帰ってきたマヨイをゆづるは呆然と見つめていた。
急いでいたのだろうか、肩で息をしていてその声は怒りを孕んでいるように聞こえる。
そんな彼の視線を辿ると、ゆづるが持っていたアイスがあった。
走り寄ってきたマヨイはゆづるが手にしていたアイスをはたき落とした。
地面に転がったアイスは熱で溶け地面に染みをつくる。
ゆづるはなにが起きたか分からず、茫然と足元を見つめることしかできなかった。
マヨイは戯けて笑うオオガの胸ぐらを掴みあげ、怒りを露わにした。
悔しそうにマヨイは唇を噛んだ。
そしてその指先はゆづるの足を指している。戸惑いながらそれを追ったゆづるは目を見開いた。
右膝の下から足先にかけて真っ黒な影に飲み込まれていた。
まるで足元に伸びる影が体に侵食しているかのようだ。
オオガの言葉にゆづるの体から血の気がさっと引いていく。
全身に鳥肌が立った。目の前にいる男が急に恐ろしく見えた。
オオガは一切悪びれる様子無くけらけらと楽しそうに笑っている。
あれほど美味しかった物が急に不味く感じ、ゆづるは急に込みあげてきた嘔吐感に口元を押さえた。
マヨイはゆづるの手を引くと、急いで二階の部屋へ駆けあがっていく。
錯乱しながら右足をさするゆづるにマヨイは申し訳なさそうに謝る。
マヨイはゆづるのスマホを指さした。
それを見たゆづるは驚いて手を離し、手で口元を覆った。
スマホの画面に表示されているのは、友人たちと撮った写真だった。
四人で笑い合っている。だというのに、なぜかゆづるだけ体が透けて消えかけていたのだ。
茫然としているゆづるに、マヨイは静かに尋ねる。
名前をいおうと開けた口からは言葉は出てこなかった。
手が震えた。
トンネルに一緒に来た友達がいたのは確かだ。人数は覚えている。女子が一人、男子が二人。
それは間違いない。
でも、だというのに……どうしても彼らの顔と名前が思い出せない。
パニック寸前のゆづるの肩をマヨイは掴み、力強く言葉をかけた。
マヨイの言葉にゆづるは落ち着きを取り戻していく。
混乱で流した涙を拭い、再びマヨイを見つめる。
このままじゃ駄目だ。年下の彼にいつまでも守ってもらうなんて自分が恥ずかしい。
立ちあがったマヨイはゆづるに手を差し出した。
ゆづるは覚悟を決め、その手を取り二人で部屋の外に向かったのであった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。