山田くんのいない帰り道は、とても気楽だったけど……どこか寂しさを感じた。
いつもなら隣で突拍子もない事を口にしたり自由過ぎるその性格を振り撒いては僕を困らせてばかりのくせに、居なくなったら居なくなったで寂しくさせて困らせるなんて。
全く……君にはつくづく困らされてばかりだよ。
まぁ、君のそんな所に僕は惚れたのだろうけど(決して変な意味ではなく、ただ純粋に友人として)。
ホテルの自室に着くと、山田くんと同じようにベッドへと飛び込んでみた。そしたら少しは寂しさが消えるかな、なんて思い。
……だが、やはりそれは的違いだったようで、僕の心をより一層虚しくさせるだけだった。
そう、それは叔母の家の庭に咲いたクロユリを目にしてからずっと感じていた違和感のようなもの。
きっと花を見て思い出したのだから、花に関する一件なのだろうけど。
何か……何かあるはずだ。
あの日……君と最後に過ごしたあの夜に。
思い出せ。思い出すんだ。
もう一度あの夜に帰るように全て――。
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……思い出した。
ずっと心に引っ掛かっていた君の言葉。
君があまりにも悲しそうな顔して言うから、僕は思わずこう答えたんだ。
当時の僕は、いまいち彼女の呟いていた意味を分かっていなかった。でも、そう約束することで君が少しでも笑顔になれたら。と考えたのだ。
でも、僕はその約束を果たすことがまだ一度足りとも出来ずにいる。
………もしかしたら、出来ないままあなたは死んでしまったかもしれないのに。
そんなの………残酷過ぎるよ。
僕ら2人しかいないというのに、わざわざ僕の耳に両手を当てまるで糸電話をするかのように両手で口元を覆いながらあなたは静かに耳打ちした。
そうだ、きっと僕が思い出したかったのはきっと“ソレ”だ………!
ようやく溜まっていたシコリが消えたかのように頭の中がうんと軽くなった僕は、ベッドから身体を起こし山田くんへメッセージを送った。
『あなたは、次に会えた時……キンセンカの花を欲しがっていた』と。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!