逃げる…か。
最初の頃はちゃんと逃げる計画を立てていた。
でも相手が太宰さんならば逃げることは出来ないことくらい、流石に私も学んでいた。
だからそんなこと、頭の隅にも考えていなかった。
最近はホント、ただ混沌とした中に
浸っているだけでとくに何かしたいとか
やりたいだとかの気力さえ沸かない。
ガチャン
扉が閉まる音と共に、太宰さんはこの部屋から出た。
今は太宰さんも居ない。
自由。もうこれは自由ってことじゃないのか。
だって彼が居ない。
私は痛い思いに晒されない。
例え、鎖で手と足が繋がれていても、
今は…今だけは彼から自由だ。
私の頬に涙がつたった。
頭痛がする。痛い…痛い……。
虚しさが私を侵食していくみたいで怖い。
寒くないのに躰が震えている。
誰でもいい。
私の側にいて。
暖かさで私の不安を消し飛ばして。
おねがい…おねがいだから……
だれか…わたしを……わたしに……
だんだん意識が遠退いていって、
間もなく私は意識を飛ばした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。