紫苑は透璃からの指示に従って南南西へ進み、比較的広い林に入った。
きゃあああああ…!
遠くからかすかに悲鳴が聞こえた。
悲鳴が上がったその場所では、鬼と隊士が向かい合わせに睨み合っている。
隊士は二人。片方は女性で、一人の男性隊士を抱き寄せて座り込んでいる。男性隊士はかなりの深手を負っていて、意識がなかった。
対する鬼は随分と余裕そうに、手に着いた血をペロリと舐めた。
女性隊士は、腕の中の男性隊士に、つぶやくように文句を言う。しかしそう言いながらも彼女の目は潤んでいた。
どうやら、攻撃をまともに受けそうになった女性隊士を、咄嗟に男性隊士が庇ったようだ。
鬼が手を振り上げる。
ジャキンッ!!!
覚悟した痛みが来ないことに驚き、顔を上げた隊士が目にしたのは。
腕をすっぱり斬られた鬼と、その後ろに凛と佇む紫苑の姿だった。
その次の瞬間、紫苑は鬼と隊士の間に滑り込み、攻撃を受け止めた。
ガキンと大きな音こそしたが、刀はビクともしない。
グググ…と鬼は力を強める。
紫苑はいきなり刀の向きを変え、拳を受け流した。
一瞬己の手元に目をやった鬼が再び紫苑の方を向くと、、、
既にそこには誰もいない。
どこかから紫苑の声がする。
そう気づいて鬼が上を見あげた頃には、もう遅い。
ズバッ!
…という音をたて、鬼の頸は落ちた。
塵になる鬼を見下ろし、紫苑は呟く。
男性隊士を背負って蝶屋敷へ走る紫苑の隣へつき、女性隊士は紫苑にお礼を述べる。
朝になり、隊士を蝶屋敷に送り届け、さあ一度家に戻ろうかと紫苑が屋敷の門をくぐって出たところで。
アオイの叫び声が聞こえた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。