第3話

波乱の昼休み
115
2019/10/04 05:49
 数日経った昼休み、珍しく僕はひとりで弁当を食べようとしていた。

 すると、深田よりめんどくさいヤツらが新聞を持って近づいてきた。

原田
よおキザ野郎。まーた大きく載っていらっしゃるねえ
 目の前に差し出された新聞には、僕の写真が載せられていた。
 昨日の歌番組で撮られたものだ。ばっちりカメラ目線で投げキッスを決めている。

 なんでこれをチョイスしたのかなー?



 原田は僕を目の敵にしている。

 恐らく、アイドルをかっこつけているだけのキザ野郎ども、と解釈しているのだろう。
 まあ、こんなアホの相手なんかしてたら時間の無駄だし、いつもうなづくだけで適当にあしらっているけど。
下田
男の投げチューとか吐き気がするわ。女って単純過ぎんだろ!
 原田の隣にいた下田が、プププーと口を押さえて笑った。
 コイツは単なる金魚のフンみたいなヤツ。



 女子の怒りの声は聞こえてくるが、誰も動かない。

 助けようとしたら僕が冷たくするからだ。

 僕をかばってコイツらのターゲットにされるのは可哀想だし、それならノーダメージでいられる僕だけが敵意を向けられたほうがいい。

 でも、今日のコイツらはふた味くらい違った。

 新聞をビリビリに破き、そのカスたちを僕の頭の上に降らせた。
原田
ほら、紙吹雪だよ。今回もかっこつけれた祝福さ
下田
ギャハハハハハ! ナイス山田!
 今やられたことを理解するのに少し時間がいった。
 弁当の白ご飯の上には、まるでふりかけのように新聞紙のカスがのっていた。

本宮 琉偉
祝福してくれて、ありがとう
 いつものようにポーカーフェイスをつくろうとしたが、顔がひきつり、声も箸を握りしめた手も震えた。

 顔がどんどん熱くなっていく。
 今にでもコイツらに飛び掛かれるくらい怒りが込み上げてくる。

 耐えろ。ここで我慢できなかったら僕の負けだ。

 うつむいて必死に感情を抑えようと深呼吸をした。

 その様子を見た原田の満足そうな笑い声が聞こえた。
原田
震えるほど嬉しいのか。それはよかったなあ!
 もう、堪忍袋の緒がぷちりと切れそうになったとき、
深田 貴之
お前は琉偉の何を知っている?
 顔を上げると、焼きそばパンを持った深田がいた。
 これを買いにいっていたから、いつものように誘いに来れなかったみたいだ。

 いいところを邪魔された原田たちは深田をにらみつけた。
原田
あ? 何だよお前
下田
てめえは関係ねえだろ。しゃしゃり出てくんなや!
 深田は全く動じず、口を開いた。
深田 貴之
琉偉のパフォーマンスが、たくさんの人々にエネルギーを与えている。
そのために、琉偉は影でとてつもない努力をしているんだ。
お前たちに口を出す資格などない
 眉間にシワを寄せ、鋭い目つきで原田たちを問いつめる姿は、今まで見たことがないほど迫力があって、真っ直ぐで、漢らしかった。




 いつまでも弱々しい姿を見せられないな。



 不思議と心が落ち着き、勢いよく席を立った。

 それに驚いた原田たちの肩がビクッと跳ねた。
本宮 琉偉
いい? 僕はアイドルだよ。みんなを魅了して元気にするためなら何だってするさ
 このとき、なぜか僕は笑っていた。
 決してポーカーフェイスではなく、自然のものだった。
 よくわからない。けど、はっきりしているのは、気持ちを立て直せたのは深田のおかげだということ。

 弁当を持ち、深田の腕を掴んだ。
本宮 琉偉
昼ごはん食べにいくんでしょ? 早く行くよ
 超レアな僕のデレに驚き、深田は一瞬目を大きく見開いたが、微笑みながら頷いた。

 僕は深田の腕を掴んだまま、急いで教室を出ていった。

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