第18話

一番近くに感じていた。
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2018/01/29 03:19
沙織
知念くんと何話してたの?
理科室へ移動中、沙織がこっそりと耳打ちして問いかけた。沙織も知念くんのこと知ってるのかな?
沙織
知ってるも何も!2人は同じグループなんだし有名だし!
涼介も沙織も、私も皆グループなんて言っていたが、
どうやら実際は二人組のアイドルユニット“pure×lovely”らしい。

なんて、聞いてもあまりアイドルとかに興味のない私には全然ピンと来ていないけど。
あなた

知念くんとは特になにも話してはないんだけどね

沙織
え、そうなの?
あなた

うん、ぶつかっちゃってお互いにごめんねって言っただけで………

沙織は「よかった」と安堵すると、ほかの人の耳にあまり入らないよう教科書達で壁を作った。
沙織
あまり知念くんと仲良くしない方がいいよ!
あなた

え、そうなの?

沙織いわく、pure×lovelyの大ファンな先輩がいて、その先輩が涼介の事も知念くんの事も狙っているという噂らしい。

ただでさえ“山田涼介の幼なじみ”として涼介と仲良くしている私は、先輩の目に付きやすいらしく、知念くんまでもとなれば嫌がらせの対象に入ってしまう。

と沙織は言った。
沙織
まぁ、その時は私も助けるけどね!
沙織
だからなんかあったら絶対に話してよ!
あなた

………!うん、ありがとう!

沙織はなんだかんだ言ってやっぱり優しいな。教科書達を胸の前で抱えた私は、その手を少し強めた。
それにしても、涼介はいつの間にかそんなに人気になっていたんだと、私は自分の事のように胸を踊らせた。

だって、あんなに恥ずかしがり屋で人見知りで、不器用すぎる涼介。
正直アイドルだってなるとは言っていたあの時も、どこか出来ないのではという思いさえ存在していたくらいだ。
そんな涼介がいつの間にかそんなに有名で人気で、私やおばさん達だけでなく学校の女の子たちや日本中の人たちから愛してもらえるなんて。

自分の事のように嬉しい気持ちもある反面、どこか寂しさも感じてしまうような複雑な私がいた。
山田涼介
山田涼介
――――はぁ?ふざけんなって!
移動教室に着き、教室の後ろの方で友達となにやら会話をしている涼介。その笑顔はやっぱり輝いていて。

そんな涼介を目にして思った。
あんなに近くに感じていた涼介は、いつの間にか私の手を伸ばしても届かないほど遠くに行ってしまっていたなんて。


ああ、寂しいなぁ。
沙織
………あなた?
あなた

………!ご、ごめん……

沙織
保健室、行ってようか
私は気がつけば涙を流していた。
気を利かせた沙織は、保健室を薦(すす)めてくれた。

本当沙織には助けてもらってばかりだ。
私は沙織に「ごめん」と告げると、教科書を手に教室を後にした。
山田涼介
山田涼介
…………?
何してんだろ、私。
なんて、いくら考えてもどうにもならないんだけど。
知念侑李
知念侑李
………あれ、あなたちゃん?
保健室に入ると、そこには先生ではなく知念くんが先生の椅子に座っていた。

どういうことだろう。


さっき沙織から聞いた言葉を思い出し、戸惑いながらも私は首をかしげた。
あなた

知念………くん?

知念侑李
知念侑李
あー………僕はサボりだよ!あなたちゃんもそう?
アイドルもサボりなんてするのか。
目を丸くし驚いた表情を見せた私に、知念くんは続けた。
知念侑李
知念侑李
………って、そんな事するわけないもんね
知念くんは椅子から立ち上がると、私の側へ近づき顔を覗いた。

知念くんの丸っこい瞳は、私を見透かしているようで私の耳は赤く色を染める。
あなた

あ、あの………っ

知念侑李
知念侑李
………なんかあった?
あなた

へ……っ

間抜けな声で聞き返す私の頬に知念くんの右手が触れた。熱を帯びる頬をなでると、目の下に付いていたらしい雫を一つ拭った。

知念くんは小さな事でもすぐに気がつくし、何より女の子の扱いが上手なんだと私は思う。

なぜ同じアイドルなのにこうも正反対になってしまうのだろう。なんて、それは涼介に対してちょっと失礼かな。
知念侑李
知念侑李
話聞くよ。とりあえず誰にも見えない所に座ろうか
そう言って知念くんは私の背中をさすりながらカーテンがかけられたベッドの方へと誘導してくれた。

狭いところに2人きりなんて初めての事だからなんだか少し緊張してしまう。


知念くんにも聞こえそうなくらいに高鳴ってくる心臓を押さえつけながら私は口を開いた。
あなた

涼介がアイドルになって、こうして有名になって……
学校の人だけじゃなくて日本中の人が涼介を認めてくれてるって思うと嬉しいんだけど………
でもそれと同じくらい苦しいんです

知念侑李
知念侑李
苦しい……?
あなた

幼なじみなのに、一番近くにいて一番涼介の事を知っていると思ってたのに………
気がつけば涼介は私の手の届かない所へ1人で行ってしまってて……

一番近くに感じていた涼介は、いつしか一番遠くへ行ってしまっていた。
それが、なによりも辛くて虚しくて苦しかった。

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