第33話

知念はいつだって。ー涼介sideー
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2018/02/08 05:39
知念のおかげで、仕事はいつもより早く片付いた。スタッフの方々が道具を片付けてくれている中、俺と知念はひっそりと小言を話し込んでいた。
知念侑李
知念侑李
花火大会は何時から?
山田涼介
山田涼介
えっと……確か夜の8時だな
今はちょうど夕方の5時半。
これから街へ戻ったとして、いつも通り上手くいけば1時間で街の最寄り駅に到着するはずだ。

そこからタクシーでも捕まえてあの海岸沿いに行けば間違いなく間に合うはず。
知念侑李
知念侑李
あとの事は僕に任せて行ってきなよ
山田涼介
山田涼介
―――え、でも知念………
知念があなたの事を好きなのはなんとなくだが気づいていた。

それなのに知念はいつだって俺の味方をしてくれて、俺の背中を押してくれていた。


そんな知念の優しくて強い想いに甘えては、その心の奥にある気持ちに気付かないふりをしてきた。ただ取られるのが怖くて。

でも、今なら俺は――。
知念侑李
知念侑李
……ん?
山田涼介
山田涼介
今なら俺、知念にならあなたを渡してもいいと思ってる
それを耳にした知念は一瞬目を見開いたものの、すぐにまゆを曇らせながら「やめてよそんな事」と無理矢理な笑顔を見せた。
知念侑李
知念侑李
僕だってその気持ちは同じなんだよ。
山田くんにならあなたちゃんを取られてもいいって思ってる
山田涼介
山田涼介
でも――………
知念は自分の背後にあるデスクの上に腰掛けると、うつむきながら静かに口を開いた。
知念侑李
知念侑李
そりゃあ君があの子のことを何度も傷つけて泣かせるもんだから、その度にあなたちゃんを僕の物にしたくて堪らなくなったよ
知念侑李
知念侑李
でもね、それは間違ってた。
あなたちゃんはそうじゃなかった。
いくら君のために涙を流しても、傷ついても、君を想う気持ちを止めることはなかった
山田涼介
山田涼介
何言って―――……
そこで、ようやく知念の言いたいことが分かったような気がした。


あなたの気持ち。
少しだけ俺も何度か期待してはそれをかき消してきた。

でも、きっとそれは間違ってなかったんだろうと今なら少しだけそう思えた。
知念侑李
知念侑李
大丈夫。あなたちゃんはちゃんと山田くんの事好きだから
山田涼介
山田涼介
――っ!
知念侑李
知念侑李
だからほら、行ってきな
涙で視界が潤む俺の背中を押してくれた知念に、一言「ありがとう」と伝えると、俺はスタジオを全速力で飛び出した。
自分だってあなたの事が好きなはずなのに、その気持ちを押し殺して俺の恋を応援してくれた。

いつだって俺の話を真剣に聞いてくれたし、いつだって俺がなにか間違ったことをしていたら叱ってくれた。
……そしてその度に何度も背中を押してくれた。



もしかしたら。

あなたにお似合いなのは何もかもが不器用で、女の子の気持ちすら全く理解できない恥ずかしがり屋で、知念の気持ちにも気付かない振りをしていたズルい俺なんかより、

自分の幸せを、自分の思いを押し殺しては、俺やあなたをいつでも力強く支えてくれて、女の子の気持ちだってよく分かっている優しくて男らしい知念の方なのかもしれなかった。
山田涼介
山田涼介
………でもッ
でも、それでも知念が折角俺にくれたこのチャンス。
ここで逃げてしまったらもう、知念に会わす顔がない。
なんとか電車に乗り込んだ俺は、今か今かと何個も先にある駅へと目指した――。

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