前の話
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目まぐるしく巡った昨日から逃げるべくして迎えた次の日の朝。
かといって寝起きが良いものとは言えない。
にこにこと目を細めて喋る目の前のハイエナ、
「の」人獣。
片手には、熟睡中の獣を起こす情景には似合わない物騒な槍が握られていて。
折角の至高の時間を少しでも短くされたのが気に食わず、ガルルルッとぐちつぼに唸ると、ぺしゃりと何も持っていない方の手で軽く打たれた。
"遠征"という言葉に思わず息が詰まる、
いや、でも、それは明日のはずじゃ……
思わず二段ベッドという事も忘れて、身を乗り出して飛び起きる。
二人、身を翻して石床に着地するもまだ眠気は一向に取れない。
そんな俺を見かねてか、ぐちつぼがこちらに荷物をぽいぽいと投げてくれた。
身分昇格の時のお金を叩いて、なんなら少し足りなくて、仲間が少し出し合って買ったこの皮鞄、荷物を入れば少しずつ見た目も重くなってきて。
着替えに医療セットに本や寝袋、
すべての荷物を入れ終わる頃には、見た目だけは重量感のある鞄が形成された。
ぐちつぼが八重歯を見せて笑う。
その差し出された手のひらに勢いよく自分も手を伸ばし、いい音を鳴らしてハイタッチを交わした。
扉を叩き開けて、しっかりとスタートダッシュを決めると、風になびくマフラーを巻くのに苦戦しながらも、らっだぁは城内をかけていった。
それが一昨日の事。
混乱する心情をかき消すように必死に自分の居場所であった、只今激戦地と化している城へと続く焼けただれた街を走った。
実際は遠征はあと数日の猶予があったのだが、緊急事態ということで、ともに遠征に出ていた上官の判断で遠征地から俺と二人、城までの尋常じゃない距離の陸路を疾走してきたのだ。
城の近くには俺たち親衛隊の宿舎、なんなら親衛隊の俺らは実践では駆り出される予定だった。
でも実力者のその多くは遠征に駆り出されている、
つまり、
"見習いの新兵でもこの戦場に駆り出されている可能性がある”
変な考えを振り切るためにデタラメに足を動かしていると、疲れの蓄積のせいかスピードがガクンと下がる。
突如、上官の方へ体が引っ張られて体感がぐらつき、立て直せず勢いそのままで俺は上官に倒れ込んだ。
ドサッ!
急いで上官の上からのいて、「すいません」と頭を下げる。
と、言い終わる前に、バシッ、と上官が俺の肩を叩いた。
そう言うと上官はまた更に俺の肩を押す、俺が後ろに下がると、腰から剣を引き抜いた上官は立派な狼の耳を立てて、遠吠えを一鳴きし、その尻尾を揺らしながら目にも留まらぬ速さでかけていった。
立ち止まるな、
そうだ、これは戦争なんだ。
訓練とは違って慈悲なんてない。
城まで後もう少し、すがるような思いで俺はマフラーを握りしめながらすでに棒になった足を必死に動かした。
振り上げた拳で、何度も何度も人間の急所を狙う。
防具もなにもない生身の拳は、筋肉や骨を叩き割る感触をなんとも不格好に脳に伝える。
時折、殴りすぎて割れた頭蓋骨から飛び出た血液を眼前に受けたが、そんなことを気にしていられない。
石造りの廊下に転がっている敵か味方かもわからない凄惨な死体の数々。
鉄錆のような異臭が漂う城内を、時折現れる敵を蹴散らしながら王室を目指す。
初めて感じる人を殺める感覚と、気色が悪い生暖かさ。
吐き気を催す、自分が片付けた肉片から逃げるようにも、俺は走る速度を上げた。
この通りの先には王室、はやる思いで扉に駆け寄った時だった。
か細く聞こえた同期の声。
扉を叩き開けるとそこには
血濡れたという表現がお似合いな、なんとも血なまぐさい光景。
白い大理石に飛び散った血液は、床にも壁にも満遍なく広がっている。
戦争を何度か見たことがある俺でも、目を逸したくなるような惨状。
それが仲間のなのかなんて考えたくもなかった。
玉座の後ろで腰を抜かしていた王が、こちらに手当り次第に物を投げつけてくる。
いや、今そんなことはどうだっていい。
唇を噛み締めながら、怒りを殺して王を見る。
すると王はにやりと口角を上げてこう答えた。
