第5話

ファーストステージ(3)
80
2019/06/07 05:57
時雨 梨緒
どういうこと?
恐る恐る、私が聞いてみれば成瀬はため息をついた。
『呆れた』と言わんばかりの顔にイラつきを覚えながらも、私は成瀬の話を聞く。
成瀬 聖
まあ、説明する。
相手チームを見てみてくれ。
そう言った成瀬以外の3人は同時に振り返り、相手チームを見た。

……、、何も話し合っていなかった。

カップルである2人が話しているだけで、あとはノータッチ。
成瀬 聖
もう、気がついた?
巴坂 絢都
あ、ああ。
時雨 梨緒
きっと、苺独断でじゃんけんするってこと?
東雲 麗仁
それってっ!!

東雲さんの『まさかっ!』という声を境に、成瀬の考えを私たち4人で共有できた気がした。



まさか、そんなことがあるのだろうか。

でも、現実がそうなのだから。
成瀬 聖
確実に勝てるだろ?
成瀬の問いかけに私たちは頷いた。


苺を、


彼女をただ1人だけ、勝負のステージに立って貰えばこちらの勝利は決まったに等しい。











ね、ねえ、次は何出したらいいかな?
彩未
なんでもいーんじゃない?
ね?圭太?
圭太
ま、そーだな!
聞こえてきたとなりのチームの会話に耳をすませれば、適当すぎる会話。

苺が戸惑っていることがはっきりとわかった。
今の会話を聞いて、私たちは確信した。


このチーム、、




勝つか負けるかは、私たちにかかっている。
アスカ
それじゃあ、2回目のじゃんけんするよ〜!
アスカのテンション高めの声が聞こえると、私たちは苺たち相手チームに近づいた。

勝つ方法は簡単で。


苺をたった1人にしてしまえばいい。
巴坂 絢都
なあ、俺らさ、『パー』出すから。
相手チームにはっきりと言い放った絢都の声は、相手チームの視線を一気に……、、








注がなかった。




絢都を見たのは苺1人だけ。
ど、どういうこと?
巴坂 絢都
言葉通りだよ。
成瀬は『パー』を出すんだ。

苺は、絢都の言葉を聞くと、後ろを素早く振り向いた。
ど、どうしたらいいかな?


必死に聞く苺。

しかしかえってきたのは素っ気ない返事。
まるで、自分たちが死ぬと思ってないような。

そんな適当な返事。
彩未
『パー』出すって言ってんだから、『チョキ』出したらいーんじゃない?
圭太
そーそー、せっかく言ってくれたんだからさ!
だ、だよね!
そー、だよね……。


苺の顔が引きつっていることがはっきりとわかった。

ああ、これ私たちが勝つ。



苺のその目を、
死んだような精気を失った目みれば、わかった。

成瀬の言葉を信じた私は、そう思った。
成瀬 聖
そろそろじゃんけんしないか?
う、うん。
成瀬の声かけに苺が応じる。





『じゃんけん』と合わさった声は私たちを包み込み、



不安とか希望とか、そんなのをひっくるめていく。



『ぽいっ』の声が重なれば、私は目をつぶってしまった。



成瀬の勢いよく出た手は『パー』だ。
だけれど苺が出した手は?






私は死ぬのか死なないのか。
そんなことはどうでもよくなって。




ゆっくりと開けた目は苺の手を捉えた。
ぼやけていた目はだんだんと普通に戻る。
出ていた手は、、、







時雨 梨緒
『グー』
私の声はすぐに消える。
何もなかったかのように。


さっきよりも更にひきつる苺の表情。
成瀬の顔はよく見えないけど、なぜか震えていた。


私は隣にいた東雲さんと顔を合わせれば、自然と涙が出てきてしまった。
東雲 麗仁
勝ち、まし、たね。
時雨 梨緒
うん、勝ったね。
気がつけば私は東雲さんに抱きついていた。
勝ったんだ。
これで終わる、終わるんだ。


私は死ななかったんだ。







私の感情に浮かんでくるのは『安心感』
それだけ、それだけだった。








うそ、だろ?
あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ!

今までずっと黙っていた智が叫び出したのは、突然のことだった。

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