スニョンさんと話す気が湧かなくて、失礼のない程度に素っ気なくしていたら、ついに彼に我慢の限界が来たようだった。
『○○さーん!ちょっと来てー!』
大声で呼ばれるのは日常茶飯事だったので、素直に小走りで行くと、腕を掴まれ、グイグイどこかへ連れていかれた。スニョンさんの部署、給湯室、屋上への階段。普段の雑用でないことは分かったが、彼の考えは一向に掴めないまま、人気のない、端っこの会議室に入らされた。ガチャリと音がして、部屋が明るくなった。手近な椅子に座り、優しい笑顔で問いかけられた。
『なに?』
「…こっちの台詞です。なんのご用件でしょうか」
短い言葉の意図は分かっている。けどそれをはぐらかすのは、私にも思うところがあるからなんです。最高の笑顔が逆に怖さをましていく。
『どういったご用件でしょうか、だね。正しくは。もう少し噛み砕いて聞くよ?君の最近の態度は何?心当たりが全く無いのに当たりきつくされちゃさすがに傷つくよ』
これは口論が得意な人の追いつめ方だ。こう聞かれたら、私は正直に答えるしか道が残されていないのを知ってる。原因を話したら、どうなるかな。不機嫌を取り繕うのにも疲れたので、思いっきりぶち明けてしまおうと思った。
「すみませんでした。…ひとつ聞いてもいいですか?…この間の週末、どこで誰と何してました?」
『この間の週末…』
言わないとわかんないのか
「女の方と随分仲良さげにお買い物なさってましたね。私偶然見ちゃって。スニョンさんとただの仕事仲間だったら、いいなーって見てただけかもしれないです。だけど前に私を好きって言ってくれたじゃないですか。あれがあったから、貴方は軽い人で私なんかなんとも思ってなかったんだなって…本気にした私が馬鹿だったなって思っただけです。」
…言って…しまった。本心だ、今、口から出た言葉達は。まるで私がスニョンさんを好きみたいだな。でもこの気持ちは…。あの女の人を羨んで、妬む自分が確かにいるんだ。
その場の空気にいたたまれなくなって、部屋を飛び出す。呼び止める声も聞き入れず、自分の部署まで早歩きで向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!