当たり前、とでも言うように王はそれだけ言うと「はやくワシをこの国から脱出させろ」とこちらに向かって歩いてきた。
途中、俺の仲間の頭を蹴って。
自身のニット帽をとり、先程頭を蹴られた同期の顔に乗せる。
誰だって死に顔を見せびらかされたくないだろうから、
ごめんな、お前は誰よりも笑顔が似合うやつだったのに。
最後に何を見たのかも語れぬ血がこびりついたその死に顔は、きっと俺たちが過ごしてきて一度も見たことがないほど引きつっていた。
そして彼の内蔵が開かれた体にも、自身のマフラーを軽く乗せた。
俺にはこれしかできない、
ごめんな。
軽くまぶたを閉じて祈りをしていれば、
王の怒鳴り超えが部屋に響く。
一際重なり合った死体を横切った時だった、
小刻みに痙攣している手が、重なり合った死体の中で微かに動く。
そう言って俺はそのもう異臭のしはじめた死体にかけよった。
瞬間、
俺の頭頂部に走る鋭い痛み
殴られた、と気づいた時には既に流血しており、ぽたぽたと血液が落ちてゆく。
そう叫んで王は俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
だんだんと強くシャツを握る王の形相に、どうにかして仲間を助けられる方法がないか必死に頭を回す。
まずは王を鎮めて早くこの場を去らなければ、そう思い話しをできるだけ合わそうとした時だった。
不意に、王が地面で既に虫の息となったルイに指を向ける。
そう言って王は返り血に染まった顔で俺ににっこりと笑いかけた。
ぶわっ
途端、体内を駆け巡る黒い感情。
俺は迷わず衝動に身を任せて王を床に投げ飛ばす。
面白い程遠くに飛んだ王の元に、わざとらしくゆっくりと移動して詰め寄る。
その間も、王は腰を抜かしたようで間抜けにも、騒ぎながらひっくり返った亀のように這いつくばっていた。
近づくに連れて曇っていく王の表情も虚しく、俺は王の顎を掴んで床に押し付けた。
顎を押したまま仰向けになった王の上に乗ってやれば、見えるのは不規則に動く喉仏。
そこに牙を剥き出した口を近づけてやれば、「ひいっ…」と王はバタバタと暴れた。
バキャリ、
そんな無機質な音がした後に、
数回王はビクビク震えると急に動かなくなった。
溢れ出るたくさんの赤。
口に残る鉄の味、
ピンとたっていた耳が痛かった。
不意に襲ってきた安堵と開放感と、倦怠感。
ソレを振り払うように、俺は適当に右袖で自らの口元を拭った。
返事こそは無かったが、トン、と彼は指で床を一回小突いた。
そこら辺の、カーテンのレースやらを破り、清潔そうな布で傷口を結んでいく。
白かった布はあっという間にじわじわと赤が滲んできて、彼の傷口の深さが伺えた。
腹部の傷が想像よりも深く、強く布を結ぼうとすぐに血が浮いてくる。
ある程度処置はしたし、そろそろ長いするのも危険かと思い、まずは移動しようと、ルイを背負ったときだった。
振り返ると、暗いローブを羽織った男が、王の死体を舐めるように見ていた。
どこから入った、敵か、どう逃げる、言い訳できるのか、ぐるりと思考が回るが体は男を殺そうとふつふつと体温を上げていく。
問いかけると、男は簡単にこちらに振り向いた。
奇妙な面をつけた男は王の死体と俺を見比べ、軽く小首をかしげる。
ルイを背負いながら、男に自分の爪を見せしめ威嚇する。
ガルルル、と軽く唸ると男はくすくすと笑った後、俺にこう言い放った。
ぶわり、と全身の毛が逆立つ。
まさか思いもしなかった。
このあとの安易な選択のせいで、
あんな光景を見せてしまうことになるんて_____。
第一幕 序章 幕開けは戦火と共に。
おわり。
どうもこんにちは。
ひつじです。
rd運営の小説つくりました。
よかったらご賞味ください。
設定とかは後ほどまた載せます。
消えたらごめんなさい。
もしよければ宣伝などもお願いしたいです!
基本rd運営さん中心の建国話です。
あまり詳しくはありませんが、自分なりに肉詰めして考えていこうと思っております。
一体knさんは誰なのか、
rdはなんの選択を間違えたのか、
それらはまた次の小説にて。
閲覧ありがとうございました。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。