始まった1年生が鬼の番。
3年生が2人も死んでしまっている中、私たちは未だタッチすることができていない状況だった。
一年のリーダーの『ダルマさんが転んだ』は高速で、早口言葉のよう。
後ろを向いてはすぐに振り返られてしまう。
だから、動くタイミングが全くない。
実質、進んでいるのはほんの少しずつで。
私たちが鬼役に届くのが先か、カメラセンサーに反応されてしまうのが先か。
全くゲームは進まないが、着実に私の足は進んでいる。
少しずつ、少しずつ、進んでいる。
3年のリーダの先輩の叫び声がして、私は私たちよりも前にいるその声の主を注目する。
鬼役は、相変わらずで。
叫び声を聞いても惑わされることもなく、早いペースで振り向いていく。
第2 ゲーム開始の時に、あんなに泣いていた1年生だと、誰が思うだろうか。
そんなほどの冷酷さ。
そう叫んで、鬼役が後ろを向いている間に、走り出す先輩。
リーダーの先輩だけじゃなくて、もう1人の先輩も走っているのだから、もう何がなんやらで。
私の頭は理解が追いつかない。
もうだめだ、先輩たちはアウトに…。
なんて思った時だった。
目線だけ先輩たちにやれば、きちんと止まっている。
それも、鬼役に腕を伸ばせば届くほど。
鬼役の顔が曇るのがわかる。
少しばかり悲しそうに顔を歪ませれば、すぐに後ろを向く。
諦めたかのように今度はゆっくりとした声だった。
機械音が響く。
終わった。
私はホッとして腰が抜ける。
隣を見れば、麗仁ちゃんも同じようで、顔を見合わせて緊張がとけた。
その言葉を聞いて、私は立ち上がると、軽く残りの人数を確認する。
私たちのチームが残り3人で、他が2人ずつ。
安堵の気持ちがこみ上げてくる。
第2 ゲームは、私たちが勝ったんだ。
勝ちを噛み締めた私はすぐに1年生のリーダーの元へ詰め寄った。
勢いよく胸ぐらを掴めば、麗仁ちゃんが止めに入ってくる。
が、そんな静止を聞けるはずもない。
ごめんね、だけどこれだけは。
どうしても聞きたい。
もう1人の残った1年生の子の手を握りながらはっきりというそいつの目は、しっかりしていた。
もうすぐ死ぬと知っていて、こんなにしっかりとした目つきだなんて。
泣きじゃくっていた無垢な彼はどこに。
私は胸ぐらを掴むのをやめた。
ゆっくりと下ろすと、そいつは少しばかり咳をして、私に頭を下げた。
お礼の言葉にこれからの励ましの言葉。
涙がこみ上げてくるのは何故なのか。
私は、私たちは生きるために他チームを蹴落とした。
恨まれても同然なのに。
この気持ちは、同情の感情なんかじゃない。
何かわからないけど、私は蹴落とした人たちの未来を背負っているのだなと、今頃になって気がつき出した。
私を心配してくれたのか。
成瀬の呼びかけに応じる。
わかってるよ、泣いてても何も変わらないことなんて。
だけど、これで最後にするから。
くよくよするのは最後に、する、から。
涙を拭けば、目の前は一瞬にして赤くなった。
ゲームオーバー。
でも、でも。
自分が生きていることが無性に嬉しかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。