第14話

食べたがりの君。
2,890
2018/01/25 16:24
土曜日の水族館は、休日なだけあってそれなりに混みあっていた。
あなた

ほんとに大丈夫?

山田涼介
山田涼介
大丈夫大丈夫!
窓口の方には結構な人の列が出来上がっている。
私たちもさっきからずっと並んではいるけど、そんなに進むことはない。
もしもここで涼介の正体がバレてしまったら。
大騒ぎになるだけでなく、あるはずもない熱愛報道まで出てしまうのでは。



なんて不安を抱えたまま、ついに私たちの番まで進んでしまった。
山田涼介
山田涼介
おと……
あなた

お、大人二人で!

変にしゃべってバレたら大変だ。
涼介の声をかき消し私は受け付けを済ませ、一人一人お金を出した。
山田涼介
山田涼介
な、なんか悪いな
あなた

え!う、ううん!

涼介の一言で、なんだかとても恥ずかしくなってしまった。何してんだろ、私。
儚いネオンの光で照らされた通路のわきに設置された数々の水槽。
その中を魚たちがのんびりと泳いでいる。


彼らは一体なにを考えて過ごしているんだろう。

私たち人間のように四六時中何かを考えて過ごすような忙しい生物ではないのかな。
山田涼介
山田涼介
なんか………うまそうだよね
あなた

へえっ!?

なかなかひどい事を考えている人がここにいた。水族館の魚を美味しそうなんて、可哀想に………。
あなた

涼介可哀想だよ………

涼介は水槽の中で優雅に泳いでいるエイを目を輝かせながら眺めている。
山田涼介
山田涼介
だってエイなんて食べたことないだろ?
そもそもエイって食べれるの………?

後でネットで検索したところ、どうやら高級魚の一種らしい。

あなた

涼介ちがうとこ行こっか……

このままでは魚たちが可哀想だ。

この食欲旺盛すぎるアイドルに、観賞用でなく食用として見られているなんて。

もし生まれ変わって魚になっても水族館の中には入りたくないな、とこの時初めて思った。

例えここの方が安全だとしても。
山田涼介
山田涼介
うーん……クラゲかぁ……
あなた

可愛いねぇ綺麗だねぇ

ミズクラゲにアカクラゲ。
タコクラゲにウリクラゲ。

様々な種類のクラゲが、それぞれ別の水槽の中に飼育され、優雅にふわふわとまるで風船のように浮かんでいた。
山田涼介
山田涼介
綺麗だけどクラゲは食えないなぁ……
まだ考えてたのね、この人。
いい加減食べ物から離れてあげないと。
あなた

……そろそろお昼食べる?

さすがにお腹が空いたのかと思い、たずねてみた。スマホの画面を開いてみると、ちょうど正午を過ぎた頃だった。
山田涼介
山田涼介
あー……そうだなぁ
あなた

涼介絶対お腹空いてるでしょ

山田涼介
山田涼介
え!!
涼介の空腹を見抜いた私に、涼介は目を見開く。
そして帽子を深く被りなおすと「あなたには適わないや」と小さく呟いた。
あなた

全然気づかなくてごめんね

山田涼介
山田涼介
………!!
山田涼介
山田涼介
い、いや……気づいてくれただけでも嬉しいから
照れ隠しか、私に背を向けながらもごもごとこもった声で告げた。
そして、小さく「ありがと」と呟き私の手を取りお昼ご飯を探しに出発した。





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