第7話

ふたりきりの異界探索
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2023/04/13 23:00
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくん、帰ってきたばかりなのに……休まなくてよかったの?
マヨイ
マヨイ
僕は大丈夫。
それに、ゆづるがオオガと一緒にいたらまたなにされるかわかんないし。
僕と一緒にいたほうが安全だよ
 階段を下りながらマヨイはぶすりと不満を零した。
 確かにオオガのお陰でこの世界の恐ろしさは身に染みて分かったが、もうあんなことはこりごりだ。
 右足は影に飲まれたままだ。歩くことに支障はないが、痛覚はぼんやりとしていてなんとも奇妙な感覚だった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
(……でも。マヨイくんのことも本当に信用していいのかな?)
 この異界の人間を簡単に信用してはいけない。
 先程オオガにいわれた言葉が脳裏に蘇り、ゆづるは急に不安を覚えた。
 外に探索にいくというのは実は罠で、村のどこかに一人置き去りにされるかもしれない。
 もしかしたら、わざとオニに襲わせるかもしれない。
 一度芽生えた不安は恐怖を助長させる。ゆづるは疑心暗鬼に陥って、思わず階段の途中で足を止めてしまった。
マヨイ
マヨイ
――僕が信用できない?
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
そ、そんなことは……
 心を見透かすようにマヨイが見あげてくるので、ゆづるは思わず目をそらし口ごもってしまう。
 マヨイがつけたお面の下の表情は読み取れない。分かるのは唯一見える口元だけだ。
マヨイ
マヨイ
別に信用してくれなくてもいいよ。
信用してほしいとも思ってないし
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
あ、あのね。やっぱりどうしても気になるの。
私に協力しても、マヨイくんにはなんの得もないのに……どうしてそんなに気にかけてくれるの?
マヨイ
マヨイ
ゆづるを助けたときに、助けるって約束したでしょう?
僕は自分がいったことを守るだけだよ。
自分を裏切ってしまったら僕は僕でなくなる気がするんだ。
だから、これは僕のためでもある。別にゆづるのためじゃないよ
 悲しそうに歪む口元を見て、ゆづるははっとした。
 彼はこの世界に来てからずっと自分を助けてくれた。
 放っておけばいいのに、わざわざ安全な場所に案内してくれた。さっきだって自分のために感情を荒げあんなに怒ってくれていたじゃないか。
マヨイ
マヨイ
やっぱりゆづるはここで待ってたほうがいいよ。
迷いがあると油断も多くなるから。
でも、もし店に戻っても絶対に部屋から出ないって約束して。危ないから
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ううん。一緒にいく
 覚悟を決めた表情で階段を下りていくゆづるに、マヨイは目を瞬かせた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
ごめん、マヨイくん。
さっきオオガさんにいわれたことでちょっと不安になってたんだ。
でも、もう大丈夫。私はマヨイくんを信じるよ
 彼を信じないでどうする。それこそマヨイに対する裏切りじゃないか。
 その気持ちを込めるようにゆづるはマヨイの手を握る。
マヨイ
マヨイ
……うん
 一緒に階段を下り、隣に並んだゆづるにマヨイはもどかしそうに口元を緩めた。 
オオガ
オオガ
随分仲良しそうなことで。
いや、お熱いね。これが花咲ける少年少女の青春ってか?
マヨイ
マヨイ
うるさい。こうなったのはお前のせいなんだからな
少しくらい反省しろって
 マヨイがレジに目をやると、オオガはにやけ顔でこちらを見ていた。
オオガ
オオガ
精々しっかり守ってやることだな。お前にとって大事な大事なヒトだろうからな
絶好の機会を逃すなよ?
マヨイ
マヨイ
そんなんじゃない!
いいか、次ゆづるをからかったら絶対に許さないからな!
オオガ
オオガ
おうおう、ウチのマヨイくんは恐ろしいことで!
 マヨイが怒ってもオオガはのらりくらりとかわしている。
 本当に忠告を聞いているのか分からない。
 いい加減な態度のオオガにマヨイは深くため息をついてゆづるを見た。
マヨイ
マヨイ
早くいこ。こんなヤツの相手してるだけ時間の無駄だから
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
う、うん。いってきます
 いってらっしゃい、とオオガの気の抜けた声を聞きながらマヨイとゆづるは二人で駄菓子屋を出て、異界の探索に繰り出すのであった。


 村の中を二人で歩く。
 駄菓子屋に来たときのように、何軒もの建物の前を通りかかったが相変わらず村はもぬけの殻だった。
 当然人の気配もなければ、鳥や虫の鳴き声ひとつも聞こえない。
 まるで自分たちとこの村だけが世界から切り離されたようだった。
マヨイ
マヨイ
一応ここがこの村の中心部。商店街とか住宅がごちゃっと一纏めになってる。
……散々探し回ったけど、開いてるのはオオガの駄菓子屋だけだよ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
そうなんだ……
本当にこの村にいるのは私とマヨイくんとオオガさんの三人だけなんだね
マヨイ
マヨイ
……今は、そうだね
 村の中を一周した二人はバス停のベンチに座って休んでいた。
 マヨイに一通り村の中を案内してもらったけれど、友人たちの姿は見当たらなかった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくんは何度も村の中見てるのに、わざわざ案内してもらってありがとうね
マヨイ
マヨイ
ううん。僕も改めてじっくり村の中を見られてよかった。
それで……実は、もう一つだけ付き合ってもらいたい場所があるんだ
 マヨイは村の奥を見た。その方向にはオオガが待つ駄菓子屋があるだけのはずだ。
マヨイ
マヨイ
紹介してない場所、もう一つだけあるんだ
ちょっといくのが大変なんだけど
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
私は全然大丈夫だよ! いってみようよ!
 ゆづるの答えを聞いたマヨイは立ちあがり、帰り道――村の奥へと進んでいく。
 駄菓子屋を通り過ぎ、少し歩くと長い石階段が見えてきた。
マヨイ
マヨイ
この先に、神社があるんだ
 少し戸惑ったようにマヨイは階段の上を見あげる。
マヨイ
マヨイ
今まで何度いってもなにも変わらなかった。でももしかしたら……
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
いってみよう! 昨日まではなにもなくても、今日は変わってるかもしれないから!
 躊躇しているマヨイの腕を、今度はゆづるがひいた。
 二人で長い長い石階段を上っていく。
マヨイ
マヨイ
ゆづるは……怖くないの?
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
怖いし……凄く不安だけど、一人じゃないから。
マヨイくんが一緒だから、なんとなく安心できるんだ
マヨイ
マヨイ
……そっか
 その答えにマヨイはどことなく嬉しそうに微笑んだ。
 そして息を切らしながら、二人で階段をあがる。後十数段。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
っ、はあ……結構、つかれるね……
 息が切れ、膝が笑う。
 そうして石階段を上り終えると、朱色の鳥居の足元を潜るとよくある神社の社と、賽銭箱が見えてきた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
普通の、神社……だね
マヨイ
マヨイ
……待ってゆづる
 膝に手を当て、俯きながら息を整えていると急にマヨイの声が強ばった。
 すると急に頭上が陰った。太陽に雲がかかったんだろうか。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……?
 顔をあげて、後悔した。
オニ
オニ
ニンゲン……
オニ
オニ
イケニエ……イケニエ
オニ
オニ
ミィツケタア
マヨイ
マヨイ
……囲まれてる
 マヨイはゆづるを庇うように前に出るも、二人で少しずつ後ずさる。
 目の前には大量のオニ。突然現れたオニが二人を囲んでいたのだった。

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