第29話

ひとつ
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2024/03/09 15:00
入院で分かったことは、ひとつ。


_____その症状が、全くの原因不明だということ。





こころは学校に通うことが許された。
首にコルセットのようなものを巻いてはいるが、こころ自身も首を動かさない生活に慣れてきていたのだ。
久しぶりの登校日、車から出てきたこころを見て、愛衣めいが声を上げた。
…あー! うそ、こころちゃんだ!
こころ
…あ、おはよう愛衣めいちゃん! 久しぶり〜
愛衣が手を振りながら駆けてくる。そしてその勢いのまま、こころに抱きついた。
こころ
うわっ、ちょっとやめてよー
やめない。だって会いたかったもん
愛衣はこころの巻いているコルセットには触れずに、会えたことを喜んでいた。
……ずっと、みんな待ってたんだよ!
ほんと、先生から「こころちゃんが入院した」って聞いてびっくりした…
こころ
病気とかじゃない…と思うし、首以外何も悪くないから安心して。心配してくれてありがと!
もー、心配かけないでよ! 私なんて、
こころちゃんが心配で泣いちゃったんだよ〜
こころ
えぇ〜、そんなに?
いやでも愛衣ならあり得るかも
 
思えばこころは、あの態度に救われていたのかもしれない。








____そして、中学3年の夏。
朝食を食べていて、こころはそれに気がついた。


…首の違和感が消えていた。いや、違和感があった、と言うべきか。
こころ
……んー?
母がちらりとこころの方に目を向ける。
…どうしたの?
こころ
…うーん、いや、なんか
言いながら、こころはゆっくりと首のコルセットを外した。
…こころ、と母が止めようとするが、それより先に外れる。
こころ
……
こころは、恐る恐る、ゆっくりと首を動かす。

…予想していた痛みは、来なかった。

原因不明の症状は、原因不明のまま唐突に消え去ったのだ。



_____それは、去年の夏のことだった。
……と、今までの回想をして、こころはまた首に手をやる。
こころ
(…それで、なんで今、首が痛いわけ?)
そう思った途端。
こころ
…わっ⁉︎
ぱっと、脳裏にある光景が浮かんだ。
一面真っ黒な地面。木々は燃え、所々ところどころで火の手が上がる。
_____闇だ。と、こころは思った。
ふと、小高い丘のようなところが目に入った。
…そこに、漆黒の服を着た人が立っている。
風ではためく服をおさえもせずに、じっと真っ黒な世界を見つめている。
一際ひときわ強い風が、そこを走り去っていった。
……その真っ黒い人影が、こちらを振り返る。
…こころは飛び起きた。
こころ
…っ
そして、はあ、と息をつく。
______夢、か。

青いベッドの上で何かを読んでいた実々が振り返り、こちらに目を向ける。
実々
…おはよう。……大丈夫?
気遣わしげなその声に答えず、こころは首に手をやった。
夢の最後に見た丘を思い出す。そこに立つ、黒い人影。
…もしかして。

イヤな予感がした。





その時、鈴が白いドアを開けて中に入ってきた。
実々さん。昨日の夜、なんだかかがみさんが敵をやっつけたらしいですよ。それで光ってたらしいです。…あ、おはようございます
鈴の言葉に、こころは泣きそうになる。

……やっぱり。
実々
あぁ、そういうことだったんだ…。
聞いてきてくれてありがとう
実々の言葉を聞きながら、こころはうつむいた。
リビング・ダイニング(この白い建物の1番広いところ)に行くと、既に朝食はできていた。
キッチンにいる朔羅がピンクのエプロンを着ているのを見て、こころはつくってくれた人を察する。
みなか
あっ、おはよ〜!
みなかがこちらに顔を向け、人懐ひとなつこい笑みを浮かべた。
そのまま、朔羅のいるキッチンに駆けていく。
「おはよう」と返しながら、こころは朔羅に申し訳なくなっておろおろする。
こころ
…朔羅さん、ありがとうございます。
あと、すみません、1人だけ寝ちゃってて
少しいたたまれなくて頭を下げると、かがみが笑った。
かがみ
こころちゃん、今ここに誰がいる?
え? とこころは辺りを見渡した。
配膳はいぜんを手伝った後、携帯をいじりだした、鈴。
こころと共に来た、実々。
フライパンをながしに置いて、水を注いでいる、朔羅。
それを慣れた手つきで手伝う、みなか。
白い椅子に座っている、かがみ。

……以上。
 
こころ
あれ? 他の人たちは?
実々
寝てるよ
その言葉に、こころは拍子抜けしたように立ち尽くした。
こころ
…え、寝てる?
うん、とかがみが頷く。
こころ
え、でも、私がいた部屋では寝てたの私1人だけでしたよ?
かがみ
人数多いから、部屋つくって分けたの
かがみが、こころ達の歩いてきた廊下をちらと見た。
かがみ
突然、異世界にやってきて、いろいろな事が起きたからねぇ。疲れてるんだよ
その言葉に、実々が「かがみさんが連れてきたんでしょ」とつっこんだ。

その様子を見つめ、こころは確認するように呟く。
こころ
じゃあ、私が最後じゃなかったんですか?
かがみ
うん。安心して
はあぁ、と、心底しんそこ安心したように、こころは息を吐く。
こころ
…よかった。早く起きられない人みたいにならなくて
その言葉に、思わずというようにかがみが笑った。

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