恐る恐る、私が聞いてみれば成瀬はため息をついた。
『呆れた』と言わんばかりの顔にイラつきを覚えながらも、私は成瀬の話を聞く。
そう言った成瀬以外の3人は同時に振り返り、相手チームを見た。
……、、何も話し合っていなかった。
カップルである2人が話しているだけで、あとはノータッチ。
東雲さんの『まさかっ!』という声を境に、成瀬の考えを私たち4人で共有できた気がした。
まさか、そんなことがあるのだろうか。
でも、現実がそうなのだから。
成瀬の問いかけに私たちは頷いた。
苺を、
彼女をただ1人だけ、勝負のステージに立って貰えばこちらの勝利は決まったに等しい。
聞こえてきたとなりのチームの会話に耳をすませれば、適当すぎる会話。
苺が戸惑っていることがはっきりとわかった。
今の会話を聞いて、私たちは確信した。
このチーム、、
勝つか負けるかは、私たちにかかっている。
アスカのテンション高めの声が聞こえると、私たちは苺たち相手チームに近づいた。
勝つ方法は簡単で。
苺をたった1人にしてしまえばいい。
相手チームにはっきりと言い放った絢都の声は、相手チームの視線を一気に……、、
注がなかった。
絢都を見たのは苺1人だけ。
苺は、絢都の言葉を聞くと、後ろを素早く振り向いた。
必死に聞く苺。
しかしかえってきたのは素っ気ない返事。
まるで、自分たちが死ぬと思ってないような。
そんな適当な返事。
苺の顔が引きつっていることがはっきりとわかった。
ああ、これ私たちが勝つ。
苺のその目を、
死んだような精気を失った目みれば、わかった。
成瀬の言葉を信じた私は、そう思った。
成瀬の声かけに苺が応じる。
『じゃんけん』と合わさった声は私たちを包み込み、
不安とか希望とか、そんなのをひっくるめていく。
『ぽいっ』の声が重なれば、私は目をつぶってしまった。
成瀬の勢いよく出た手は『パー』だ。
だけれど苺が出した手は?
私は死ぬのか死なないのか。
そんなことはどうでもよくなって。
ゆっくりと開けた目は苺の手を捉えた。
ぼやけていた目はだんだんと普通に戻る。
出ていた手は、、、
私の声はすぐに消える。
何もなかったかのように。
さっきよりも更にひきつる苺の表情。
成瀬の顔はよく見えないけど、なぜか震えていた。
私は隣にいた東雲さんと顔を合わせれば、自然と涙が出てきてしまった。
気がつけば私は東雲さんに抱きついていた。
勝ったんだ。
これで終わる、終わるんだ。
私は死ななかったんだ。
私の感情に浮かんでくるのは『安心感』
それだけ、それだけだった。
今までずっと黙っていた智が叫び出したのは、突然のことだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。