石階段を上った先には大量のオニが二人を待ち構えていた。
あまりの数に二人は冷や汗を流す。
その大きさは大小様々。太かったり細かったり、長いモノもいる。
ソレらは二人を取り囲み、今にも襲わんとじりじり距離を縮めていた。
二人の声にオニたちが反応した。
一体のオニが動き出したのを合図に、周囲も一斉に牙をむいて襲いかかる。
オニとオニの間に僅かなすき間を見つけたゆづるは咄嗟にマヨイの手を引き、走り出した。
彼女が向かった先は神社の中心にある社。
幸い鍵がかかっていなかったようだ。観音扉を開き、素早くそこに身を隠す。
急いで閉めた扉をゆづるは全力で押さえていた。
外のオニはこじ開けようと拳を振り下ろす。その度に小さな社全体がずしんずしんと揺れた。
マヨイも加勢し二人がかりで扉を押さえるも、相手はオニ。
時間稼ぎなんてただの気休めに過ぎないと思っていたが、その扉が壊されることはなかった。
オニの力であれば木製の扉なんていとも簡単に壊せるだろう。
だが彼らは扉を叩き、引っ掻き続けるだけで中に入って来る素振りは微塵もない。
扉を背中で押さえながら床に座り、ゆづるははにかんだ。
大学で散々友人にオカルト話を聞かされていた。今は名前も顔も思い出せないけれど、数々のウンチクは今も耳にこびり付いている。
持つべき者は友達だと思いながら、ゆづるは建物の奥に視線を送る。
そこには古びた祭壇と丸い鏡が置かれていた。
申し訳なさそうに視線をそらすゆづるにマヨイはぽかんと口を開けた。
安全は確保できたとはいえ、拠点の駄菓子屋に帰るには外にいる大量のオニをどうにかしなければいけない。
間髪入れずに答えたゆづるにマヨイは言葉を詰まらせた。
嫌な沈黙が数秒続き、マヨイはため息をついて言葉を紡いでいく。
ゆづるの真剣な眼差しにマヨイも迷いが消えたのか、力強く頷いた。
マヨイは金属バットを握りしめながらそっとゆづるに作戦を耳打ちしたのだった。
さん、でゆづるは社の扉を開け勢いよく外に飛び出した。
突然現れたゆづるにオニたちも反応が遅れた。
こんなセリフをいうなんて幼い頃に鬼ごっこをしたとき以来だ。
ゆづるはオニの気を引くように手を叩きながら、真っ直ぐ石階段の方へ走っていく。
その場にいた全てのオニがゆづるの方を向き、一歩足を踏み出した。
あまりの迫力に一瞬ゆづるはひるみそうになるも、負けじと拳を握りしめる。
すると今度は社からマヨイが飛び出し、オニたちの背後から思い切り金属バットを振りかぶった。
二人の作戦はゆづるが囮となり、その間にマヨイがオニを一掃するという単純なものだった。
だがあまり知能がないオニとってその作戦は最善だったようだ。
虚をつかれたオニたちはマヨイが振るうバットに打たれ、次々倒れていった。
そこでマヨイに異変が起きた。
地面に倒れ、もう動かないオニの頭部に向かって執拗に彼はバッドを振り下ろす。
その異様な様子にオニたちも恐れをなし動きを止めた。
それどころか怯えるようにマヨイから離れていく。
脅威は去った。それでも尚マヨイは、地面に倒れるオニを殴り続けていた。
さすがのゆづるもマヨイの様子に恐怖を覚えながらも、彼を止めるためにそっと近づく。
吐き捨てるようにマヨイはオニを見下ろしている。
彼に殴られていたオニは頭を抱えるように震えていた。その姿はまるで人間のようで――。
ゆづるの脳裏に疑問が浮かんだ。
異界にいる化け物。襲う人間もいないというのに彼らは人を求めて彷徨っている。
ならば彼らはどこから生まれた? なんのために存在しているのだろう。
その時、オニがゆづるの足を掴んだ。
オニは真っ黒な顔でゆづるを見あげる。
そういい残し、オニは跡形もなく消滅した。
風が吹き、オニだったものが灰のように空に舞いあがっていく。
ゆづるはそれを茫然と見つめていた。
疲れたように肩で息を整えながら、マヨイは階段を降りようとする。
だけどゆづるはその場で硬直したまま動かない。
もう一度ゆづるはマヨイに問いかけた。
マヨイは立ち止まってゆづるを見あげると、いいづらそうに答えた。
マヨイの口から放たれた言葉に、ゆづるは息を呑む。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。