共有スペースに設置してあるソファで
気分転換で爪にマニキュアを塗っていると
後ろからダリくんに声を掛けられる。
コトッ
手に持っていたナイトシェード色の
マニキュアを机に置き、彼の方に
体を向け視線を合わせる。
週末日真っ只中な為、仕事は無い筈だし、
特に問題を起こした記憶も無いが、教師統括
に声を掛けられる位だ。
何か彼の気に触る事をしてしまっただろうか
と少し不安と焦燥感に駆られる。
何とかポーカーフェイスを保っていますが…。
…心配して損しました。
けれど「狡い」と子供の様に拗ねている彼
彼を少しだけ可愛いと思ってしまう。
これがギャップと言うヤツだろうか?
オリアスくんのoffモードも中々だけれど。
そう聞くと、彼は満足気に心地よい
テノールの声で僕にこう言った。
「je prendrai ton temps」
彼は薄らと飴玉の様なウォルナット色の
目を開き、口は綺麗な孤を描いて
まるで拒否権なんて与えないと言っている様に。
綺麗な表情には裏が有る。
君にはきっとピッタリな言葉じゃないかな。
その言葉が合ってしまう君は恐ろしいね。
それですら自分の魅力にしてしまうのだから。
ピラッ
彼が手に持つアクアケースのチケット
を手に取り、その誘いを承諾すると、
彼はまるで玩具を手に入れた子供の様見えた。
それ程嬉しいのだろう。
チャリッ
渡されたピアスはまるで、あなたの下の名前の髪色
に良く映えるゴールドの綺麗なピアスだった。
僕のと言う印を付けておきたい。
折角得たあなたの下の名前先生と僕の時間を
変な輩に邪魔されたく無いから。
チャリンッ
彼にピアスを付けて貰ったのは良いが
彼は其の儘動かなくなってしまった。
彼は一体何を思っているのだろうか?
レヴィちゃんが経営していると言う
レジャー施設のアクアケースに着いた。
彼女が言うには此処は水族館件プールらしい。
各自更衣室へと向かい、水着に着替えに行く。
■数分後
水着に着替え終わって、更衣室の
外へ出ると、ダリくんが可愛らしい
女性3人に話し掛けられているが、
「恋人が居る」と理由をつけて断っている。
君の恋人になった記憶は無いのですが…。
僕が来ると、彼の周りに居た女性は
颯爽と何処かへ行ってしまった。
僕の水着は何にしようか迷った
結果、ライムちゃんに捕まって
彼女の着せ替え人形になった。
2人で試行錯誤した末に、肩を片方だけ出した
ボルドー&エソプレッソ色のワンショルダー
ビキニになり、デコルデラインが強調されている。
肩の所にリボンが有るだけのシンプルなデザイン
だが、それが余計に彼女の美しさを引き立てる。
彼が指をさした先にはウォーター
スライダーが有った。
最初に行く所が決まり、滑り台
の所へと軽い足取りで向かう。
何せ初めて来たのだ。
楽しく無い筈が無い。
スタッフから、魔鰐くんに乗って
下まで滑るのだと説明をして貰った。
魔鰐くんは水が大好きで、
どうやらスピードも速いらしい。
彼の言う通りに前に座り、後ろから
彼の腕が回されギュッと抱き締められる。
何もそんな強く抱き締め無くとも...。
ゴォォオオ
バッシャア
速いとは分かっていたが、
想像以上のスピードで驚いた...。
其の儘の勢いで放り投げられ
てしまった為、全身ビショ濡れだ。
サバァ...
水から上がると、目線の先に
入間くんとアメリちゃんが居た。
真逆、週末日でも生徒に会うとは。
ははーん。成程そう言う事ですか。
入間くんは普通のお出掛けと思ってて、
アメリちゃんは逢い引きと思ってるんですね。
そんな動揺して何とも分かりやすい。
そう言って、彼等に見せ付ける様に
僕の肩を自分の方に引き寄せる。
勘違いされたらどうするんですか...。
入間はアメリに腕を引っ張られて行ってしまった。
彼は何時、彼女の気持ちに気付くのだろうか?
単純な疑問を口に出しただけだったが
彼には違う様に聞こえてしまった様だ。
この儘だと、深くまで言及されそうだったので
少々強引にパフェの話題へと変え、彼の手を
引っ張って連れていく。
その時の彼の顔は見ていなかったが、僕
自ら手を引っ張った為嬉しそうだった。
案外、ダリくんは単純なのだろうか?
思わず口に出る所だったが、飲み込む事にした。
言ってしまったら同じ様な事になるのでね。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。