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ゆづるはマヨイの名前を呼びながら必死に揺さぶった。
だが彼は苦しそうに呻き声をあげるだけだ。それどころか、黒い影の浸食が進み彼の全身を飲み込もうとしているではないか。
倉庫の中に軽快な声が聞こえた。
ゆづるが顔をあげると、そこには出掛けていたはずのオオガが立っていた。
彼はニヒルな笑みを浮かべながらゆづるの傍で蹲るマヨイを見下ろしている。
オオガはマヨイの傍にしゃがみ、その顔を覗き込みながら哀れみの視線を向ける。
あれほど感情豊かだったオオガの表情から全ての感情が消えた。
ゆづるはぞくりと背筋を凍り付かせた。
オオガは何を考えているか読めない人物ではあったが、基本的には陽気で人当たりがよかったのに。
彼はこんな恐ろしい表情を浮かべる人だっただろうか。
恐ろしいほどの冷酷な瞳でぎろりとゆづるを睨みあげる。
オオガに指を指され、ゆづるは頭を殴られたような衝撃が走った。
言葉が出てこない。
マヨイがオニになる? いずれそうなるという話だった。でも、それは今じゃないと思っていた。
こんなに突然、急に別れがくるなんて――。
ゆづるは憶せずオオガを見据えた。
その瞳を見て、彼ははっと馬鹿にしたように鼻で笑いとばす。
あばよ、とオオガはこちらに背を向けたまま手を振ると、再び姿を消してしまった。
一人取り残されたゆづるは混乱しながらも、マヨイの手を握り続けていた。
為す術もなく、マヨイの体は影に飲み込まれ……とうとう全身が影に覆われてしまった。
マヨイを救う方法は必ずなにかあるはずだ。
ゆづるは諦めることなく、手がかりを求めて店や倉庫の中を探し回った。
だがあるのは駄菓子やガラクタだけ。
一体どうしたものかと途方に暮れていたとき、背中に衝撃が走った。
気付くとゆづるは棚に体を打ち付けていた。
一瞬息ができなくて咳き込む。なにかに投げ飛ばされたような衝撃。床には駄菓子が散らばっている。
なにが起きたんだ。
とうとう店にもオニが現れたのだろうか。それならマヨイを連れて逃げないと――。
目眩がする頭を押さえながら、倉庫へ戻る。
彼が蹲っていたはずの場所には狐のお面がぽつんと転がっていただけだった。
まさか、もうオニに襲われてしまったのだろうか。
青ざめながら、ゆづるはマヨイを探す。
ふと背後から気配を感じた。恐る恐る振り向くと、そこには黒い影――一体のオニが店の中に立っていた。
それがマヨイであると、ゆづるは直観的に理解した。
全身が真っ黒い影に覆われたオニ。その額には一本の長い角が生えている。
それは荒い呼吸を繰り返しながら、じっとゆづるを見据えていた。
間に合わなかった――。
彼の名前を叫ぶゆづるの目から涙が溢れる。
今までのマヨイとは姿形、声も違う。
だが、目の前に立つオニは紛れもなくマヨイだった。
それはゆづるを見据え、苦しそうに牙を剥き出し、悲しそうに目から一筋の涙を零した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。