深田が顔を覗き込んできた。
図星なのを知られたくなかったので、慌てて顔をそらした。
多分、人生で緊張した場面ランキングトップ5にランクインしているほど、僕は緊張している。
そわそわして落ち着かないし、発汗量もやばい。滝のように流れている。
いや、ぜんっぜん涼しい顔してますが!?
コイツのメンタルどうなってるんだ。ハンマーで叩いてもヒビなんか入らなさそう。
ひとりになった方が落ち着くかもしれないので、自分の待機場所に行くことにした。
そそくさと向かおうとしたとき、
普段と変わらない声で呼ばれた。振り返ると、深田が微笑んでいた。
その笑顔を見た途端、前みたいな沸騰現象が起りかけ、僕は慌てて背を向けて走った。
クソッ! アイスショーだから、王子みたいな衣装着てるから余計かっこいいんだけど!?
今回、僕たちが披露するプログラムのテーマは『永遠の愛』。ほんとくっさいテーマ。
コンセプトとしては、深田が王子で、僕がその王子を一途に想う異国のお姫様……って感じ……。
なんでこの僕がお姫様なんだよ。しかも、よりによって、深田王子に愛してる♥️とか!
そういうわけで、僕は白いフリルがエレガントなドレス風の衣装。ドレス風だからね。もちろんズボンだからね。
待機場所に着き、深呼吸を丁寧に何度もした。
そして、だいぶ心臓が大人しくなってきたとき、舞台のリンクから拍手の音が聞こえてきた。
あの出来事があってから、今まで以上に練習した。リハも特に問題はなかった。
あとは、本番でどれだけ自分の力を発揮できるか。
いつもだったらFiabaのみんながいるけど、今回ボーカルは僕だけ。
下手クソだったら後でネットで叩かれまくるんだろうなあ。
でも、舞台に立つのは僕だけじゃない。
コールと同時に歓声が聞こえてきた。
たくさんの人が待っているんだ。
そう、僕らはアーティスト。自分の全てを魅せて、たくさんの心に響くパフォーマンスを。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!