数日経った昼休み、珍しく僕はひとりで弁当を食べようとしていた。
すると、深田よりめんどくさいヤツらが新聞を持って近づいてきた。
目の前に差し出された新聞には、僕の写真が載せられていた。
昨日の歌番組で撮られたものだ。ばっちりカメラ目線で投げキッスを決めている。
なんでこれをチョイスしたのかなー?
原田は僕を目の敵にしている。
恐らく、アイドルをかっこつけているだけのキザ野郎ども、と解釈しているのだろう。
まあ、こんなアホの相手なんかしてたら時間の無駄だし、いつもうなづくだけで適当にあしらっているけど。
原田の隣にいた下田が、プププーと口を押さえて笑った。
コイツは単なる金魚のフンみたいなヤツ。
女子の怒りの声は聞こえてくるが、誰も動かない。
助けようとしたら僕が冷たくするからだ。
僕をかばってコイツらのターゲットにされるのは可哀想だし、それならノーダメージでいられる僕だけが敵意を向けられたほうがいい。
でも、今日のコイツらはふた味くらい違った。
新聞をビリビリに破き、そのカスたちを僕の頭の上に降らせた。
今やられたことを理解するのに少し時間がいった。
弁当の白ご飯の上には、まるでふりかけのように新聞紙のカスがのっていた。
いつものようにポーカーフェイスをつくろうとしたが、顔がひきつり、声も箸を握りしめた手も震えた。
顔がどんどん熱くなっていく。
今にでもコイツらに飛び掛かれるくらい怒りが込み上げてくる。
耐えろ。ここで我慢できなかったら僕の負けだ。
うつむいて必死に感情を抑えようと深呼吸をした。
その様子を見た原田の満足そうな笑い声が聞こえた。
もう、堪忍袋の緒がぷちりと切れそうになったとき、
顔を上げると、焼きそばパンを持った深田がいた。
これを買いにいっていたから、いつものように誘いに来れなかったみたいだ。
いいところを邪魔された原田たちは深田をにらみつけた。
深田は全く動じず、口を開いた。
眉間にシワを寄せ、鋭い目つきで原田たちを問いつめる姿は、今まで見たことがないほど迫力があって、真っ直ぐで、漢らしかった。
いつまでも弱々しい姿を見せられないな。
不思議と心が落ち着き、勢いよく席を立った。
それに驚いた原田たちの肩がビクッと跳ねた。
このとき、なぜか僕は笑っていた。
決してポーカーフェイスではなく、自然のものだった。
よくわからない。けど、はっきりしているのは、気持ちを立て直せたのは深田のおかげだということ。
弁当を持ち、深田の腕を掴んだ。
超レアな僕のデレに驚き、深田は一瞬目を大きく見開いたが、微笑みながら頷いた。
僕は深田の腕を掴んだまま、急いで教室を出ていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!