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彼氏である御影玲王は非常にモテる。顔がいいことは当たり前として、頭脳明晰、スポーツ万能、社交的。女子からはもちろん男子からの人気も非常に高い。思いを寄せる女子も少なくない、もちろん私もその一人だった。
私なんかより魅力的な子たちは沢山いるはずなのに、なぜ私を選んでくれたのか未だに分からなかった。それでも彼のそばにいれることが嬉しくてずっと聞かずにいる。
パレットナイフでパレットから色を拾ってキャンバスの上で素早く伸ばす。
いつか見た夕焼けに染る河川敷。川の流れる音、葉のざわめき、運動部の掛け声、電車や車の音。いつかの記憶を呼び覚ましながら、見たまま、聞いたまま、感じたままをキャンバスに描く。
もう使われていない小さな第二美術準備室。1年の時に顧問と相談して部活時間以外の作業にこの準備室を使わせてもらっている。鍵は持ってていいと言われたし、この準備室の鍵を持っているのは私と顧問だけで、いわゆる信頼関係と言うやつだ。
コンコンコン、とノックの後にドアの開く音と同時に声が聞こえた。ちなみにだが、この部屋で昼休みに作業をしていることは顧問と他部員数人しか知らない。その数人にもちろん玲王は含まれている訳であり。
玲王によって開放されたドア枠にもたれかかって腕を組む姿が非常に絵になって悔しい。その姿をスケッチブックに収めたい衝動を抑えてパレットを袖の机に置いた。
「そんなとこ突っ立ってないで入れば?」と言えば、もちろんと言わんばかりの表情で準備室に足を踏み入れる。ドアを引いて入口を閉める。キャンバスに向けていた体を横の入口の方へと向けた。
片手で両手をまとめて椅子に座る私の足の上で固定し、もう片方の手が頬に添えられる。額に瞼に頬に首筋に唇に、一瞬首筋に痛みが生じた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。