「今、頼る人いないんだよね……?」
目黒さんの問いかけに、間違いないと頷く。
「じゃあさ、ここ、くる?」
理解が追いつかなかった。
「……え、と。今の言い方じゃ、目黒さんが私とここで一緒に住むって聞こえるんですが??」
「うん。それで合ってる。俺とここで住まないかっていう、提案なんだけど……」
なに言ってるの……!?
驚きのあまり声も出ない。
だってだって、目の前の目黒さんはアイドルで。
しかも、国宝級イケメンとか言われてて。
それに対して私はただの一般人。
名家の生まれでもなければ、特別に秀でた何かがあるわけでもない。
「…嫌ならいいけど、あなたの名字さんはどこで暮らすの?」
「嫌とか以前に、ダメっていうか…私はしばらく、ネカフェとかビジネスホテルで過ごします!!」
「何言ってんの。ネカフェとかビジネスホテルとか、危ないって」
「大丈夫です!すぐに新しい住居をさがすので」
「……それなら俺の家でいいじゃん。てか、なんでダメなの?」
ダメなものはダメだ。
万が一にも、家政婦と友達は許されたとしても、
同居なんて許されるわけない。
全国の〝目黒蓮〟のファンに顔向けできない。
「なんでって、目黒さんは芸能人じゃないですか」
ピクって目黒さんの眉が動いた。
「同居とか、ファンの人達に顔向けできないです」
ふーっと目黒さんが息を吐く。
「俺たち、友達じゃなかったの?」
「……え?」
「あなたの名字さんは今、俺のことを〝芸能人の目黒蓮〟として見てるでしょ」
「それ、は……」
図星だった。
私は今、〝友達の目黒さん〟じゃなくて、〝芸能人の目黒蓮〟として彼を見ていた。
「俺は、あなたの名字さんともっと近づきたいと思ったから、友達になったんだ。あなたの名字さんは、違った??」
「違わ、ない」
「そっか。……俺と一緒が嫌で同居を断るなら構わないし、受け入れるけど、」
目黒さんの顔が、
苦いものを口にしたときのように、歪む。
「周りを気にしてるとか、俺が芸能人だからって理由なら、少し悲しい」
あぁ、ほんとにその通りだ。
私は今まで何を見てたんだろう。
目黒さんの。
自分自身の。
今やっと、目の前の自分自身と向き合う。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。