第4話

修羅場後ランチ
99
2019/09/30 10:47
 葉桜が揺らめく中庭のベンチで、僕が白米を食べていると
深田 貴之
すまない
 隣の、ほおぶくろがぺったんこな深田がぽつりと言った。
 声色は弱々しいし眉毛は八の字になってるし、誰がどう見ても元気がない。

 まあ、理由は勘づいてるけど。
本宮 琉偉
なんで謝るの?
 いじわるで言ったんじゃないよ。自分の勘に確信がないから確かめたかっただけだから。
深田 貴之
琉偉がアイドルということでいじめられているのが耐えられなかった。身体が勝手にうごいてしまった
 焼きそばパンが握りつぶされ、麺が地面に落ちた。

 よかったね、アリさん。今夜はそば三昧だよ。
深田 貴之
琉偉は強い人間だ。俺なんかが庇わなくてもよかっただろう? 余計なことをしてしまって、本当にすまない
 うーん……ハーフハーフかな。
 確かに、関係ないのに入ってくんなって思っちゃう人いるよね。性格からして、僕もそのひとりかも。

 でも、
本宮 琉偉
そんなことないから
 深田が顔を上げた。眉毛と目がフェルマータみたいだった。
本宮 琉偉
もし深田が入ってこなかったら、多分アイツらを殴ってた。今回はありがとうって言わなきゃね
 あのとき、深田を邪魔だと1ミリも思わなかった。
 今振り返ってみると本当に不思議だ。
本宮 琉偉
お礼にアイスショーで最高の歌声を流してあげる。だから、深田もそれにふさわしい滑りをするんだよ
 つい最近まで、アイスショーの出演を引き受けたこと対して、後悔の気持ちしかなかったのに。

 なんかすごく丸くなっちゃったな~。もう年なのかな?
深田 貴之
……
 え、なんなの。この僕があんないいこと言ったのに無視?


 いつの間にか、深田はいつものクールフェイスで僕を見ていた。



 さっきので無表情とかはないでしょ! ここは、琉偉……って感動するとこじゃないの!?
本宮 琉偉
聞いてた?
 語尾に怒マークが付きそうな声で言った。

 すると、深田の口角はゆっくりと上がり、
深田 貴之
ありがとう
と、はにかんだ。

 その途端、僕の身体は沸騰したやかんのように体温が急上昇。

 アイツらに新聞紙かけられたときとは比べ物にならないくらい熱くなった。

 なんだこの化学反応は!? 僕こんなことで動揺する乙女じゃないし! キュンッ、とかしてないし!
本宮 琉偉
わ、わ、わかればいいのよっ!
 舌が上手く回らず、なぜか女口調になってしまった。

 ごまかそうと慌てておにぎりを口に詰め込んだ拍子、思いっきりむせた僕は、しばらく深田に背中をさすられる羽目になってしまったのだった。

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