葉桜が揺らめく中庭のベンチで、僕が白米を食べていると
隣の、ほおぶくろがぺったんこな深田がぽつりと言った。
声色は弱々しいし眉毛は八の字になってるし、誰がどう見ても元気がない。
まあ、理由は勘づいてるけど。
いじわるで言ったんじゃないよ。自分の勘に確信がないから確かめたかっただけだから。
焼きそばパンが握りつぶされ、麺が地面に落ちた。
よかったね、アリさん。今夜はそば三昧だよ。
うーん……ハーフハーフかな。
確かに、関係ないのに入ってくんなって思っちゃう人いるよね。性格からして、僕もそのひとりかも。
でも、
深田が顔を上げた。眉毛と目がフェルマータみたいだった。
あのとき、深田を邪魔だと1ミリも思わなかった。
今振り返ってみると本当に不思議だ。
つい最近まで、アイスショーの出演を引き受けたこと対して、後悔の気持ちしかなかったのに。
なんかすごく丸くなっちゃったな~。もう年なのかな?
え、なんなの。この僕があんないいこと言ったのに無視?
いつの間にか、深田はいつものクールフェイスで僕を見ていた。
さっきので無表情とかはないでしょ! ここは、琉偉……って感動するとこじゃないの!?
語尾に怒マークが付きそうな声で言った。
すると、深田の口角はゆっくりと上がり、
と、はにかんだ。
その途端、僕の身体は沸騰したやかんのように体温が急上昇。
アイツらに新聞紙かけられたときとは比べ物にならないくらい熱くなった。
なんだこの化学反応は!? 僕こんなことで動揺する乙女じゃないし! キュンッ、とかしてないし!
舌が上手く回らず、なぜか女口調になってしまった。
ごまかそうと慌てておにぎりを口に詰め込んだ拍子、思いっきりむせた僕は、しばらく深田に背中をさすられる羽目になってしまったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!