岡本side
俺が駆けつけた時、宮城は意識を失った
トイレの前で、真座から崩れる様な座り方をしていた宮城は、青白い顔だった。
スーツの下から見える青白い鳥肌が、俺の心を乱す
すぐさま駆け寄ると、宮城の苦しそうな呼吸音がする。ゼーゼーハァハァ言う宮城。
最初の元気は見る影もない。
額を汗で濡らし、クルクルとした癖っ毛が張り付いている。
額に付いた髪の毛をどかせていった。眉毛に触れた時、瞼がピクリと動いたが目を開けることはなかった。
宮城の状態の悪さを知ったところで、この姿勢では息がしずらいだろうと思った俺は、宮城のお腹部分に右手を、首筋に左手を置き、正座の姿勢にさせた。
正座だと足が痺れてしまうから、足を開かせる。
トイレの中を見た時、あぁこれは吐いたんだなと分かって、宮城の口をトイレットペーパーで拭き、吐瀉物を流した。
そして二人を閉じ込める形でドアを閉めた。
俺らは有名人。ここではそうじゃないかもしれないが、これのせいで他に響いては困るからな。
と言っても、この臭いで気付かれてしまうかもしれないが。
俺は伏せてる宮城の隣に座り、小刻みに背中を叩いた。
時には背中を摩ったり、頭を撫でたり。
そんなことを繰り返した。
そしてあることに気がつく。
宮城の襟元に蕁麻疹の様な症状が出ていたのだ。
以前、翔さんにストレスの相談をしていた事がある。
あれはキャプテンになり始めた頃だったな。
翔さんって経験豊富だし、そこら辺に居たしで正直ちゃんとした理由はないけど、話さないよりかはマシだと思って。
中田『ストレスって気づいてるうちはマシ。それを酷使して、蕁麻疹とか過呼吸、痙攣、熱とかになったら体がギブになってるサイン。
そんなんなったらすぐに引き上げないと、体と心が壊れる。キャプテンなったから、物事に責任が伴うが、まぁ不安になったら相談またせいや』
そう言って翔さんは笑ってくれたけど、
今の宮城の状態だとアレルギーというより、ストレスって事だよな?…
俺の不安はより一層大きくなる一方だった。
その時、宮城が目を覚ました。
俺が考えている間も背中を叩いていたせいか、宮城は吐き気で出してしまった。
苦しそうな宮城を励ましながら、必死に撫でる
苦しさから涙をこぼす宮城。
いや、むしろ吐いている事に涙をこぼしている様に見える。
手からの汗が凄い。
握られていた俺の片手は、もう水浸しだ。
これはストレスが原因で間違えなさそう。
何がきっかけは分からない。昔の出来事が関係しているのだろうか。
そう言えば昔、宮城はいじめを受けていたという話を聞いたことがある。
侍ジャパンとして一緒に戦っていた時、由伸が
『宮城ってすっげー姫だけど、昔話は真っ黒ですよ。周りの奴らの対応に、こっちが腹を立てるくらい。気味が悪いものばっか』
そう教えてくれた。
何があったのか、周りの奴らがクソみたいということしか教えてくれなかったから、なんとも言えないけど。
もしかしたら、そのいじめ内容が今回のこの原因になっているのかもしれないな。
苦しそうに吐く宮城
顔が涙と涎と吐瀉まみれだ。
そんな宮城を俺は撫でることしかできなかった。
トイレの近くのソファーで休憩していた俺ら
宮城の頃が良くなるまで一緒に居ようとしていたのに、宮城は帰れと言う。
いや、帰るわけないやん
こんな宮城置いてくやつおる?
俺は少なくともそんなことはしたくない。
してくる人がオリックスにいるのかと考えていたら、声がどうやらそのまま出ていた様だった。
宮城は俺の膝にペチンと手のひらを重ねて、俺をまっすぐ見た。
嘘偽りのないこの目が宮城の思いを伝わせてくる
訴えた宮城の目はウルウルとしてて、同じ男とは思えないくらい可愛かった。
そりゃみんな大事にするよなー…
そのまま静かにしていくらか経つと、宮城から息の音がして来た。
フラフラと頭を動かして悪いと思ったらから、肩の上に置いた。
肩から宮城の寝息が聞こえてくる。
覗き込む顔の色は戻っており、安定したかなって感じ。
一応俺は宮城を家に返すつもりだけど、起きなかったら場所が分からないから
宮城のスマホからいい感じの人を選んで電話をした。
プルプルプルプル…ガチャ
あの反応はそのせいだったのか
宮城の状態は良くはない、さっきよりかはマシだろうけど…
なら、理解してくれる人が近くにいたほうが楽だろう。
ガチャ
とりあえず、次することは決まった。
あとは宮城を京セラに送るだけ
だけど…
久しぶりに会えたのに…
もっとわちゃわちゃしたかったんだけどな…
そう思っても仕方ないので、宮城を担ぎながら車に向かった。
宮城を後ろの席に横にして置く。
近くにゴミ袋と水の入ったペットボトル。
窓を開けてなるべく酔わない様にした
車を出して、体を揺らしながら京セラまで向かった。
なるべく早く着くために、時速をギリギリまで出して
頭の中に明日の試合なんて入ってなかった
ただひたすらに宮城の事を考えていた
手を振りながら近づいてくる山岡さん
後ろの車のドアを開け、宮城を出した
出てきた宮城はゆっくりと目をあけ、こちらを見る
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その2日後、宮城は登板し、完封したそうな…
言えることは、リーグが違う方良かった…と言うことだった。
オリックスの投手陣の強さに、バッターの俺は日々、震えながら練習する。
恐ろしい球児が出て来たもんだ…
終わり
作者から
短編ってなんだろ
文ってむずいな
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。