第15話

おかえり
4,004
2023/06/08 23:00
 ゆづるは暴走したマヨイを止めることに成功した。
 元に戻った彼は力なくゆづるの体に身を預けていた。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……私のこと、わかる?
マヨイ
マヨイ
ずっとゆづるが僕のことを呼んでくれていた声が聞こえてた……
 マヨイは縋るようにゆづるを力強く抱きしめた。
 ゆづるもほっと胸を撫で下ろしながら彼の背中に回した腕に力を込める。
 彼女の首にくっきりついた赤い痣を見て、マヨイは顔を歪めた。
マヨイ
マヨイ
ごめん。ゆづるを傷付けた……
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
これくらいなんてことないの。
お陰で、おにいちゃんのこと全部思い出せたんだよ?
マヨイ
マヨイ
僕も……思い出した。
自分が誰なのか、どうしてここに来たのか。全部……
 互いに体を離し、見つめ合う。
 膝の上で二人は両手を繋ぎはにかみあった。
マヨイ
マヨイ
僕もゆづると同じ理由だった。
友達に肝試しに誘われて止める間もなくここにやってきてしまったんだ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
三年前だよね。村中で大騒ぎになったよ
 三年前、ゆづるの地元で男子高校生三名の行方不明事件が発生した。
 大勢の人間が捜索に当たったが誰一人として見つからなかった。だが、消息を絶った一週間後、男子高校生二人がトンネルの前で発見されたのだ。
 だが、もう一人の生徒は幾ら探しても見つかることはなかった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
戻ってきたのは二人だけで、もう一人は見つからなかった。
最初はみんなで探していたけれど、そのうち一人、また一人と探すのをやめた。
そのうち誰もその人のことを話すことをやめて、顔も名前も思い出さなくなった。
それが貴方だったんだね……おにいちゃん
 申し訳なさそうにゆづるは俯く。
 彼がいなくなったと知ったときゆづるも驚いた。だけど何度探しても彼は見つからず、結局諦めて……そしていつの間にか忘れてしまっていたのだ。
マヨイ
マヨイ
それは仕方ないよ。だって、僕は一度生贄になったんだから
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……おにいちゃんが、生贄に?
マヨイ
マヨイ
うん。友達を二人、逃がすために僕が犠牲になった。
二人が助かるならそれでいいって思ったんだよ
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
そんな……
 ゆづるの目が驚愕に揺れる。
 彼だって元の世界に帰りたかったはずだ。でも彼は自分よりも友人の命を取った。
 よく考えれば、昔から彼はそういう人だった。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
でも……どうして生贄になったのに、おにいちゃんはオニにならなかったの?
マヨイ
マヨイ
いや、僕はオニになるはずだった。
二人を逃がして安心していたら体が影に覆われていった。
自分で自分のことが分らなくなって……これでもう終わりだと、思ったら……オオガが現れたんだ
 思わぬ名前にゆづるは目を丸くする。
オオガ
オオガ
『お前、馬鹿だな。自分を犠牲にしてダチを救うのか』
マヨイ
マヨイ
『僕が犠牲になって、二人が助かるならそれでいい』
オオガ
オオガ
『はっ……お前みたいなヤツ初めてだ。面白え』
 視界に広がる一面の闇。
 その中で、男が一人楽しそうにほくそ笑んだ気がした。
オオガ
オオガ
『仕方ないから一緒にいてやるよ』
マヨイ
マヨイ
それで僕は気付いたらこの姿になっていた。
オニでは無くなったけれど、記憶は全部無くなって。自分の名前も忘れてしまった
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
でも、そのマヨイって名前は?
マヨイ
マヨイ
オオガがつけてくれたんだ
オオガ
オオガ
『好きなだけここにいろ。今日からお前は〝マヨイ〟だ』
マヨイ
マヨイ
そこからはゆづるも知ってるとおりだよ。
僕は元の世界に帰る方法を探しているとき、ゆづると出会ったんだ
 マヨイの話にゆづるは考える。
 オニ化したマヨイを止めたオオガ。つまりは彼は止める術を知っていたはずだ。
 だが、今回は助けはしなかった……そしてゆづるやマヨイに対する冷たい態度――。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
もしかして、怒ってた……?
マヨイ
マヨイ
どういうこと?
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
あ、ええと……オオガさんがいってたの。
もしマヨイくんが元に戻ったら一緒に神社に来いって。そうしたら帰る方法を教えてやってもいいって……
 その言葉にはっとしてマヨイは立ちあがる。
マヨイ
マヨイ
昔、ゆづるに話したよね。トンネルの奥にある村の神様の話
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
うん。村にひとりぼっちになった神様がトンネルの向こうから人を呼んでるって……
マヨイ
マヨイ
僕の仮説が正しかったら――いや、一先ず神社にいこう。オオガはきっとそこで待ってるはずだから
 マヨイはゆづるに手を差し出す。
マヨイ
マヨイ
ねえ、ゆづる。僕をもう一度信じてくれる?
もうオニになんかなったりしない。ゆづるを必ず守るから。だから一緒に……
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
……いわれなくても分ってるよ。一緒に帰ろう、お兄ちゃん
 ゆづるは微笑んで、マヨイの手を取った。
 だがマヨイは少し困ったように肩を竦める。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
どうしたの?
マヨイ
マヨイ
そのおにいちゃんっていうのなんか恥ずかしいから止めてほしいな
今は……僕の方が年下に見えるし。それに、僕はもうゆづるの〝おにいちゃん〟でいるつもりはないし
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
え……
 思わぬ言葉にゆづるは目を瞬かせる。
 拒絶されたのだと思っていると、彼は違うよと首を振ってゆづるの頭を撫でた。
マヨイ
マヨイ
気付かないならそれでいいよ。
ただ、今は……この村にいる間はマヨイでいさせて。
一緒に帰ったら……そのとき、ちゃんと話すから。僕の気持ちをね
 憑きものが落ちたような清々しいマヨイの笑顔にゆづるもつられて微笑む。
木﨑ゆづる
木﨑ゆづる
わかったよ、マヨイくん
マヨイ
マヨイ
じゃあ、一緒にオオガに会いにいこう
 差し出されたマヨイの手を取り、二人はこの世界に来たときのように一緒に村へと向かったのであった。

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