第16話

異界の真実
4,116
2023/06/15 23:00
マヨイ
マヨイ
そうだ、神社に行く前にちょっと店に寄っていい?
 オニと遭遇することなく、二人は無事に駄菓子屋まで戻ってきた。
 そのまま通り過ぎようとしたゆづるの手を引き、マヨイは店を指さす。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
どうしたの?
マヨイ
マヨイ
ちょっとね
 そういってマヨイは店に入る。
 やはり店内にオオガの姿はなく、そこはしんと静まり返りマヨイが暴れた惨状だけが残されていた。
マヨイ
マヨイ
うわ……店の中滅茶苦茶。
僕そうとう暴れたんだね……怖がらせて本当ごめん
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
私は大丈夫だけど……さすがにお店このままだとまずいよね。
きっとオオガさんが見たら倒れちゃいそう
マヨイ
マヨイ
そうだね。掃除を頼まれて滅茶苦茶にしてたら怒られそうだ。
少し片付けてからいこうか
 そうして二人は荒れ果てた店の中を片付けることにした。
 倒れた棚を元に戻し、散乱した物を元通りに整理していく。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ねえ、マヨイくん
マヨイ
マヨイ
ん?
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
オオガさんってどんな人?
マヨイ
マヨイ
不思議な人だよ。
基本いい加減で、自己中心的。人に関わらないと思ったら、たまに優しくしてくれたり。
つかみどころのない人だな
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……そうなんだ
マヨイ
マヨイ
……なにかあったの?
 ゆづるは首を横に振った。
 この口振りだと、きっとマヨイはオオガがあの時見せた別の一面を知らない。
 余計な不安を抱かせないほうがいいだろうと、ゆづるは「なんでもないよ」と誤魔化した。
マヨイ
マヨイ
あった……
 散乱していた店内からマヨイはいつも被っていた狐のお面を探し当てた。
 棚の下敷きになっていたそれは少しヒビ入っていたものの、形は保たれている。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
もう、かぶらなくてもいいんじゃない?
マヨイ
マヨイ
ずっとつけていたから、ないほうが落ち着かなくて。
それに、ここでの僕はまだ〝マヨイ〟だから
 お面をつけて口元を綻ばせるマヨイにつられるようにゆづるも微笑んだ。
 そして二人で手際よく掃除を続け、店内はあっという間に元通りになった。
マヨイ
マヨイ
……さて、これでやり残したこともないね。
ちょっと取るものがあるから、先に外出てて
 いわれるがままにゆづるは先に店を出て待っていた。
 少しするとマヨイがビニール袋片手にやってくる。その中にはよく冷えた瓶ラムネが三本入っているではないか。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
そのラムネどうするの?
マヨイ
マヨイ
ん? ちょっと持っていこうと思ってさ
 含み笑いを浮かべながらも、マヨイは首を傾げるゆづるの手を引いて神社へと向かった。
 不思議といつものような恐怖心はなく、足取りも軽い。
 駄菓子屋の裏にある、長い石畳の階段を上っていく。前回はあれだけ長く苦しく感じた階段も、今度はなぜかあっという間だった。
オオガ
オオガ
――よぉ。もう来ないかと思ったぜ
 鳥居を潜った瞬間に聞こえる声。
 社の前に、オオガが座って二人を待っていた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
オオガさん。約束通りマヨイくんを目覚めさせて、二人で来ました
 ゆづるの言葉にオオガは歯を見せてにやりと口角をあげた。
オオガ
オオガ
おう、マヨイ。随分と雰囲気が変わったなあ?
陰気くささがなくなったじゃねえか?
マヨイ
マヨイ
ああ……ゆづるのお陰で目が覚めたんだ。
僕も、オオガと話したいことがあったから……丁度よかったよ
オオガ
オオガ
いいだろう。これまでのよしみだ。聞いてやる
 オオガはいつものように微笑みながら、マヨイの言葉を待っていた。
マヨイ
マヨイ
なあ、オオガ。あなたはこの神社の神様なんじゃないのか
オオガ
オオガ
どうしてそう思う?
