前の話
一覧へ
次の話

第3話

後編
32
2021/09/20 03:28
次の日の朝、君の家の前で足を止めた。
一口、深く飲み込んでインターホンを押した。
電子音が静かに響く。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
『はーい?』
インターホンの向こうから、そんな声が聞こえてきた。
あなたのお姉さんだ。
…彼女が虐待を受けているのをただ見ている、傍観者。
何かしろ、と僕に言う権利はない。
僕だってそうだったのだから。
僕はぶつけてはいけない怒りを抑え込んで、口を開いた。
神薙 氷空
神薙 氷空
…あなたさん、いらっしゃいますか。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
『あなた?いるけど…』
聞こえてくる声がいぶかしげな声に変わる。
もしかして、いじめられていることも知っているのだろうか。
神薙 氷空
神薙 氷空
話したいことがあるんです。
……心配なら、あなたも一緒でも構いません。
しばらく、応答がなかった。
黙りこくったインターホンを僕はじっと見つめた。
しばらくして、声が聞こえた。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
『……ちょっと待ってて。』
数分して、玄関の扉が開いた。
中から出てきた、金髪の女性。六花さんだ。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
あがって。案内するから。
僕は中に入る。
彼女は僕に背を向けて歩き出した。
僕は靴を脱いで、その後に続いた。
僕と彼女の間に会話はなかった。
しばらく廊下を歩いて辿り着いたのは、一つの扉の前。
あなたの部屋だろうか?
コンコン、と彼女は扉をノックした。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
…あなた?入るわよ?
久しぶりに名前を呼ぶのか、呼び方を忘れたような、そんな微妙な間があった。
少しして中から返答があった。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
…どうぞ。
お姉さんがガチャリ、と扉を開ける。
中で座っていたあなたが、僕の顔を見て驚いたような顔をした。
神薙 氷空
神薙 氷空
おはよう。
僕はそう笑いかける。
彼女は動揺しながらも、おはよう、と返す。
(なまえ:苗字) 六花
あなたの苗字 六花
お話があるみたいでね。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
…話?
神薙 氷空
神薙 氷空
うん。
僕は、出来るだけ笑顔を絶やさないように頷いた。
神薙 氷空
神薙 氷空
…中、入っていいかな?
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
あ、う、うん。
僕は中に入り、あなたの前に座る。
お姉さんも少し離れたところに座った。
神薙 氷空
神薙 氷空
…単刀直入に言うけど、無理して笑わないで。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
神薙 氷空
神薙 氷空
あなたはさ、いじめられてるよね。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
っ⁉
神薙 氷空
神薙 氷空
虐待もされてる。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
どう、し、て…。
震える声には、恐怖が滲んでいた。
隠してきたことが、バレていたことへの恐怖だろうか。
それとも…。
神薙 氷空
神薙 氷空
…知ってるよ。隠してるつもりかもしれないけど、僕は全部知ってる。
神薙 氷空
神薙 氷空
だから、嫌われるとか、思わないで。
神薙 氷空
神薙 氷空
嫌いにならないよ。
というか、君を僕が嫌いになれるわけないじゃないか。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
え…?
なんで、と口が動いた。声は、しなかった。
神薙 氷空
神薙 氷空
だって、君は僕の恩人だもん。
神薙 氷空
神薙 氷空
君のおかげで、今の僕があるんだから。
きっと君がいなければ、僕はもうこの世界から姿を消していただろう。
神薙 氷空
神薙 氷空
…頼られないのは、辛いんだよ?
神薙 氷空
神薙 氷空
苦しんでいるところを見ている事しかできないのは。
彼女は、目を見開いた。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
……ごめん。
消え入りそうな声でそう言って、うつむいた。
僕は彼女の手にそっと触れた。
ビクッと彼女の手が震えた。
神薙 氷空
神薙 氷空
もう、無理に笑わないで。
笑って隠さないで。
……笑って、逃げないで。
彼女は顔を上げてこちらを見た。
その目には涙が浮かんでいた。
(なまえ:苗字) (なまえ)
あなたの苗字 あなた
…うん。ありがとう。
そう言って彼女が浮かべた笑顔を見ても、もう胸は痛まなかった。

プリ小説オーディオドラマ