第25話

絶望は愚者の結論。
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2018/02/16 13:52
何度か静岡の方にあるメアリーさんと兄さんの墓参りに日帰りで行ったことがあるのよ。もちろんあなた抜きで、ね。
だって……どこまでも憎たらしかったあの子は、私の穏やかな心だけでなく息子の心まで奪ってしまったんだから。

正直何度も何度も殺そうかと思ったわ。
さっさと死ねだとか、殺してやるだとか、何度口にしたか分からない。


本当に迷惑な話だけど、本当に……本当に後悔しているのよ、これでも。


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全てを彼女から聞いた僕の心は、怒りと憎悪……そして嫌悪感という3つの感情が絵の具のように混ざり合い、得体の知れない色をしているようだった。


なぜ何一つ悪い事をしていないあなたがそんなあまりにも酷すぎる仕打ちを受けなければならなかったんだろう。

叔母さんに対しての怒りと憎悪で、今にも我を忘れてしまいそうだった。もしも今ここに凶器が転がっていたとしたら迷いなく襲いかかっている所だろう。

そして……なによりもやはり、あの時君を止められなかった僕自身に対しての自己嫌悪が僕の涙を誘う。何で……何で。
知念 侑李
知念 侑李
………何で僕だけ……何も知らずにヘラヘラと笑って楽しんで生きてきたんだろう………っ
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
………ッ
知念 侑李
知念 侑李
あなたがこれほどまでに苦しんで傷ついて……ここまで追い込まれてるって知っていたら………!
誰にぶつける訳でもなく、僕は僕自身に対して怒鳴り散らすように涙をこぼしながら声を荒らげていた。

隣にいる山田くんどころか、全ての元凶である叔母さんさえもがじっと黙り込んだまま、僕の癇癪が治まるまで俯きながら待っていてくれた―――。
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知念 侑李
知念 侑李
………今日はありがとうございました
君の叔母
……ごめんなさいね、あなたに会えなくて
知念 侑李
知念 侑李
いえ
僕の心はもう絶望で溢れ返っていた。
もう何も考えたくない。もう何も……。

ごめんなさいと謝る叔母さんに軽く会釈をした僕は、何も言わずに山田を置いて1人歩き出した。
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
―――あっ、おい!
慌てて僕の方へと歩み寄ってきた山田くんに、一言「ごめんね」と消え入るような声で呟いた。
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
………あ?
知念 侑李
知念 侑李
せっかく依頼したのに……最悪な結果に終わっちゃってさ
叔母さんから貰ったライターでタバコに火を付けた山田くんは「お前は愚者なのか?」と大きく息吹を漏らした。
知念 侑李
知念 侑李
………え?
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
“絶望は愚者の結論なり”って言葉しらねぇの?
ベンジャミン・ディズレーリっていう19世紀のイギリス人作家の名言
知念 侑李
知念 侑李
……知らないよ、そんなの
ふいと視線を逸らし、立腹しながら静かに答えた。何が言いたいのか全く理解できない。
そのイギリス人作家の言葉と僕と、一体どう関係があるというのだ。
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
はぁ………
侑李はもっと冴えてる奴かと思ってたよ
知念 侑李
知念 侑李
どういう意味―――
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
絶望するのはまだ早いんじゃねぇの?
……だって遺体は見つかってないんだろ?
タバコを咥えながら得意げにニヤける彼の意図がようやく理解出来た。
……なんだ、そういう事だったのか。
知念 侑李
知念 侑李
―――うん、そうだね。
まだ……絶望してる場合じゃないもんね
山田くん(山田涼介)
山田くん(山田涼介)
おう……!
今回もまた、山田くんに救われてしまったな……。
今度夕飯でも奢ってやるとしよう。いつもだけど。

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