもいないよ?


なんで樹が私に今日あんなに甘かったのか。


まったくわからないけど。


でも、イヤじゃなかった……


と思う私がいるのが何よりも怖い。


RAMPAGEのことは確かに大好きだし、樹のことももちろん好きだけど……。


だ、抱きしめ合うとかって。


そういう『好き』でもできるものかな?
倉木(なまえ)
倉木あなた
なんでこんなに悩んでんだか……
帰ってくるまでの道。


樹のとなりを歩くだけで、心臓がバクバクしちゃって。


この音が聞こえてしまうんじゃないかって思った。


それと同時に、変なモヤモヤもあった。


抱きしめられて心地いいなって樹の胸に顔を埋めた瞬間に、


女の子にこうやって抱きつくのは、樹にとって普通なのかなって。


そんな思いが降ってきたから。


私、なんで。


「会いたいと思った」とか、「触れたくなった」


なんて言っちゃったんだろう。


少し照れたような表情を浮かべた樹。


いつもなら怖いはずのその目が私に何かを求めているような気さえして、思わず口から飛び出た言葉たち。


けど今思えば、あれは確実に私の本心だった。


会いたいって思った。


触れたいって思った。


けど、なんで思ったのかの答えなんてわからない。


あの時の一時的なものかもしれない。


それでも私があの時、そう思っていたことは事実だ。
倉木(なまえ)
倉木あなた
本当、RAMPAGEに出会ってから、私、おかしくなった気がする
それがいいのか、悪いのか。


そんなの、自分でもわからない。
倉木(なまえ)
倉木あなた
クソ〜!
藤原樹
藤原樹
おい、あなた。女子がクソ、なんて言うなよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
ぎゃっ!!
うつ伏せになって枕に伏せていた顔を上げると、樹のドアップ。


なんで!?


なんで、ここに樹が!!


そして、近い!!


すごく近い!!


それより、ここにいるってことは。
倉木(なまえ)
倉木あなた
か、勝手に入ってきたの……?
藤原樹
藤原樹
当たり前。早く下りるぞ。夕飯できたってよ
え!?


もうそんな時間!?


勢いよく起き上がって時計を見ると、帰ってきてから45分もたっていた。


私、45分も考えてたの……?
藤原樹
藤原樹
あなた、何ぼーっとしてんだよ。そらに、まだ制服だし。制服で寝転んでるとシワになるぞ
なんでそこだけ女子っぽいことを言うのか。


まぁ、正論だから私は体を持ち上げると、クローゼットを開いて部屋着を探す。


樹はそこに突っ立ったまま。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……?
着替えようとしてるの、わかってるはずなのに。


出ていかないというのか、この野郎。
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹……?
う〜ん、ぼーっとしてるのかな。


ったく、女の子が着替えようとしてんのに、ぼーっとして出ていかないとは。


この男は常識というか、そういうマナーを持ち合わせて居ないんだろうか。


……ううん、多分ないんじゃなくて。


私が、女子に見られてないだけかな〜?


私のこと、ゴリラとか言ってたもんね。


その事に、少し胸がチクリと痛んだ気がした。
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹!!
藤原樹
藤原樹
わ!!
倉木(なまえ)
倉木あなた
私、着替えたいんだけど?
藤原樹
藤原樹
え?あぁ、ごめん
樹はそう言うと、そそくさと部屋を出ていった。


うん?


なんか様子がおかしい?








私はさっさと部屋着に着替えると、部屋のドアを開けた。


その横の壁に、寄りかかって待っていた樹。


その姿は、どう見てもメンチを切るヤンキー。


慣れたからいいんだけど。
倉木(なまえ)
倉木あなた
樹、待っててくれたんだ
下の階に行くだけなのに。


とういか、同じ家だし。


なんでわざわざ?
藤原樹
藤原樹
……お前に言っとくことがあったからな
言っとくこと?


さっき様子がおかしかった理由かな?


でも、どうせ深い話してはないだろう。


しれ〜っ、としている私に、樹は「はぁ〜」とため息をつき、
倉木(なまえ)
倉木あなた
きゃっ!!
私の手を掴み、そのまま引くと、自分のいた壁に私の背中を押し付けた。
倉木(なまえ)
倉木あなた
いった……
壁に押し付けられた私をさらに追い詰めるかのように、樹は顔の横に手をついた。


これは……2度目の、壁ドン!?
藤原樹
藤原樹
お前さァ、もっと危機感もてよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
危機感……?
また、訳の分からないことを。


そして、壁ドンは犯罪だってば……。


顔の横についてある、樹の手首を掴む。


そして必死にどかそうとするけど……。
倉木(なまえ)
倉木あなた
……っ!動かないし
藤原樹
藤原樹
……あなた、お前、俺に気ぃ許しすぎ
倉木(なまえ)
倉木あなた
許して何が悪い
いいことじゃん。


警戒してないんだよ?


樹のこと信頼してるんだよ?


それは樹にとってダメなことなの?


じぃ〜っと樹を見つめてみる。


樹は私の視線に耐えられなくなったのか、ふいっと目を逸らした。


そして、ふぅ〜っと深呼吸をして、もう一度、私に視線を合わせて言った。
藤原樹
藤原樹
あのな、確かに勝手に入ったのは俺だけど……っ!一応は俺の家なんだし。そういう意識はしてほしいんだよ
倉木(なまえ)
倉木あなた
……ごめん、何の話?
藤原樹
藤原樹
……じ、自覚ないのかよ!
倉木(なまえ)
倉木あなた
だからなんなの!?もう〜、話がよめない!
藤原樹
藤原樹
さっきお前、制服のまま寝転んでただろ?俺が入ってくるかもって常に意識して。あんな格好、次に見たら、ガマンできる自信ない
制服のまま寝転んでたって言われたけど、それってさっきの……?
倉木(なまえ)
倉木あなた
が、ガマンってなんの……っ
藤原樹
藤原樹
わかってるくせに
そう言って樹は肘まで壁につけると、急接近してくる。


ち、近い!!


今にも唇が触れそうな距離。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ば、バカっ!
私は初めて会った時みたいに、樹に蹴りを入れる。


ところが、その足はつかまれてしまった。
倉木(なまえ)
倉木あなた
は、離してよ
藤原樹
藤原樹
こんな細っこい白い足なんかして、男が誘惑されないとでも思ってんのか
樹がすごい剣幕でおこっている。


なんで怒ってるの。


誘惑なんかしてないし、私なんかが誘惑なんてできるわけないのは、ゴリラとか言ってる樹が1番よくわかってるでしょう?


足が出てるのが、そんなにダメだったの?
藤原樹
藤原樹
つい見ちまうんだよ、長ズボンはいてこい
倉木(なまえ)
倉木あなた
変態!
藤原樹
藤原樹
男はみんな変態だから気をつけろって、わざわざ言ってやってんだよ
そう言って樹は私の頬をスーッと撫でて、私から離れた。


触られた頬が熱い。


さっきまで触れそうな近さだっただけに、樹が離れると空気も何もかも軽く冷たく感じる。


樹は、私を待たずに階段を下りていった。


緊張が解けたからか、私はストンッと足の力が抜けてしまう。
倉木(なまえ)
倉木あなた
ありえない……っ
樹がよくわからない。


ただ1つわかるとしたら、初めて会った時に壁ドンをされた時とは、私の気持ちは何もかも違っていて。


抱きしめられた時と同じで、


壁ドンされることも、


キスできそうな距離になることも、


頬をなでられることも。












イヤじゃないってことだ。

プリ小説オーディオドラマ