※紫桃
付き合ってる
桃くん入院中
~いるまside~
俺の彼女、らんは難病に侵されている。
昔はそこまで酷くもなく、二人で遊んでいたものだ。
いまや、記憶が薄れている程には遠い記憶となってしまった。
毎日個室で寝たきりの多いらんに、俺は毎日会いに来ていた。
大抵適当な雑談をしつつ、らんの世話をすることが俺の日課だ。
…ただし、最近のらんは吐き気が酷く、全く持って食事に手を付けていなかった。
点滴が日々増えていく姿は、あまり見ていたいものではない。
そんならんが、である。
意味を理解するのに遅れた。
だが、少し申し訳なさげならんの表情を見て、すぐに意識を取り戻す。
危ない。あまりの嬉しさに意識が飛んだなんて言えねーな。
一瞬で病室から売店へと走る。
途中で誰かに怒鳴られた気がしたが、あとで謝ればいい。
今は、らんに食事を届けることが第一だった。
久々に見るらんの満面の笑みに、財布の有り金全て叩いた甲斐があったと感じる。
らんの好物名いっぱいを机に広げると、らんは嬉しそうに口に運んだ。
らんは一生懸命に食べ物を食べる。
噛む姿も、飲み込む姿も、何もかもが久々のような気がして。
らんがちゃんと生きてる証拠を見れた気分になれて、涙が出そうだった。
まだ数口食っただけ。
だが、限界だとも言いたげにらんの腕が下がっていった。
所詮「あーん」と言われるものを、何度もらんにやる。
そのたびに、らんは幸せそうな顔をしてもぐもぐと食べた。
そういやこういうの初めてだな、なんて今さら実感する。
付き合い始めたころには恥ずかしさでなかなか恋人らしいことをしてやれなかった。
…それを後悔したときには、既に病がらんの身体を侵食していたのだが。
あまりにも真っすぐな目で言うものだから、つい照れてしまう。
俺一応彼氏なんだけどな…
らんの腰を抱いて、唇を重ねる。
久々だからか、らんの唇は少しかさついていた。
病人だから軽く触れる程度にして、顔を離す。
目の前には、顔を真っ赤にした可愛い恋人がいた。
そう甘い声で言えば、すぐにらんは堕ちてしまう。
そう言ってらんは横になり、すぐに寝息が聞こえてきた。
その間に俺は、らんの食べかけを片したり食べたりと処理をする。
パッとらんを見ると、安心したような表情で眠っていた。
…らんはいつまで生きるのだろう。
完治する治療法はないと、医者から聞いたことがある。
そして、長生きする可能性が高くないということも。
それを考え始めると、自然と気分も下がってしまった。
…やめろ、いるま。辛いのはらん。俺は、らんを支える以外に選択肢はない。
そう自分に渇を入れ、俺はまたらんの食べる姿を目にすることを願った。
生きてる姿を見る時が、俺にとっての最高の時間だから。
看護系?入院系?の話って良いな…と思い始めました。主です。
現実と違う部分あったらすみません。
では、また次の物語で!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。