土曜日の水族館は、休日なだけあってそれなりに混みあっていた。
窓口の方には結構な人の列が出来上がっている。
私たちもさっきからずっと並んではいるけど、そんなに進むことはない。
もしもここで涼介の正体がバレてしまったら。
大騒ぎになるだけでなく、あるはずもない熱愛報道まで出てしまうのでは。
なんて不安を抱えたまま、ついに私たちの番まで進んでしまった。
変にしゃべってバレたら大変だ。
涼介の声をかき消し私は受け付けを済ませ、一人一人お金を出した。
涼介の一言で、なんだかとても恥ずかしくなってしまった。何してんだろ、私。
儚いネオンの光で照らされた通路のわきに設置された数々の水槽。
その中を魚たちがのんびりと泳いでいる。
彼らは一体なにを考えて過ごしているんだろう。
私たち人間のように四六時中何かを考えて過ごすような忙しい生物ではないのかな。
なかなかひどい事を考えている人がここにいた。水族館の魚を美味しそうなんて、可哀想に………。
涼介は水槽の中で優雅に泳いでいるエイを目を輝かせながら眺めている。
そもそもエイって食べれるの………?
後でネットで検索したところ、どうやら高級魚の一種らしい。
このままでは魚たちが可哀想だ。
この食欲旺盛すぎるアイドルに、観賞用でなく食用として見られているなんて。
もし生まれ変わって魚になっても水族館の中には入りたくないな、とこの時初めて思った。
例えここの方が安全だとしても。
ミズクラゲにアカクラゲ。
タコクラゲにウリクラゲ。
様々な種類のクラゲが、それぞれ別の水槽の中に飼育され、優雅にふわふわとまるで風船のように浮かんでいた。
まだ考えてたのね、この人。
いい加減食べ物から離れてあげないと。
さすがにお腹が空いたのかと思い、たずねてみた。スマホの画面を開いてみると、ちょうど正午を過ぎた頃だった。
涼介の空腹を見抜いた私に、涼介は目を見開く。
そして帽子を深く被りなおすと「あなたには適わないや」と小さく呟いた。
照れ隠しか、私に背を向けながらもごもごとこもった声で告げた。
そして、小さく「ありがと」と呟き私の手を取りお昼ご飯を探しに出発した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。