第8話

オニごっこ
2,715
2023/04/20 23:00
オニ
オニ
ニンゲン
オニ
オニ
ニンゲン
 石階段を上った先には大量のオニが二人を待ち構えていた。
 あまりの数に二人は冷や汗を流す。
マヨイ
マヨイ
くそっ……
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
なんでオニがこんなに……
 その大きさは大小様々。太かったり細かったり、長いモノもいる。
 ソレらは二人を取り囲み、今にも襲わんとじりじり距離を縮めていた。
マヨイ
マヨイ
こうなったら僕がオニを引きつける。だからゆづるはその間に――
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ダメだよ! マヨイくんは強いけど、幾らなんでも数が多すぎる!
オニ
オニ
ニンゲン……ツカマエロ!
 二人の声にオニたちが反応した。
 一体のオニが動き出したのを合図に、周囲も一斉に牙をむいて襲いかかる。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
――マヨイくん、こっち!
マヨイ
マヨイ
ゆづる!?
 オニとオニの間に僅かなすき間を見つけたゆづるは咄嗟にマヨイの手を引き、走り出した。
 彼女が向かった先は神社の中心にある社。
 幸い鍵がかかっていなかったようだ。観音扉を開き、素早くそこに身を隠す。
マヨイ
マヨイ
こんなところに隠れたって無駄だよ! オニにはもう見つかってる!
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……多分、大丈夫だと思う! 私を信じて!
 急いで閉めた扉をゆづるは全力で押さえていた。
 外のオニはこじ開けようと拳を振り下ろす。その度に小さな社全体がずしんずしんと揺れた。
 マヨイも加勢し二人がかりで扉を押さえるも、相手はオニ。
 時間稼ぎなんてただの気休めに過ぎないと思っていたが、その扉が壊されることはなかった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
やっぱり、思った通りだ。
オニはこの中に入って来られないんだよ
マヨイ
マヨイ
どういうことだ……
 オニの力であれば木製の扉なんていとも簡単に壊せるだろう。
 だが彼らは扉を叩き、引っ掻き続けるだけで中に入って来る素振りは微塵もない。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
神社のお社は神様のお家だから、悪いものは入ってこれないんだって。
オカルト好きの友達の話、ちゃんと聞いておくもんだね
 扉を背中で押さえながら床に座り、ゆづるははにかんだ。
 大学で散々友人にオカルト話を聞かされていた。今は名前も顔も思い出せないけれど、数々のウンチクは今も耳にこびり付いている。
 持つべき者は友達だと思いながら、ゆづるは建物の奥に視線を送る。
 そこには古びた祭壇と丸い鏡が置かれていた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
きっと神様が私たちを守ってくれてるんだよ
マヨイ
マヨイ
ただの気まぐれだろ……でも、ゆづるのお陰で助かった。
ここからどうするつもり? 外に出ないと逃げられない
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
それは……考えてなかった
 申し訳なさそうに視線をそらすゆづるにマヨイはぽかんと口を開けた。
 安全は確保できたとはいえ、拠点の駄菓子屋に帰るには外にいる大量のオニをどうにかしなければいけない。
マヨイ
マヨイ
――僕に考えがある
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
私一人だけ逃がそうとするなら反対だよ
 間髪入れずに答えたゆづるにマヨイは言葉を詰まらせた。
 嫌な沈黙が数秒続き、マヨイはため息をついて言葉を紡いでいく。
マヨイ
マヨイ
……ゆづるにも、協力して貰う。ちょっと危険だけど
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
いいよ。私にできることならやる。
作戦を教えて!
 ゆづるの真剣な眼差しにマヨイも迷いが消えたのか、力強く頷いた。
 マヨイは金属バットを握りしめながらそっとゆづるに作戦を耳打ちしたのだった。
マヨイ
マヨイ
――じゃあ……いくよ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
うん
マヨイ
マヨイ
いち、にの――
 さん、でゆづるは社の扉を開け勢いよく外に飛び出した。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
オニさんこちら、手の鳴るほうへ!
 突然現れたゆづるにオニたちも反応が遅れた。
 こんなセリフをいうなんて幼い頃に鬼ごっこをしたとき以来だ。
 ゆづるはオニの気を引くように手を叩きながら、真っ直ぐ石階段の方へ走っていく。
オニ
オニ
ニンゲン……

 その場にいた全てのオニがゆづるの方を向き、一歩足を踏み出した。
 あまりの迫力に一瞬ゆづるはひるみそうになるも、負けじと拳を握りしめる。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくん、今だよ!
マヨイ
マヨイ
これでも……くらえ!
 すると今度は社からマヨイが飛び出し、オニたちの背後から思い切り金属バットを振りかぶった。
 二人の作戦はゆづるが囮となり、その間にマヨイがオニを一掃するという単純なものだった。
 だがあまり知能がないオニとってその作戦は最善だったようだ。
 虚をつかれたオニたちはマヨイが振るうバットに打たれ、次々倒れていった。
マヨイ
マヨイ
さっさと……消えろ!
 そこでマヨイに異変が起きた。
 地面に倒れ、もう動かないオニの頭部に向かって執拗に彼はバッドを振り下ろす。
マヨイ
マヨイ
いい加減、諦めろ! アンタらは! もうっ、戻れない! んだよっ!
 その異様な様子にオニたちも恐れをなし動きを止めた。
 それどころか怯えるようにマヨイから離れていく。
 脅威は去った。それでも尚マヨイは、地面に倒れるオニを殴り続けていた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくん……もう、大丈夫……だよ
 さすがのゆづるもマヨイの様子に恐怖を覚えながらも、彼を止めるためにそっと近づく。
マヨイ
マヨイ
駄目だ。ここで倒さないとまた襲ってくる。
コイツら、もう自分が何者かも分かってないのに性懲りもなく……
 吐き捨てるようにマヨイはオニを見下ろしている。
 彼に殴られていたオニは頭を抱えるように震えていた。その姿はまるで人間のようで――。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ねえ……マヨイくん。オニって、なんなの 
 ゆづるの脳裏に疑問が浮かんだ。
 異界にいる化け物。襲う人間もいないというのに彼らは人を求めて彷徨っている。
 ならば彼らはどこから生まれた? なんのために存在しているのだろう。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
わっ……
 その時、オニがゆづるの足を掴んだ。
オニ
オニ
イケニエ……ニンゲン
 オニは真っ黒な顔でゆづるを見あげる。
オニ
オニ
帰リタイ……元の世界ニ……帰りたい
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……え
そういい残し、オニは跡形もなく消滅した。
風が吹き、オニだったものが灰のように空に舞いあがっていく。
ゆづるはそれを茫然と見つめていた。
マヨイ
マヨイ
はぁ……はあっ。
ゆづる……早く店に帰ろう。またオニが戻ってくるかもしれない
 疲れたように肩で息を整えながら、マヨイは階段を降りようとする。
 だけどゆづるはその場で硬直したまま動かない。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ねぇ……マヨイくん。オニって、なんなの
 もう一度ゆづるはマヨイに問いかけた。
 マヨイは立ち止まってゆづるを見あげると、いいづらそうに答えた。
マヨイ
マヨイ
オニの正体は……人間だよ
 マヨイの口から放たれた言葉に、ゆづるは息を呑む。
マヨイ
マヨイ
君と同じように、ここに迷い込んだ人間たち。
神隠しにあって、元の世界に戻れず記憶をなくし、形を失った人間の慣れ果てさ
君も……そして僕も。ここに居続けたら遅かれ早かれこうなるんだよ

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