ポートマフィアである以上、
私は“死”を身近な存在に感じていた。
だから、自分で死ぬ覚悟だって出来ている。
それは、中原幹部や
首領に忠誠を誓ったときからずっと。
だけど、今も私の胸に残っている
モヤモヤとしたもの。
その霧を完璧に晴らすことは出来ない。
だけど。もし死ぬのなら、
この想いを彼に伝えてからにしたい。
乱歩さんに会いたい。
例え、叶わなくても構わない。
言えずに死んでしまう方がよっぽど辛い。
私は乱歩さんの連絡先を選択し、電話をかけた。
彼は電話には出てくれなかったけど、
「もう一度だけお会いしたいです。
ヨコハマの港で待っています。」
という留守番電話を残し、
携帯端末を壊してその場に捨てた。
これで携帯端末から
位置情報がバレる心配はない。
私は乱歩さんとの待ち合わせ場所に
指定した港へと足を進めた。
ヨコハマの港に着くと、
見覚えのある人影があった。
本当は、来てくれないんじゃないか。
そんな考えさえ浮かんでいたのに、それを眩い光で打ち砕くかのように彼は真っ直ぐ私を見つめていた。
本当は言いたいことや話したいことが沢山あったのに、上手く言葉に出来ない。
私は彼に視線を合わせることさえ出来ず、
自分の足元を見詰めていた。
彼が言ってることは正しい。
私は彼に会うべき人間じゃない。
でも、もしここで気持ちを伝えなかったら
折角彼に会うと決意した意味がない。
私は覚悟をもって自身の口を開いた。
私の問いに対し、乱歩さんは何も言わない。
私はそれを了解の意と捉えて話を続けた。
私はその言葉を伝えると、彼に背を向けた。
言い逃げだなんて、酷いやり方かもしれない。
だけど…彼と結ばれないという事実は
変わらないのだから、こうするしかない。
そう思って走り出そうとした、その時だった。
不意に、彼に腕を掴まれた。
その所為で逃げることは叶わなくて、
それでも彼の美しい瞳で見詰められるものだから
私の心臓は五月蝿い音を立てていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。