第8話

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2023/07/29 05:04
太宰治
…あなた……
あなた
はい
太宰治
悪いけど遠出の依頼に向かうことになった。だから暫く帰れない。
あなた
…はい。



太宰治
でも、勘違いしないでね。
太宰治
逃げるなんてゆるさない。
次はないよ。
あなた
……はい。

逃げる…か。


最初の頃はちゃんと逃げる計画を立てていた。



でも相手が太宰さんならば逃げることは出来ないことくらい、流石に私も学んでいた。

だからそんなこと、頭の隅にも考えていなかった。



最近はホント、ただ混沌とした中に
浸っているだけでとくに何かしたいとか
やりたいだとかの気力さえ沸かない。


太宰治
行ってきます。
あなた
いってらっしゃい……
ガチャン
扉が閉まる音と共に、太宰さんはこの部屋から出た。





今は太宰さんも居ない。
自由。もうこれは自由ってことじゃないのか。
だって彼が居ない。
私は痛い思いに晒されない。




例え、鎖で手と足が繋がれていても、
今は…今だけは彼から自由だ。




あなた
はは、はははは
あなた
幸せ、幸せね。
だって、私は今だけは痛い思いをしなくていいんだもの。


あなた
辛くもない。











あなた
辛くない……
私の頬に涙がつたった。


あなた
なん…でッ…?なんでこんなに…怖いの?


あなた
躰が震えるの…?







あなた
なんで…?
頭痛がする。痛い…痛い……。
虚しさが私を侵食していくみたいで怖い。


寒くないのに躰が震えている。


あなた
なんッ………だ、誰か……



誰でもいい。


私の側にいて。
暖かさで私の不安を消し飛ばして。








おねがい…おねがいだから……
だれか…わたしを……わたしに……
あなた
だざいさん……


だんだん意識が遠退いていって、
間もなく私は意識を飛ばした。



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