突然、前を歩いていた涼介が立ち止まり、私の方へ振り返る。
ふと目が合った。
涼介は優しく微笑んで見せた。その笑顔はおばさんによく似ている。
本当はいつも一緒に帰れたらって思っているんだよ。
なんて、口が裂けても言えるわけない。
そんなのだって……好きって伝えてるようなものだから。
涼介は少し言葉をにごらせると、私に背を向け再び歩き出した。
涼介の背中が、なぜだか儚く見える。
そうこうしている間に涼介はもう私から離れていた。
小走りで必死に追いつこうと試みる。
なんとか涼介の背後までたどり着いたが、アスファルトの地面に足のつま先を引っかけ、つまずいてしまった。
どんどん私の身体が前から地面の方へと落ちていく。このままでは倒れてしまう――――。
私はとっさに両目をつぶり、覚悟した。
けど、結局倒れることはなかった。
代わりに――――………
私の身体を支えてくれた涼介の胸元が目に入った。
どうやら倒れそうになった私を、間一髪のところで助けてくれたようだ。
それにしても私に背を向けていたというのに、あんな一瞬でこんな事になるなんて。
私は改めて幼なじみの運動神経のよさを実感した。
と同時に熱くなる耳元。
また恥ずかしくなってしまったようだ。
慌てて涼介から離れた私は、思わずその身体を突き放してしまった。
はっ
と私はとっさに顔を見上げる。
そこには、驚きながらもどこか寂しそうな顔を浮かべる涼介がいた。
そう言ってわざとらしく笑う涼介だが、その笑顔は少し引きつっている。
どうしよう。変に思われたかな。
なんとか弁解しようと試みるも、その間にも涼介は「じゃあ行こ」と静かにつぶやき私の前から離れていった。
私たちの間に、気まずい空気が流れていく。
涼介の背中はやっぱりどこか寂しそうだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。