第17話

神様の願いごと
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2023/06/22 23:00
 マヨイが振り下ろした刃をオオガは最小限の動きで躱す。
 そして社のすぐ近くに置いてあった木刀を手にして、つばぜり合いになった。
オオガ
オオガ
ははっ、まるでガキのチャンバラだなあ!
マヨイ
マヨイ
ぐ……っ!
 オオガは笑いながらマヨイの腹を思い切り蹴った。
 くぐもった声をあげると、マヨイは腹を押さえ跪く。
オオガ
オオガ
お前も生優しい野郎だなぁ……やるなら殺す気でこいっつーんだよ
 木刀で肩をとんとんと叩きながら、オオガはつまらなさそうにマヨイを見下ろす。
 そして鋭い視線をゆづるに向けた。
オオガ
オオガ
本気を出すつもりがねぇなら、出させるまでよ……!
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
――っ!
マヨイ
マヨイ
ゆづるっ!
 オオガはゆづるに狙いを定めた。
 走り出したオオガ。迫り来る切っ先にゆづるは身構える。
 木刀が頭に振り下ろされるその刹那、間に入ったマヨイがその刀を受け止めた。
マヨイ
マヨイ
オオガッ!
オオガ
オオガ
そうそう、その勢いだ! ようやく本気になったなあ!?
マヨイ
マヨイ
戦っているのは僕だ! ゆづるは関係ない!
オオガ
オオガ
関係あるだろ。この女が来たせいで、お前はおかしくなっちまったんだからなぁ
 そこではじめてマヨイはオオガに競り勝った。
 オオガが体勢を崩した隙を突き、マヨイは真横に刀を振るう。
 顔に一撃食らわせたと思ったが、それは峰打ちで。唇から滴る血をオオガは拭った。
オオガ
オオガ
オニを散々殴ってたお前が、随分とお優しいことだな
マヨイ
マヨイ
……戦うしか道はないのか。
オオガはずっとこの世界で僕を助けてくれた。できることなら、戦いたくない
オオガ
オオガ
それが嫌なら、ずっとここにいることだな!
 マヨイとオオガはいい争いながら刀をぶつけ合う。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
(なにか、私にもできることは……)
 二人の戦いを見ながらゆづるは考えていた。
 オオガは何故こんなにもマヨイに執着するのか。
 そして、どうして神隠しなんてことを引き起こしてしてしまったのかを。
少年
少年
『この村にいる神様は――』
 幼い頃聞いた少年――おにいちゃんの言葉が脳裏に過り、ゆづるははっと目を見開いた。
 もしかして……もしかして、オオガは――。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……オオガさん。あなたは寂しかったの?
オオガ
オオガ
――はあ?
 呟くような一言にオオガの手が止まった。
 殺意のこもった瞳で睨むが、ゆづるはもう怯まない。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
マヨイくんと二人でお店の掃除をしていて色々見つけたんです。
その刀が入っていた箱に入っていた写真と新聞の記事。
この村は昔は賑わっていて、村祭りの時は村民全員がこの神社に集まっていたんですよね。それはとても賑やかで楽しくて、オオガさんはきっととっても嬉しかったはず
マヨイ
マヨイ
ゆづる……
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
でもそんな村は開発で閉じてしまった。
村はトンネルで隔たれて、あなたはこの神社にたった一人残されてしまった。そんなの、寂しくなって当然よ
オオガ
オオガ
……黙れ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
だからずっと、傍にいてくれる誰かを呼んでいたんでしょう?
オオガ
オオガ
黙れっ!
 オオガは声を荒げ、刀を再びゆづるに向ける。
 すぐにマヨイが間に入り、刀を受け止めた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
閉じ込めるほどに、人は元の世界へと帰りたくなる。そしてあなたも帰したくないと願う。
それは段々歪な呪いになって、人は形を崩してオニになってしまった
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
最初はただの神隠しだった。でも、折角側に来てくれた子もすぐに帰ってしまう。
すると余計に寂しくなった。だからあなたは……人をこの村に閉じ込めることにした
 トンネルの奥から聞こえていた声。
 あれはオオガが誰かを求める声だった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
もしかしてオオガさんは、私たちにわざとあの写真や新聞を見つけさせたんじゃないですか?
オオガ
オオガ
はっ、思い違いも甚だしい。
そんなことをして俺になんの利益があるんだよ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
だってそうとしか思えないじゃないですか。
今まで店番をしていたオオガさんが突然私たちに店番と掃除を任せるだなんてあまりにも不自然です!
本当は、ずっと気付いて欲しかったんじゃないんですか? 
自分を止めてくれる誰かを、探してたんじゃないんですか?
オオガ
オオガ
偉そうな口を! お前たち無力な人間になにがわかる!
 眉間に皺を寄せながら声を荒げるオオガにマヨイはなにかを察し、刀を下ろした。
オオガ
オオガ
マヨイ! 何故、刀を下ろす!?
俺が憎いんだろう。元の世界に帰りたいのだろう!
ならば切ればいい! 怒りや憎しみにまかせ、俺を切ればいいだろう!
マヨイ
マヨイ
……もう、やめようオオガ
 刀を下ろしたマヨイは悲しそうにオオガを見つめた。
 ゆづるが持っていたビニール袋を受け取り、ゆっくりとオオガに近づいていく。
オオガ
オオガ
来るな! 
人間が! ヒトの子が、神である俺に憐れむような目を向けるな!
マヨイ
マヨイ
ねえ、オオガ。僕の頼みをひとつ聞いてくれるか
 マヨイはオオガの前で立ち止まると、ずいと袋を差し出した。
 その中には昔懐かしい瓶ラムネが三本入っていた。
オオガ
オオガ
……これは
マヨイ
マヨイ
オオガは何度も誘ってくれたのに、僕はいつも断ってしまっていたから。
君はただ、一緒にラムネを飲んで、アイスを食べて――くだらないことを話しながら駄菓子を食べる相手が欲しかっただけなんだろう?
 差し出された瓶ラムネを見て、オオガは目を見開きそのまま刀を手から放した。
マヨイ
マヨイ
今の僕たちに必要なのは暴力じゃない。
だから……この村で一番高いこの場所で景色を見下ろしながら、三人で話しながらラムネを飲もう?
 オオガの肩から力が抜けた。
 驚いたように、そして何かに感情を揺さぶられたようにその瞳は揺らぐ。
 差し出されたラムネと、優しい眼差しを向けるマヨイとゆづるを見据えオオガははっ、と乾いた笑みを零す。
オオガ
オオガ
……オマエらの勝ちだよ
 オオガは手で目元を押さえながら、力なくその場にしゃがみ込む。
 美しい夕日が、この土地を守ってきた神の背中を優しく照らしていた。

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