自分で言うのもおかしいのかも知れないけれどボクは恵まれていた。ボクは他の子とは違っていたのに愛してくれる人達がいたから。だからなのかな?その恵まれた環境は長く続かず、突如終わりを迎えた。1回目の悲劇。でも、新しい環境になっても恵まれた。だけどやっぱり長くは続かなくて終わりを迎えた。2回目の悲劇。
そして、新しい環境になってまた恵まれた。この恵みには、1回目や2回目のような悲劇は起こるのか。
これから話すのは、そんなお話。
あの日は始業式があって、クラス替えがあった。仲のいい子と同じクラスになれるかなぁって、修了式が終わった後からずっと考えてたんだ。お母さんやお父さんと一緒に神様にお願いもした。だからなんだと思う。お願いが叶って、仲のいい子と一緒のクラスになれたんだ。だからお母さんやお父さんが帰ってくるのを楽しみにしてた。ううん、それだけじゃない。数日前からお母さんとお父さんはお仕事で山登りに行ってた。多分山の調査をしてたんだと思う。その日は山の調査から帰ってくる日でもあったから、2つの理由で帰ってくるのを楽しみにしてた。
ボクは自分の足が床に全然つかない程の高い椅子に座って、足をぷらぷらさせながら勉強をして待ってた。勉強を始める前にお風呂にも入ったの。帰って来たお母さんとお父さんに褒めてもらえるように。
お母さんとお父さんは度々山の調査をしてたから、その度に叔母さんや叔父さんの家に預けられてた。お母さんとお父さんが帰ってくる日は、叔母さんと叔父さんが来て面倒を見てくれるから自分の家で待ってた。この時間なら叔母さんは晩御飯用に買ってきた物を並べてるか、晩御飯を作ってて、叔父さんはテレビを流しながら新聞を見てるんだけど。
それからしばらくして勉強が終わったころ。ガチャガチャと鍵を開ける音がした。みんないなくて退屈でさみしかったけどその時間ももう終わりって思って、椅子から勢いよく降りてバタバタと走って玄関まで行った。
ボクの元気で明るい声や表情とは真逆で、帰って来た叔母さんと叔父さんの表情は暗かった。
そのあとは叔母さんが運転する車に乗って警察署に行った。車内は音楽も、声も無く、暗い雰囲気が漂っていた。警察署に着いて警察官と叔母さんや叔父さんが何かを確認したあとボクだけ別室に案内された。部屋に入ると警察官が1人先にいて、机と椅子があって椅子は何個かあった。
先に部屋にいた警察官が座っていた方とは反対の椅子に座るように言われた。その椅子も足が床につかなかった。
ボクの前に警察官が2人いて、先にいた警察官の方にノートとペンが置いてあった。
ボクはこくりと1回だけうなずた。質問の内容は覚えてない。でも、家族に関係する質問だったはず。
何個か質問に答えた後、警察官と一緒に部屋を出て待ってた叔母さんと叔父さんに合流した。
その後に言われた言葉を、ボクは一生忘れない。
これが、1回目の悲劇。
ボクはその言葉の意味をすぐに理解できなかった。その言葉の前や後にも何か言ってたけどその言葉しか覚えてない。なくなった?なくなったってなんだろう?家からいなくなったってこと?亡くなった?死んだの?死んだってどういうこと?だって数日前まで、山に行く前まではいたよ。楽しくおしゃべりして、新学期楽しみだねって。言ってたよ。理解できない。ううん、理解したくなかった。本当にもう会えない気がして。
何を思ったのか、警察官の方を見て言ったんだ。
ドラマで死体確認をするシーンでも見てたのかな。見れることをなぜか知ってたから。見せてって言った。
その後別室に行って、お母さんとお父さんを見せてもらった。確かに、2人だった。何かの間違いじゃなかった。本当だった。目の前に、横になってるお母さんとお父さんがいた。なんでこんなところにいるの、なにしてるの。って言ったのか、思ったのかはわからない。誰かの鼻のすする音が聞こえた。それがボクのなのか警察官のなのかわかんなかったけど、ただ言えるのは、叔母さんと叔父さんは泣いてなかった。先に色々聞いて、見てたからなんだって思った。
確認が終わった後のことはほんとに何も覚えてなくて、3人で楽しく暮らしていた家にいつの間にか帰ってきていた。とりあえずテーブルに向かって何かした気がする。叔母さんと叔父さんはボクが着ている下着や洋服、パジャマや必要なものを数日分リュックに入れて車に乗って叔母さんと叔父さんの家に行った。宿題をする前にお風呂に入っていてよかったなと思った。お母さんとお父さんが亡くなったって知ったばかりなのに入れる気がしなかったから。あんなに食べたかったご飯も食べられなかった。食べられる分だけでいいよ、食べなくてもいいよって叔母さんに言われたから、食べる選択をしなかった。おなかの音がうるさくて次の日の夕方に食べた気がする。
