彼は顔を勢いよくこちらに向けた。
そこから殺伐とした雰囲気は取り除かれていた。
驚きと戸惑いで潰されていた。
後ろめたい事でもあるようにまた視線を戻した。
そりゃそうか。
あの時の「莉犬にい」のまま時が止まって動かない俺と、あの時の「あなたの下の名前」しか見えてない莉犬にい。
そして彼自身が、探していたはずの弟をだと知らずに「死神」を探し出すことに奔走してた。
なんて悲しい状況だろうか。
君は俺を殺すのか─────?
口を離してやると、肩で息をする莉犬にい。
愚問。
嘘をついてどうするんだよ。
状況を信じ難いとばかりに目を泳がせる。
手錠は掛けたまま。
フードを脱いで黒いマスクの紐を指で引っ掛けて取る。
そして、わざとそのままにしていた長い前髪をあげた。
前髪を上げたことで一瞬でわかったはずだ。
僕と君は同じオッドアイなんだから─────
前に2度ほど彼には殺されかけた。
彼の偶像を追い続ける姿は見たくない。
だからこれで正解なんだ。
途端に零れ落ちてくる涙。
透明で純粋で不規則な丸い粒。
素直な所もすぐ泣いちゃう所も、変わってない。
🍓組に入ったこと以外は残ってるんだ。
それを見て安心して、ふと莉犬にいを地面に押さえつけてた手を離して正面から抱きしめた。
泣き続ける兄の背中を撫でる。
ぐしょぐしょの目元で俺を見つめた。
怖いだろうね、🍓組を裏切るなんて。
でも、🎲組も負けてないから。
簡単に突破できるような生ぬるいセキュリティでも無いし命は絶対に俺が守ってみせる。
無表情に慣れた口角で必死に問いかける。
静寂が2人を包んだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。