しまった。
一度も舞桜の様子を確認せずに1人で突っ走って来てしまった。
そう言いお金を取り出して見せると安堵の笑みを浮かべる。
よほど心配だったんだろう。
ここでも普通に自販機はあるんだな、、、。
舞桜は何がいいかな?
紅茶?いや、今はスポーツドリンクの方がいいか。
待って、投入口ないんだけど。
え、どうすればいい?
こんな事ある?
わけが分からなくなり混乱していると、とある言葉を思い出す。
「何かあったらゲームマスターと呼んで。」
軽く発したその瞬間、ずっとそこに居たように声をかけてきたのだ。
音声ではなく、はっきりとした人物として現れた。
それを驚かない人がどこにいるんだ。
そんな質問はどうでもいい、と心を落ち着かせる。
話すより先に聞かれてしまった。
別になんの損得もないが。
と内心思いながら、言われた通りお金を入れずにボタンを押す。
ガタン
…
…
本当に買えてしまった…
万引きをした気分で心地が悪い。
奴の仮装世界だと思っていてもなんだか、うん。
しかし、買わなければこの世界で脱水症状を起こして死んでしまう。
仕方がない、と言い聞かせて重い足取りで戻って来た。
差し出したスポーツドリンクを奪い取るように手にし、
1秒でも早く飲みたい、とでも言うように必死にキャップを回している。
しかし、力が入らないみたいで一向に開く気配はない。
開けれなかったことを恥じているのか側を向いて礼を述べる。
次の瞬間、酒場のイッキコールがかかっているかのようなスピードで飲み出す。
そんなに乾いてたなら言ってくれればよかったのに。
それを言い出せないくらい自分勝手に走っていたのは俺だけど。
その時、チラッと視界に映った。
水溜り。
この人気のない街、、、参加者しかいないこの街で一箇所だけ濡れている。
雨は降っていない。
完全に人為的。
恐らく参加者の誰かが道筋を伝えたんだと思う。
または陽狼の仕組んだ罠。
人気の少ない路地裏に導いて殺す可能性だってゼロとは言えない。
どちらにしろ、行く価値はありそう。
マジで慎重に行かなきゃだけど。
声をかけようと舞桜の方を向くと、空のペットボトルを持っていた。
飲み干したことに気づいていなかったようで、
自分でも衝撃を受けてあっけらかんとしている。
表情豊かで無邪気で繊細で、、、ほんと、
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。