布団にはいつもより早い時間に入った。叔母さんと叔父さんが寝てる部屋やリビングからは遠くにある部屋だった。いつもよりも早く布団に入ったのに全然眠れなかった。涙は不思議と出なかった。混乱していたから。朝方、叔母さんが起きる時間くらいになってようやく眠れた。
疲れていたからか12時間くらい寝た。起きてから学校を休んだことに気が付いて叔母さんに確認すると休む連絡を入れていたと聞かされた。ついでに先生からはしばらく休ませてあげてくださいと言われていたらしい。その日は起きてからご飯を食べて、着替えて、自室にこもった。その日の夜も中々眠れなくて、日をまたいでまた叔母さんが起きてくるころに寝た。そんな生活を1週間近く過ごしたある日、お昼前に起こされていつもと違う服に着替えさせられて連れていかれた。終わるころに気がついた。あれはお葬式だったのだと。お別れになるんだと実感して式の最中はずっと泣いていた。お葬式だとわかっていなかったのに。
叔母さんと叔父さんの家に戻ってきてから聞いた。
って。
その後に色々聞かされた。死因は山で足を滑らせたことによるもの。発見者は警察で予定よりも下山が遅いと違和感をもった仕事場の人が電話をしたが繋がらず、下山記録を見ても名前がなかったことから警察に連絡をし、発覚したこと。お母さんとお父さんと一緒に住んでいた家は叔母さんと叔父さんのおかげでそのままなこと、これからは叔母さんと叔父さんと一緒に暮らしていくこと。お母さんとお父さんと一緒に暮らしていた家の出入りは自由にしていいことも言われた。でもこれは当然じゃない?って思った。他にも色々あった気がするけど、覚えているのはこれくらい。
その晩から1週間以上泣いた。死体確認をした日は混乱していて、お母さんとお父さんが亡くなったことしか頭になかったから。学校に行ってもボクではないかのように静かになった。クラスメイトもボクの事情を知っていたらしく気まずそうにしていた。まあ、別のことでからかってきたり、変な空気が流れていた時があったから気まずそうにしている空気は気にしてなかった。1番仲が良かった子だけは前と変わらず接してくれ、自由帳で作った物や絵をくれた。ボクが他の子とは違うことを知っているはずなのに、それを気にするそぶりを見せずに接してくれるから嬉しかった。
その子のおかげで段々元気になっていったボクは、お母さんが趣味で作っていた道具や布を使ってお礼の刺繡でできるお花を作った。完成して作品をその子にあげたらすっごく喜んでくれて、それを見ていた子たちが話しかけてくるようになった。家に帰ってその話をすると叔母さんは嬉しそうにして一緒に刺繡をするようになって、叔父さんはニコニコしてボクたちの様子を見ていた。
お母さんの趣味でボクが笑顔になれたことに気がついて、直接感謝したくなった。本当はもっとお母さんに刺繍や小物づくりを教わりたかった。そして、一緒に作った物をプレゼントしあいっこしたかった。お母さんとお父さんの誕生日にプレゼントをして喜んでほしかった。でも、それは叶わないんだって、悲しくなった。お母さんの趣味で泣きたくなかったから、お母さんとお父さんが亡くなったことが悲しいんだってことにしてまた寝る前に泣くようになった。多分叔母さんと叔父さんはボクが泣いてることに気づいてたけど、泣いてるときに声をかけてこなかった。それはありがたかったな。
たまに
って、言ってきた。その言葉だけでも少し心が落ち着いていたのは事実。他の子とは違うボクを気にして一緒に暮らそうって言ってくれただけでもありがたいのに、心配してくれるんだ、優しいなって思った。
いつの間にかそう言ってて、そのときに思ったんだ。ボクの誕生日に2人になにかプレゼントしたいなぁって。
それからボクは遅れてた勉強をお母さんの趣味がきっかけで仲良くなった子に教えてもらいながら、叔母さんと叔父さんの家に戻ってプレゼント作りに励む日々を1か月くらい過ごした。2人の喜ぶ顔を想像しながら。当時のボクはすっごく張り切ってたから難しい刺繍の柄にしちゃって…学校に持って行って2,3時間目の授業の間の遊ぶ時間やお昼休みの時間も使って難しい柄のを何個も作ったんだ。作ってるところを友達や先生に応援してもらいながらなんとか誕生日までに完成させられて嬉しかったなぁ。でも同時に、なんで自分の誕生日なのにこんな苦労してるんだろって思っちゃった。難しい柄の刺繍を何個も作れた達成感があるからいいやって自分でなんとか納得させたの。
そして誕生日当日。一生忘れない誕生日。6月15日。
2回目の悲劇が起こった。
誕生日の日から2回目の悲劇が始まった。
ボクのせいでお母さんとお父さんが亡くなって知ったのは、誕生日の日じゃなかったけどね。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。