ゆづるはマヨイの後ろに続きながら不安げに村の中を見回していた。
ここに来るまで数軒の家を見かけたが、人の気配はまるでない。商店の前を通っても扉は閉め切られている。
まるで建物だけが取り残されたかのような空っぽの村は酷く不気味だった。
またあの化け物が出てきたらどうしようと、ゆづるは恐怖心に苛まれる。しきりに周囲を確認しながら無意識にマヨイと距離を縮めていた。
その時、急に彼が足を止めたものだからゆづるはその背中に顔面を打ち付けた。
鼻を押さえながら視線をあげると、そこには駄菓子屋が佇んでいた。
店前には沢山のガチャガチャが並び、奥まった店内には駄菓子がずらりと並んでいる。
懐古の気持ちをくすぐるような趣深い店構えにゆづるは安心感を覚えた。
マヨイに促されるままに店内に足を踏み入れる。
中には所狭しと駄菓子が並んでいた。最近見る機会が少なくなったけれど、トンカツの駄菓子や棒状のスナックなど見覚えがあるようなお菓子が並んでいた。
種類豊富、色とりどりのお菓子はどれも食欲がそそられる。
実家の近くにも子供の頃こんな駄菓子屋さんがあってよく通っていたことを思い出す。
ゆづるはここが異界であることを忘れ、童心に返った気分で店内を見て回っていた。
マヨイが不審そうに店の中を探しはじめたとき、店の奥から男の声が聞こえてきた。
暖簾をくぐり背が高い金髪の男が現れた。派手な柄シャツにサンダル。極めつけにサングラスという、いかにも怪しい風貌をしている。
男に睨まれ、思わずゆずるは後ずさる。
もしかしたらこの男も化け物に変化して襲いかかってくるのかもしれないと身構えた。
男に怒鳴られゆづるはさっとマヨイの後ろに隠れた。
謎の男は顎を撫でながらにやりとゆづるを見つめた。
口元は弧を描いているも、瞳は真っ暗なサングラスに隠され窺えない。
意味ありげにオオガがマヨイに視線を送ると、彼はゆづるを庇うようににらみ返す。
深々と頭を下げたゆづるを見た瞬間、オオガは思いっきり噴き出した。
腹を抱えてゲラゲラと笑っている。
後は好きにやれ、とオオガは笑いを堪えながら再び店の奥へ消えていった。
そういうとマヨイは店の奥にある急な階段を上り二階へ向かった。
みしみしと音を立てながら、ゆづるもその後を追う。
二階は居住スペースになっているようだった。
トイレや風呂、和室も幾つかあり奥の方にはキッチンが見える。
といってもその内装はどれも昭和にタイムスリップしたかのように古く懐かしいものとなっている。
案内されたのは六畳の和室。押し入れの中には布団が入っており、窓からは村の街並みが見渡せた。
ゆづるは窓際に歩み寄り外を見下ろした。
ゆづるは不安になって俯いた。
友人たちは無事だろうか。もしかして村の中をまだ彷徨っていて、オニに襲われていたりしたら――。
ゆづるが部屋の外に出ようとするとマヨイは厳しい声で制した。
自分を助けてもマヨイに得はないはずだ。
けれどマヨイは口元を綻ばせながら、こう返した。
ゆづるが微笑むと、マヨイはふいに顔をそらした。
表情こそ窺えないがその声音は暗く重たいものだった。
そういってマヨイは部屋を出た。
一人になったゆづるは畳の上にごろりと寝転んでみる。
天井を見あげ、ぽつりと呟いた。
不安でたまらないが、安全な場所にたどり着けたという安堵もあった。
そのせいか急に怠くなり眠気を誘うように瞼が重くなってくる。窓の外に広がる茜色の空を見あげながら、ゆづるは睡魔にあらがえず瞼を閉じたのであった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。