第17話

ログイン16日目
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2022/03/19 15:19
舐められた????



私の脳内を瞬時にその事実が埋め尽くす。彼が今、私が流した涙を舐めたと言う事実が。思考が停止すると言うのはこう言うことなのかと思った。



だけど思考が停止したからと言って決して冷静になれたわけではない。寧ろ、驚いてしまって尚更冷静さを失っていると言っても良い。



何故彼はこの状況下、私の涙なんぞを舐めたのか。それをして何になるのか。真意は目の前の彼にしか分からないことだ。



彼は再び私に顔を近付ける。この微妙にぶつかりそうでぶつからない位置で止まっている辺り、相当狡いと私は思う。いっそのことぶつかった方がスッキリするようなこそばゆい近さだった。



その時だった。なんとかぶつからないようにとしているために段々と首が痛くなってくることに気付いた。だけど、この体勢から動くわけにはいかない。彼との距離が0センチになることだけは避けなくてはならない。



私の初めては……いつかできるパートナーに捧げるって決めてるんだから…!!
海山あなた
(が、頑張って耐えて私…!動いちゃいけない…!)
必死に動くまいとする私を見た彼は、不機嫌そうに目を細めた。何か彼の機嫌を損ねるようなことをしてしまったらしい。冷や汗が出る。



「何よ」と言っているつもりでジトリと彼の目を見ると、彼は怒っていると言うより…どちらかと言えば悲しそうな表情で言った。
承太郎
そんなに俺とキスするのがいやか…?
そう言いながら、声が尻すぼみしていった。急に捨てられた子犬みたいになったので一瞬たじろいでしまったが、流されないようにグッと踏みとどまった。
海山あなた
あ、…当たり前でしょ…!恋人でもない人と…!
これが私の精一杯の抵抗だ。これ以上は無理だ。怖過ぎるし何より冷静さを失っている今、まともに言葉を紡げるわけがない。



居心地の悪い空気感が嫌で、彼から目をそらした。いや、正直に言ってしまうと、私が目をそらしたのはこの空気が嫌だからではない。彼の反応を見るのが怖かったからだ。



ここまで彼の表情が変わったのを見て来たが、どれも怖かった。明らかなる怒り、狂気が丸出しだったから怖かった。それを見たくなかったんだ。



彼はただひたすら無言を貫いた。だが、オーラはさっきまでと全く違う。



さっきよりも更に恐ろしいオーラが出ていた。怒りなんてチャチな言葉では到底表しきれないような、今にも噴火しそうな憤怒がヒシヒシ伝わってくる。



私の精一杯の抵抗は、全くの逆効果だったことをこの瞬間悟った。

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