マヨイ
マヨイ
村人が誰もいない村の中でオオガはたった一人でいたからだ。
オニにもならず、平気で駄菓子を飲み食いしてる。そんなこと普通の人間にはできないことだから
 どこからともなく風が吹き、周囲の木々を揺らしはじめた。
 その瞬間、オオガの顔から表情が消えた。オニとは違う恐ろしさに、ゆづるはぞくりと背筋がざわついた。
オオガ
オオガ
――ああ。そうだよ。その通りだ、人間
 立ちあがったオオガは両手を広げ高らかに名乗りをあげる。
オオガ
オオガ
俺はここに奉られていた神。名はオオガ――大神おおかみとも呼ばれている
 二人を見据えるオオガはそれまでと全く違っていた。
 今まで接してきた彼とは異なる雰囲気に、二人は固唾を飲む。
 それは人間の神に対する畏怖の念か。はたまた底知れぬ恐怖故か。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
この村に人を迷い込ませてオニに変えたのはオオガさんの仕業なんですか
オオガ
オオガ
ああ。俺が人間を呼び、この村に閉じ込めた
マヨイ
マヨイ
なんでそんなことを……
 驚くマヨイとゆづるをオオガは鼻で笑い飛ばす。
オオガ
オオガ
はっ、俺を置いていった人間を呼び戻して何が悪い。
神様一人犠牲にテメェらだけ幸せになろうなんておかしな話だろ。
こっちはどれだけしてやったと思ってるんだ
 オオガはポケットに手を突っ込みながら手近な石を蹴飛ばした。
 こつんこつんと階段の下に転がり落ちていくそれを見下ろす彼の目には明確な殺意が篭もっていた。
オオガ
オオガ
俺を置いていった人間が、またノコノコと戻ってきた。
肝試しだ? はっ、くだらねぇ。悪霊だのなんだのいもしねえものに怯えて騒いで俺の眠りを妨げた。
トンネルの向こうが気になるというのだから、来させてやったまでよ
マヨイ
マヨイ
だからといって、村に閉じ込める必要はないだろう
オオガ
オオガ
望み通りに肝を冷やさせてやっただろう?
それに、条件を満たせばちゃんと帰れるようにしてやっているだろう。
手ぶらできてタダで帰ろうなんておこがましいにもほどがある。
行きはよいよい帰りは怖いってやつさ
オオガは邪悪な表情を浮かべけらけらと笑った。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
確かに、軽率な気持ちでここに踏み込んだ私たちも悪いかもしれない。
でも、帰りたいと思う人を閉じ込めてあんな姿に変えるなんてやりすぎです!
なんでそんなことを……
オオガ
オオガ
決まってるだろ、暇つぶしだよ。暇つぶし。
こちとら百年近く一人で過ごしてたんだ。たまには楽しむくらいいいだろ
 オオガは全く悪びれる素振りもなく、大きな欠伸を零しながらマヨイに視線を送る。
オオガ
オオガ
最後にもう一度聞く。
おまえら二人、この村に残るつもりはねえか?
マヨイ
マヨイ
ない。僕はゆづると二人で元の世界に帰る
どちらも生贄にならず。二人で帰るんだ
 マヨイとゆづるは顔を見合わせ力強く頷いた。
 それを見たオオガは頭をかきながらやれやれとため息をつく。
オオガ
オオガ
そうかよ……お前のことは気に入ってたんだが、それももう終わりだな。
そこの嬢ちゃんは俺との約束を果たしてお前をここに連れてきた。
だから最後に……マヨイ、俺と勝負をしないか?
 オオガは何かを放り投げた。
 それはマヨイの足元に転がり落ちる。細長い刀身――先程倉庫で見た日本刀だった。
マヨイ
マヨイ
一体なんのつもりだ……
オオガ
オオガ
お伽噺でもあるだろ? 鬼退治をして世界に平和を取り戻しました、ってヤツ。
それだよ。今から俺とお前は戦うんだ。
もしお前が俺に勝てたら、二人とも元の世界に戻してやるよ
マヨイ
マヨイ
……もし負けたら?
オオガ
オオガ
二人仲良くオニになって、一生ここで彷徨い続けろ
 オオガは冷酷な表情でマヨイを睨む。
 足元に転がる刀をマヨイはしばらく見つめていたが、おもむろにそれを拾いあげオオガを見据えた。
マヨイ
マヨイ
今の言葉、本当だな?
オオガ
オオガ
ああ、神様は嘘はつかねえよ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくん! オオガさんと戦うなんて……
 マヨイは唇を噛みしめながらも鞘から刀を抜き、その切っ先をオオガに向けた。
 張り詰めていく空気に、ゆづるは思わず息を呑む。
マヨイ
マヨイ
いっただろ、オオガはいい加減で自己中心的。
だから、いわれた通りにやるしかない。
大丈夫だよゆづる。僕は必ず勝ってみせる。
勝って、オオガに説教するんだ。そして……二人で一緒に元の世界に帰るんだよ
オオガ
オオガ
ははっ、殊勝なことだな。
精々あらがってみろ、人間!!
 オオガは声を荒げ立ちあがる。
 目の前に立ち塞がるのは、この異界を治める神。
 神と人間。いよいよ最後の戦いがはじまろうとしていた。

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